第4話 早坂中隊(早坂崇雄大尉)

 日本兵の集団が進んでいる。

『早坂中隊(仙台若松歩兵第29連隊早坂中隊)』である。

兵士達は、無傷の早坂中隊長の周囲に隠れて居る。


 早坂「おい、無駄撃ちするな。敵に位置を知らせるぞ!」

 兵士達「はい」


高橋軍曹(高橋竜吉)が木陰から中隊長の傍に転がって来る。


 高橋「中隊長、この方向を進んで良いのでしょうか」

 早坂「この方向? ・・・野村、来い」


野村伍長(野村晋介)が、


 野村「はい!」


葡匐で中隊長の傍に来る。


 早坂「今の位置は?」

 野村「は!」


野村伍長は図嚢カバンを開け、地図を中隊長に見せる。


 野村「今、多分・・・この辺に居るはずです」


地図を凝視する中隊長。


 早坂「飛行場までもう直ぐだな。よし、斥候を二人出せ」

 野村「は!」


野村伍長が急いで木陰に隠れる。

近くの木陰に佐籐上等兵(佐籐 勇)と菅井上等兵(菅井信次郎)が伏せている。

野村伍長が小声で、


 野村「佐籐、菅井、斥候に行け。先を見て来い」


二人は片手を挙げて野村伍長に応える。

ジャングルの奥へと葡匐で前進して行く佐藤上等兵と菅井上等兵。


 岩陰に中隊長と渡辺二等兵(渡辺悟一)が隠れて居る。

中隊長が小声で、


 早坂「おい。あれから二日目だな」


渡辺二等兵は銃を構えながら、


 渡辺「いえ、三日目です」

 早坂「三日?」 


中隊長は渡辺二等兵をチラッと見て、


 早坂「・・・腹が減ったのう」

 渡辺「いえ」


中隊長が渡辺二等兵の尻を蹴る。

渡辺二等兵は驚いて、


 渡辺「はい! 減りました」

 早坂「キサマ、糧秣(リヨウマツ)は有るのか」

 渡辺「いえ、失くしました」


中隊長は小声で厳しく、


 早坂「バカ者!」

 渡辺「はい、すいません」

 早坂「弾とメシとどちらが大事か!」


渡辺二等兵は銃を構えながら、


 渡辺「はい、たぶんメシであります!」


中隊長がきつい目で渡辺二等兵を睨む。


暫くして斥候の佐籐上等兵と菅井上等兵が戻って来る。

二人が中隊長の傍に葡匐で近寄る。

佐藤上等兵が、


 佐藤「報告します!」

 早坂「うん・・」 

 佐藤「此処から一キロ先に飛行場は見えません」


中隊長は怪訝な顔で、


 早坂「見えない? 野村、来い」


野村伍長が中隊長の傍に転がって来る。


 早坂「おい、もう一度、地図を見せろ」

 野村「は!」


図嚢から地図を取り出し中隊長に渡す。

中隊長は地図を開き、方位計を胸ポケットから取り出し地図上にあてる。


 早坂「・・・おい」

 野村「ハイ」

 早坂「この方位計は合ってるのか?」


野村伍長も自分の方位計を取り出し地図の上に載せる。


 野村「間違いないと思います」

 早坂「地図が間違っているのか?」


野村伍長は答える事が出来ない。


 野村「・・・」

 早坂「いったい俺達は何処(ドコ)に居るのだ」


ジャングルに鳥の声が木霊(コダマ)する。

中隊長は佐籐上等兵と菅井上等兵を見て、


 早坂「おい、キサマ等、敵と会わなかったか」

 菅井「会いません」


中隊長はボソッと、


 早坂「孤立したか」


野村伍長は地図を見ながら、


 野村「戻りましょうか」

 早坂「モドル? 何処へ」

 野村「もと来た場所へ」


中隊長は少し考え佐藤・菅井の両上等兵に、


 早坂「オマエ等、もう一度戻って友軍を捜して来い」

 二人「はい!」


中隊長は宙を睨み少し考え、


 早坂「全員集まれ!」


兵士達が中隊長の周りに転がって来る。


 早坂「孤立したようだ。斥候が友軍を捜しに行っている。今夜は此処で夜営だ。全員、糧秣を出せ」


 兵士達「はい!」


兵士達は岩陰で背嚢をといで糧秣を取り出す。

中隊長は周りの兵士達の顔を見回し、溜息まじりで、


 早坂「・・・これで何日持つか」


兵士達は俯(ウツム)いてしまう。

                     つづく

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