第3話  賢者とブタ回避

アヤカが「朝からどうしたの?昨日遅くまで、携帯でもやってたの?それとも今日の試験の勉強でもやってた?」

「アヤカ、試験って?」

「えっ?ミキ、聞いてなかったの?

先生昨日“受験直後の君達の実力の確認テストを明日やります。”ってね。」

「そうだった。そんなこと先生言ってたっけ?」

「ミキ大丈夫?特待生クラスよりいい点数取るって張り切ってたじゃない。そうそう、源三には絶対勝って。」

「えっ〜それって今日だったけ?

アヤカ、どうしよう。全然勉強できてないよ。

それどころか大変な事が起きて…」

あっこれは言えない。秘密にしないとブタになる。

「えっ?ミキどうかしたの?大変なこと?何々?」

「いいの。大丈夫。それよりテストテスト。」

騒いでる私達の横を源三が涼しい顔で通り越して行く。

あざとくアヤカが源三を見つけて。

「源三、今日のテストどう?しっかり勉強した?特待生クラスで一番とるんでしょう。そう言えば、ミキも源三には勝って言ってるよ。」

「えっ、アヤカ何言ってるの。ただ…」

私は言葉につまってしまった。

源三が立ち止まり、私の前に。

「君、僕と話したことある?」

アヤカが茶化す。「源三、源三が話すのって珍しい。ミキのこと気になるの?」

源三は表情も変えずに「別に興味はない。ただ話したことがある気がしただけさ。違ったみたいだ。」

私は喉のこの辺りまで『昨日会ったよ。賢者の源三と。』言いたかったが、言えない。

鍵を拾った私はブタになる。盗んだんじゃないけどね。それに鍵を失くした源三もブタになる?あーこんな鍵、どこかに捨ててしまおう。手放したいよ~。悲しことにさっきも交番に行っても渡せなかった。タイミングが悪すぎる。

右手をポケットに入れる。

”わーある。鍵がある“

アヤカが「ミキ、ゴソゴソして何やってるの?ほんと大丈夫?」

「アヤカ、大丈夫。大丈夫だよ。」

「桐生さん。」アヤカを呼ぶ声。

「ごめん。ミキ、私、今日、日直だった。先行くね。」

「うん。じゃ後で。」アヤカは校門へと走っていった。

源三と私。歩き出す。

源三が「ミキ。昨日のミキだろう。あっちの世界で会ったよな。」

「えっ、バレてた。」

「当たり前だ。僕は賢者だ。正直こちらの世界が仮だから記憶が飛ぶことが多い。しかし、大概のことは覚えている。それでミキ、今のポケットのものを僕に返してくれ。その鍵が無いとこちらの世界とあちらの世界を自由に行き来できない。

また、兄貴、源二に貸してもらわなきゃいけない。面倒だ。それに僕はブタになりたくないしな。鍵は失くしていない。」

「なんだ、全部バレてたのね。ドキドキして損しちゃた。」

源三が真面目な声で「でもミキ、君はブタになるんだ。」

「えっ!ブタ?いやだ。」私はポケットから鍵を取り出し源三に渡した。

「はい。鍵。あなたに渡したわよ。これでブタ回避。」

源三が「ミキ、甘いな。そんなに決まりごとは甘くはないよ。君は拾った。意味合いは拾っただが、故意に盗んだともいえる。今君はとてもグレーラインにいる。」

「そう、みたいね。源三は、私をどうする気?」

「あっちの世界に行けば君は盗んだ、泥棒さんで即ブタに変身。それもかわいそうだ。ブタ回避の方法は?でも、ないな。わるい。」源三があっさりつぶやく。

「じゃ、」と言葉を残し校門をくぐり源三は教室へと向かう。

私は必死で考えた。向こうの世界へ行かなければ、私はブタに変身せずにすむ。

そうだ、あちらの世界に行かなければいいんだ。

そうして私も教室へ向かった。

教室には日直のアヤカがいた。「ミキ、見て、黒板きれいでしょう。たった今、掃除したばかりよ。」

「さすがアヤカ。」

チャイムが鳴る。1時間目テストの始まり。まずは国語。短い文章問題からの問題だ。なんとなく国語は得意だ。2時限目は数学。ここはちっと本気出しますか。

全神経を研ぎ澄ます。そして数学。テスト用紙。急に数字が動き出す。

何かが切り替わった音がした。

目がおもい。コツコツと答案用紙に書き込むペンの音。

気が遠くなり。テスト中なのに寝てしまった。

モクモク白い雲、煙の中、昨日の世界に来てしまった。

まわりを見渡す。私をつかまえて、ブタにする人達はいないようだ。

「よかった。」でもどうしてまた、こっちの世界に来てしまったんだろう。

まあ、いいか。私はぶらぶら近くの森の中を歩いていた。前から役人らしい人が

「お前は泥棒か?」

「いいえ。ただの女子高生よ。」

役人はこっくんと首を縦に振った。

「いってよし。」

そのあと役人の肩に一羽のカラスが肩にとまり、何やら話している。

カラスは鍵を私が拾ってポケットにしまったのを見ていたようだ。

役人が追いかけて来た。「カラスから聞きましたよ。あなたは昨日、鍵を拾いましたね。あなたは今虚偽の話を私にしました。あなたは嘘つきです。」そういってブタの顔で追いかけてきた。私は怖くなり森から出ようと必死で走りました。役人はみるみる私に近づいて来た。

「助けて~。」叫ぶか誰も来ない。

「お前は嘘つきだ。鍵を盗んだ。」

私は走りながら「違う。盗んでいない。拾っただけよ。私は盗んでない。」

「ガタン。」ペンが机から落ちて転がる。

先生が「砂田さん、ミキさん大丈夫ですか?今は試験中です。静かにしてください。」

「はい。」

よかった。戻れた。もとの世界に。

そして頭の中に声が”気をつけて。もし君が何かをしている時、誰かが、見ている

それは人間とは限らない。

カラスが、カラスが高い木の上から人間を監視しているかもしれない。カラスに注意を。

君の嘘も秘密も見られているかもしれない。”

頭の中の声は賢者の源三の声に似ていた。








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