第2話 たぶん夢の中 賢者と泥棒

目をこすり、ゆっくりと目をあける。

仁王立ちのイケメン賢者が立っている。

「お前は誰だ?」

「私はミキ。」

「君は?誰?」

長いマントに辞書片手に。ゲームによく出てくる賢者みたい。

「君は賢者ね。」

「そうだ。どうして分かった。」

「その姿。辞書を持っているのは賢者だけよ。」

「そうだ。私は賢者だ。お前は何をしている。」

「その前に、君、私と同じ年くらい。ちょっと偉そうじゃない。」

その偉そうなイケメン賢者は少しひるんだ。「そうか。じゃタメで。」

「そうね。その方がいい。」

「で、君はここで何をしてたんだ?」「私、そうそう、部屋のベットで携帯見てて、そのあと寝ちゃったみたい。だからここは夢の中。睡眠中。」

賢者は急に笑い出した。「ハハハハハ。君は天然ちゃん?今、こうしてしゃべってるのに、睡眠中はさすがにないだろう。」

「あれ?そうね、よく考えるとしゃべってる。起きてる?ってことは睡眠中ではない?でも変なのよね。ここ。風景が部屋と違う。はじめてくるところよ。ここはどこ?」

賢者は「困ったな。時々いるんだよね。君みたいな、特に天然系の子がこっちの世界に来るパターン。まあ、時間とともにごまかして元の世界に返してあげるよ。」

「それどういうこと?」

「この世界が昼だと。君がいた世界は夜。だから明日朝が来るときに送っていくよ。」

「なんだか、分からないけどまあ、いい。じゃあ、お願いね。」

賢者は「今更だけど君、名前は?僕は源三。」

「え~!源三。」「僕を知ってるの?」「うん。たぶん。同じ学校にいるのよ。君と同じ名前の同じ顔の男子。でもすっごく印象悪くって。もう最低!」

「僕と同じ名前の源三?変な感じだな。君の世界に僕がいるなんて。で君の名前は?」

「ミキ。砂田ミキよ。」

「ミキか、ヨロシク。それで早速なんだが手伝ってほしいことがあるんだ。」

「何?今、暇だから手伝うよ。」

「ありがとう。それで鍵を見つけてほしいんだ。」「鍵?」

「そう。鍵。大切な鍵で、次元を行き来できる鍵なんだ。」

「次元を行き来?もしかしてこの世界と私のいる世界をいったり来たり?」

「そう。その鍵。僕は今、あっちの世界で高校生になったんだ。入学式があったばかり。帰りに鍵を失くしてしまった。」

「じゃあ、どうやってこっちの世界に帰ってきたの?」

「僕には兄貴が2人いて、学校が違うけど1つ上の兄貴の高校が近いから一緒に帰ってきた。」

「へえー、でもよかったね。お兄さんと帰れて。ねえ、源三、あっちの世界での記憶はないの?」

「あるよ。でも出会った人の記憶は、なぜか残らない。兄貴たちは次元越えの能力があるから記憶を保てるけど僕は全然だめだ。」

「おーい源三。この子、誰?アヤカじゃないな。」

「はじめまして。砂田ミキです。」

「はい。ヨロシク。ミキちゃん。僕、兄の源二でーす。」ものすごいイケメンだ。

緊張するなー。「は~あ。」両手両足が一緒の方向で動き出す。カラダが堅い。

「わ~、助けて。」

お兄さんの源二さんが「ミキちゃんって天然?思ったことダダ漏れだよ。」

「え~!あ~、またやってしまった。次元が違っても変わらない。天然系。うれしいような、残念なような。は~あ。」

「ミキちゃん、会えてよかったよ。僕は宿題があるから、弟、賢者の探しものを一緒に探してくれると嬉しいいよ。頼むね、ミキちゃん。」

おバカな私は、そのイケメンの声に思わず「はい。」っと答えてしまった。

「ありがとう、天然ミキちゃん。じゃあね~。あっ、そうそう源三、鍵。兄の鍵を貸してやるよ。夜になる前にあっちの世界にミキちゃんを返すんだぞ。」そう言って源二は消えた。

