第3話 残された鉄帽

 腕を飛ばされた負傷兵は突然立ち上がり、何も無かったかの様に銃を構えて走り去って行った。

ジブンとオガタは顔を見合わせた。

腕に触れた魂は、負傷兵の腕に『再生』したのか、『殻の鉄帽』を残して、既(スデ)にそこから消えていた。

自分は思った。


 「そうか・・・。 オレ達は力は無い。しかし負傷兵を再生する事が出来るんだ」


それを観ていたオガタは驚いて、


 「日下さん、オレ達はまだ戦えます。入れ変われば良いんですよ」


 暫く進むとジブン達に気付いたのか、ヤシの木陰からか九基の「鉄帽の魂」が集まって来た。

ジブンは彼等を観て笑って迎えた。

集まって来た九基はまるで『仏の様な表情』であった。

九基の鉄帽の魂はジブンの話を聞いて戸惑いを隠せない様子だった。


 ジブン達は負傷兵を求めて、上陸した砂浜を歩いた。

日本軍の強行上陸はすべて終わっていた。

砂浜には波の音と風の音しか聞こえない。


 何処(ドコ)からかブルドーザーのエンジンの音が聞こえて来た。

見ると遠くで米軍が日本兵の死体を処理している。

ジブン達は急いで椰子の木陰に隠れ、死体を見ていた。

そこにはジブン(日下勇作)の死体が有った。

暫くすると四機のブルドーザーがジブンの死体をバケットに押し込んで、穴の中に放り込んだ。


 「まるでゴミだ・・・。二二年生きて輸送船で九死に一生を得、ようやくこの目的の島に辿り着き、そしてゴミ(不条理)になる。・・・何て事だ」


穴の中にはまだ息のある負傷兵が見えた。


 「生き埋めだ。もう少し早く『この事』に気付いていれば、オレがアイツの命に変わってやれたのに」


ジブン達、十五基の鉄帽の魂はジャングルの中に入って行った。

ジャングルの中では、日本兵の「合言葉」が飛び交っている。

迫撃砲弾が異様な音を引いて数メートル範囲に着弾する。

折れる樹木、飛び散る肉片、叫ぶ声。


 「ヤマッ。カワッ! オイ、左の樹! 敵三、右二、援護、行けッ! 撃て、援護ッ、援護ッ、一人ヤラレタ。行け! 行け~ッ!」


たった数百メートルの攻防である。

ジブン達の周りには磁石に吸い寄せられる様に『鉄帽の魂』が集まって来る。


 「ヤラレタ~ッ! ヤマー! 山田上等兵負傷ッ! 衛生兵~!」


断末魔の声である。

一基の『鉄帽の魂』がその負傷兵の傍に近付き、血だらけの胸に手を触れた。

負傷兵は再生して鬼のような形相で立ち上がり、また突進して行った。

あの鉄帽の魂は殻の鉄帽だけ残し、兵士に『再生』した。

いたるところに日本兵がコト切れている。

鉄帽の魂達は負傷兵を探す。

一基の鉄帽の魂の傍に、日本兵の頭部が飛んで来た。

胴体を捜す鉄帽の魂。

ふと上を見あげると胴体が内臓を出して、樹にぶら下がっていた。

頭部はいつの間にか眼を見開いて死体に変っている。

『鉄帽の魂』は頭部だけに変わり果てた兵士の死体に手を触れた。

バラバラに千切れた肉片は突然「兵士の姿」に再生する。『再生兵の誕生』である。

木の株の上に鉄帽の魂が被っていた『殻の鉄帽』が置いてある。


 突然、大雨(スコール)が降って来る。

雨は直ぐに滝に変り、林道は川に変わる。

米兵の骸がうつ伏せで川の流れに乗って来る。

その死体が日本兵の死体にぶつかる。

死体に変わり果てても兵士は戦っているのである。

ジブンは思った。


 「一キロ先に飛行場が在るはずだ。飛行場に着くまでに、何人の兵士が死体と化すのであろう」


米軍の戦闘機(F4Uコルセア)が空中を一周して、糞の様に爆弾を落として行く。

地響きが樹林を揺らす。


 スコールの去ったジャングルに、鳥の声が聞こえる。

近くに運悪く頭部が砕け、微塵(ミジン)に変わり果てた死体が有った。

強烈な日差しは、兵士の死体を数分で蠅の塊(カタマリ)にする。


38銃の銃声が数発聞こえた。

その銃声がきっかけと成って、一斉に戦闘が再開される。


 「ヤラレター、 肩、カター」


一人の兵士が転がりながら負傷兵の傍に寄る。


 「大丈夫かーッ!」


いつの間にか一基の『鉄帽の魂』が負傷兵の肩元にしゃがみ、傷に触れる。

負傷兵は再生して何も無かったかのように銃を取り、一目散に木陰に隠れる。

不思議と軍装は『新しいモノ』に変わっている。

傍に居た兵士は不思議そうに、その再生した兵士を眺めている。

眺めている兵士の足元には『殻の鉄帽』が転がっている。

翼の曲がったコンドルの様な戦闘機(F4Uコルセア)が三機、ジャングルの上を低空で飛んで行く。

                         つづく

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