第2話~下級魔法学校、新入生ラビ・グライダー~

ご興味を持っていただきありがとうございます。

この話も楽しんでいただけたら幸いです。

よろしくお願いいたします。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


「ようこそ、下級魔法学校への御入学おめでとうございます」

「ありがとうございます」


 笑顔で祝ってくれる女性職員に軽くお辞儀をしながら、俺は気になったことを尋ねる。


「どうして俺のことを?」

「白銀級の英雄である貴方様を一般の方と同じように扱ってはいけないと思いまして……」

(なるほど、そういうことか)


 職員の方々は、わざわざ俺を迎えに来てくれたようだ。

 だが、冒険者を引退し、試験まで受けて入学できた俺へそんな対応は無用だ。


「心遣い感謝しますが、ここでの私はただの新入生です。相応に接していただけると助かります」

「ですが……っ!」


 俺の言葉に反論しようとした女性だが、隣の女性がそれを止める。

 少し考え込んだ後に頷き、俺に対して頭を下げた。


「……わかりました。出過ぎた真似をして申し訳ありませんでした」

「いえ、わかっていただけたようで何よりです」

「失礼いたしました」


 そう言って立ち去って行く職員を見送っていると後ろから肩を叩かれた。


「ちょっといいか!?」


 背後から声がかかったことで振り返ると、屈強な男性が俺たちの方を見ていた。

 年齢は50代後半くらいで厳つい顔立ちをしている男だ。


「なんでしょうか?」

「俺は以前あなたに命を救われた者だ。覚えているか?」


 そう言われても俺には思い出すことができなかった。


(命を救ったと言われても……な)


 俺は常にモンスターの前に立っていた。

 頼まれればどんな依頼にも同行しており、数多くの危険から味方を守ってきた。


(本当に申し訳ない気持ちになるけど……)


 だからこそ、自分が救った人の顔を覚えきれていないことも多い。

 返事をしようとしたら男は悲しそうな表情を浮かべた。


「その反応は覚えていないな……?」

「いつ頃のことか教えてくれたら思い出すかもしれない」

「……いや、いいんだ。気にしないでくれ、あんたに会えてよかった」


 男性は肩を落とすが、微笑を浮かべていた。


「すまないな」


 俺がそう言うと男性は小さく会釈をして視線を受付へ向ける。

 俺も前を向くと、前にいた人たちが左右に分かれ、道ができていた。


「ラビさん、モンスターから私の村を守ってくれてありがとう。先にどうぞ」


 俺の前に並んでいた新品のローブを着ていた女の子が笑顔で道を譲ってくる。


「いや……俺は──」

「ウヲッホン!」


 普通に並ぶと言いかけたところで、後ろの男性が咳払いをした。

 あからさまな行動に振り向くと、ウインクしてくる。


「ラビさんがいるとわかっていて待たせるような人はいない。それだけのことをあなたはしてくれたんだ」


 後ろにいた男性の言葉に同意するかのように、周囲にいる人たちも頷く。


(これ以上みんなを困らせてはいけないな)


 他の列の人まで俺を見て、受付をせずに待っている。


(迷惑をかけてもいけないし、さっさと先に進もう)


 笑顔で道を譲ってくれている女の子に向き直し、声をかける。


「お嬢さん、ありがとう」


 頭を下げてから前に進み、譲ってくれている人たちへお礼を言いながら受付へたどり着いた。

 今のやり取りを見ても特に驚いていないような受付嬢に話しかける。


「ラビ・グライダーさま、おはようございます。こちらへのご記入をお願いします」


 促された俺はペンを取り、渡された用紙に視線を落とす。

 そこにはいくつかの項目が書かれていたが内容は簡単なものだ。

 名前や年齢などの個人情報から魔法の適正に関することなどを書く欄がある。

 書類に書かれている内容を流し読みしてからペンを動かした。


(得意な魔法は……身体能力強化でいいか)


 今の俺が使える唯一の魔法、【身体能力強化】。

 魔力を体外に放出できない俺へザックさんが教えてくれた。


(使える魔法をもっと増やすんだ)


 全てを書き終えたてから受付嬢へ用紙を渡す。


「お願いします」

「はい。確認させていただきます」


 用紙を受け取った彼女は、視線を落としたまましばらく固まった。


(何かおかしいところがあるだろうか……? いや、もしかして書き損じたか!?)


 もう一度見直しをしようかと考えていると、固まっていた彼女が顔を上げた。

 真剣な表情を向けられたので思わず息を吞む。


「……確認いたしました。この札を持って奥へお進みください」


 彼女は俺へ小さな木札を手渡してくる。

 札を受け取ると、俺の書いた書類が札に吸い込まれるように無くなった。


(どうしてこんな簡単な内容を事前に書かせないのかと思ったが……魔法がかけられた紙だったのか……これが普通なんだな!)


 日常生活では滅多に見ない光景に心を躍らせる。


(行くか。奥へ進めばいいんだったな)


 受付嬢の指示通り、校舎へ入っていくがまったく人の気配がしない。

 それどころか、試験の時と構造そのものが違うような気がしてきた。


(俺はここで横に曲がったはずなのに廊下がない……どういうことだ?)


 今のような一本道になっている廊下を忘れる方が難しい。

 確実に試験の時と風景が違うのだ。


(まぁいい。とりあえず進んでみるか……ん?)


 歩き始めようとしたところ、目の前に誰かいることに気がつく。

 その青年は、廊下の壁にもたれかかっていた。


(誰だ……? 新入生にしては歳をとっている気もするが……俺が言えた事じゃないか)


 蒼い髪の青年で背丈は少し低いように見え、歳は俺よりも若干低めといった印象だ。

 髪の色と同じ目の色をしていて、端正な顔立ちをしている。

 そんな青年が俺の顔を見つめてきていた。


「こんにちは。ラビさん」


 優しい笑みを浮かべている彼に名前を呼ばれるが、やはり知らない顔だ。


「どうして俺のことを?」


 不思議に思い聞き返すと、目の前の男は一瞬呆けた後に笑い出した。


◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


お読みいただきありがとうございました。

次回も書き上げたら更新させていただきます。

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