賢者の源三が「ミキ、時間がない。探すのを手伝ってくれ。」

「それどんな形の鍵なの?」

源三は兄の鍵を見せた。「え~!」

「どうした。ミキ、知ってるのか?」

これはまずい。あの時の横断歩道で拾った鍵と同じ。ってことは源三の鍵は私があちらの世界に持っている。

「源三、」呼びかけて、やめた。何か怖いことが・・・

「ミキ、鍵を失くしたことが、バレたらつかまってこの世界から追放されるんだ。それにその鍵を誰かが盗んだらその人も・・・」

「ねえ。どうなるの?盗んだ人はどうなるの?」私は必死に聞いた。

源三が「どうしたミキ。君が心配することはないだろう。」

「そうね。ちょっと、どうなるかなあ~って知りたかっただけよ。」

「盗んだ人はブタになる。」「えっ?ブタ」

「そうだ。ブタだ。それに悪いことした人はしっぽが生えて。耳がたって。最後にブタ鼻になる。わるいブタの完成だ。」

「え~!ブタになるの嫌だよ。」

源三が「なんでミキがブタになるんだ?」

「そうね。つい感情移入しちゃった。ははは。」軽めに笑ってごまかした。

それから私達は日暮れまで街中を探した。鍵は見つからない。

「ねえ。源三、この世界に交番、お巡りさんはいないの?」

「いるよ。」

「じゃあ、お巡りさんに頼んで探してもらえば?」

「ミキ、君は天然というよりおバカさん?かな。失くしたこといったら僕は捕まえられて、この世界から消される。」

「じゃあ、失くしたことは、絶対秘密にしなきゃね。」

「そうだな。でもミキ、日が暮れる。夜が来る。君を元の世界に送るよ。」

源三はそう言って目の前の何もない空間の宙に鍵をさした。扉が開く。こちら側は真っ黒。ドアの向こう側の世界には朝日が見える。

「ミキ、鍵探しありがとう。じゃあ。」「じゃあ。」

「ドゥドゥ」携帯のアラームが鳴る。手を伸ばし、目をとしたまま携帯を探す。あった。ゆっくりと目を開けたカーテンの隙間から朝日が。朝だ。あれ?

鍵。源三?あれは夢?だったのか。

鍵?鍵はどこ?私はベットの上を探す。ない。ない。あった。枕の下から光る鍵がでてきた。この鍵は夢じゃない。現実に手の中にある。夢があまりにもリアルだったから私は少し不安になったが、

ばっと布団をけり起きた。よし、入学4日目。今日も頑張るぞ~。

制服のポケットにあの鍵を入れた。駅前の交番に登校前に届けよう。昨日の夢じゃないけど、困っている人がいるかもしれない、それに私が泥棒なんて嫌だ。拾ったこと秘密にして後で泣きたくないし。やっぱり交番だ。朝ご飯、妹より早くパクパク食べて「行ってきま~す。」玄関で妹が「お姉ちゃん、早いね。部活でも始めたの?」

「違うけど。行ってきま~す。」

電車に飛び乗り30分。学校の駅に着く。いつもより早い時間、街中の人通りも少ない。私は駅前の交番に入った。「すいません。拾い物しました。」

お巡りさんが「拾い物?まさか泥棒したのではありませんよね。」

「えっ!お巡りさんの顔がブタになっている。」あれ?あれれ?

頬をつねる。「いたっ」夢じゃない。こっちの世界に戻っているはずなのに。まさか夢のつづき?いやだ。いやだよ。「なんでもないで~す。」交番を勢いよく出た。「ドン。」ぶつかる。

「ごめんなさい。源三。わあー、夢の中だ~。わあー、」私はあわてて、回れ右。学校へと走った。「ドン」またぶつかる。「ごめんなさい。」

「おっは~。朝からどうしたのミキ?」アヤカの声。

ここは?まわりをよく見た。いつもの景色だ。「よかった。こっちの世界だ。」






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