第2話 鉄 帽
バラバラに千切れ、変わり果てた兵士の死体。
ジブンの様な陽炎(魂)が茫然(ボウゼン)と『自分の死体』を見詰めている。
ジブンは自分(日下勇作少尉)の死体に合掌した。
『オマエはよく戦った。後(アト)はこのオレがこの島で永遠に戦ってやる』
陽炎(カゲロウ)の様な魂が突進して行く。
砲弾や銃弾がジブンの身体(カラダ)を通り過ぎて行く。
ジブンは米兵の居るトーチカに入った。
二人の米兵が必死に機銃を撃っている。
トーチカの窓穴を覗くと、米兵は緒方軍曹を狙っている。
「こいつ等を殺(ヤ)らねば緒方が殺(ヤ)られてしまう」
ジブンは米兵のホルスターから拳銃を引き抜いた。
「? 抜けない。・・・そうか、オレは死んでいるんだ。どうすれば良い」
※ 死ぬ・幽霊(現在の環境に適応していない)。
大声で緒方を呼んだ。
「オガタ~!・・・?」
声が無い。
銃弾が緒方に当った。
血が空中高くほとばしる。
緒方は宙を手で掴みながら何かを叫んでいる。
ジブンはいつの間にか緒方の傍に立っていた。
緒方は暫く手足をバタつかせていたが、動かなくなった。
『緒方の死』である。
死体に変わった緒方の頭部から、人には見えない『白い透明』な液体が流れ出した。
その液体は陽炎の様に地上に立ち上がった。
『緒方の魂』である。
魂はユラユラと故緒方善吉の死体を見ている。
暫くするとオガタは死体から『鉄帽(ヘルメット)』を外し、被(カブ)った。
ジブンはオガタに近付き話しかけた。
「オガタ、オレだ」
オガタは気が付かない。
ジブンはオガタの肩を叩いた。
やはり気が付かない。
オガタは必死に自分の死体に向かって何かを喋っている。
・・・聞こえない。
ジブンは暫くオガタを見ていた。
するとジブンは『とんでもない事』に気付いた。
※ジブン達には『形(カタチ)』が無いんだ。
ジブンは急いで『自分(日下の死体)』の傍に戻り、転がっている『鉄帽』を被った。
「これで、オレはオガタと同じ『形』に変わった」
急いでオガタの所に戻り、話し掛けてみた。
「おい、オガタ」
オガタは驚いてジブンを見た。
「あッ! 日下少尉。」
オガタはジブンの事が分かった様だ。
オガタが喋っている。
「自分はヤラレタ(死んだ)様です」
ジブンもそれに応えて、
「オレ達は多分、鉄帽だけの『幽霊』に成った様だ」
「テツボウだけのユウレイ?・・・そうですか。じゃ、もう死なないのですね」
「まあ、そう言う事だ」
ジブンは椰子林の方をゆび指し、
「此処に居てもしょうが無い。部隊に合流しよう」
オガタは怪訝な表情で、
「ブタイにゴウリュウ?・・・そうですね」
鉄帽を被った二基の魂が弾の中を走って行く。
二~三歩走っただけで数百メートル先の林に着く。
『眼の前を三人の米兵が銃を構えて通り過ぎて行く。一人の米兵が振り返り、鉄帽だけのオレを見た。米兵は何も無かったかの様にオレの被(カブ)っている「鉄帽」を取って、捨ててしまった』
オガタが必死にジブンの名前を呼んでいる。
「少尉殿ッ!」
「オレは此処だ!」
ジブンは応えたが気が付かない。
「あッ、そうだ! あの時、自分は米兵に鉄帽を取られたんだ」
ジブンは、急いで捨てられた鉄帽を拾って被った。
オガタはジブンを見て、
「あッ、 日下少尉殿。 消えてしまったので『ヤラレタ』かと思いました」
「バカを言うな。一度死んだヤツは死なない。どうやらこの鉄帽がオレ達の『形』を保ってるようだ。無くなるとオレ達は消えてしまう」
オガタはそれを聞いて、鉄帽の顎紐をキツく絞め直しながら、
「情け無いですねえ。鉄帽だけじゃ闘えねえや」
ジブンとオガタは川の傍(ソバ)まで来た。
先に突進して行った兵士の死体が草むらに散らばっている。
川岸に五基の鉄帽が見える。
ジブンはオガタに、向こう岸に集まる鉄帽の集団をゆび指さした。
二基は一瞬にして川を渡っていた。
五基の鉄帽を被った魂はジブン達を見て『笑顔』で立ち上がった。
ジブン達、七基の魂は草むらに腰を下ろし、これからの作戦を練ってみた。
「とにかくオレ達は武器が使えない。しかし弾が当たっても死なない。鉄帽を取るとお互いは見えなくなる。オレ達には力と謂うモノが無い。如何(イカ)に敵を粉砕するか」
一基の鉄帽を被った魂が『想起』した。
「そうだ。林に火を点けたら如何ですか」
「火をどうやって点(ツ)ける」
「まあ、そうですね」
ジブンは周囲に散らばった友軍の死体を見て、一行(ヒトクダリ)説教をした。
「此処に集まった七基の魂は朽ち果てない『仏様』だ。どうすれば、米兵達をこの島から退去させる事が出来るか。・・・友軍を守る事も出来ないし、二度と自分に戻る事も出来ない」
すると、少し先に『片腕を飛ばされてもがいている負傷兵』が居る。
一基の鉄帽を被った魂が集団を離れて、その負傷兵の傍に近付いた。
「助けてくれ。痛い、誰か助けてくれ」
鉄帽の魂はしゃがんで、呻いていれ負傷兵の「肩」に手を触れた。
負傷した兵士の腕はいつの間にか『再生』されている。
他の魂達はそれを見ていた。
つづく
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