第3話~蒼髪の案内人~
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この話も楽しんでいただけたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
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「ハハハハ。英雄である貴方を知らない人のほうが珍しいですよ」
大声で笑う彼を見ていると、急に落ち着きを取り戻す。
「急に笑ってしまい失礼しました」
「いえ、俺で笑えてもらえたなら何よりです」
(確かにあんな風景を見た後に言うことじゃなかったな)
受付に来ていた人全員が自分を待つ光景は目を疑った。
自分のこととはいえ、他人事のように感じてしまうため、自分でも苦笑してしまう。
「私はアシュリー・タルリングという者です。ラビさんにお会いできて光栄です」
「初めましてアシュリーさん、自己紹介ありがとう。それで俺に何の用でしょうか?」
一本道の途中で誰かを待つように壁に寄りかかっていたのだから、この人が俺を待っていたのは間違いない。
しかしなぜ俺を待っていたのだろうか。
考えているとアシュリーさんは杖を取り出して先端を光らせた。
すると俺の持っていた木の札が光り出す。
「札をお持ちですね。導きの扉を開放します」
アシュリーさんが杖を振ると、目の前に青い渦が出現した。
人や物を転移させることができる【導きの扉】。
数万人に一人といわれている、中級魔法使い以上の者が使える魔法だ。
(導きの扉を使えるのか……凄いな)
この魔法だけで、アシュリーさんが熟練の魔法の使い手であることは明白だ。
下級魔法学校の新入生となった俺にとって、憧れの存在といっても過言ではない。
(まあ……俺には使えないだろうな。最低限の魔力しか放出できないし……)
魔力測定水晶であんな小さな光しか出せない俺にこんな魔法は夢のまた夢だ。
(でも発動できる魔法もある)
これからの生活に期待と希望を抱きながら、導きの扉へ足を踏み出した。
「あ、そうそう」
俺の体が完全に渦へ飲み込まれて転移する直前、アシュリーさんが唐突に口を開く。
「僕たち【初めまして】じゃありませんよ」
「どこで──」
「それでは~」
質問をしようとしたが、口の転移が始まって言葉が最後まで出なかった。
ひらひらと手を振るアシュリーさんに見送られ、俺の視界が青に染まった。
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次に視界に飛び込んできた景色は、巨大な石造りの城だった。
遠くに見える城を中心に城下町が形成されているようにみえる。
(ここはどこなんだ? 俺の知らない場所だな)
辺りを見渡すも、まったく見覚えのない場所だ。
冒険者として世界を隈なく周ったと思っていたが、どうやらそうではなかったらしい。
(呆然としているのは俺だけじゃなさそうだ)
周囲には俺と同じように目を丸くしている人たちが多い。
俺の後からも続々と人が来ており、かなり混雑している状態だ。
(ここにいる人たちは全員新入生に見える)
ほとんどの人が新品のローブに身を包んでいる。
皆が皆緊張した表情で周囲をうかがっており、異様な雰囲気が漂っていた。
「ラビさん、あなたはこちらへ」
そんな中、小声で話しかけられて、返事をして声のした方を向く。
そこには茶髪のロングヘアーをローブで隠し、顔を少しだけ覗かせるフランシスが立っていた。
フランシスはにこりと微笑むと手招きを始める。
「フランシ──」
「しっ!」
周囲の注目を浴びるからだろうか。
フランシスは自分の人差し指を唇にあて、それ以上言うなと警告してくる。
俺は慌てて口を噤み、無言で頷いた。
それを見て満足そうに頷くと、フランシスは前を向いて歩き始めたので俺も後ろに続くことにした。
「新入生諸君! 入学おめでとう!! 私は下級魔法学校学校長のザックじゃ!!」
拡声魔法によって声が大きく増幅されたザックさんの声が周囲に響く。
「先輩、行きますよ」
ザックさんの声が突然耳に入り、立ち止まろうとした俺をフランシスが腕を引いてきた。
「あ、ああ」
(やばい、つい聞き入ってしまった……)
俺が居た周辺では説明を聞くために辺りをキョロキョロと見回す新入生が目立つ。
そんな新入生たちを尻目に、俺はフランシスに腕を引かれながら城下町へと入っていく。
(どこに向かうつもりなんだ?)
大通りには屋台から甘い匂いを漂わせていて、買い物客が多く見える。
しかし俺たちはそれらを無視し、一直線に歩いていくのだった。
「もう少し行ったところで右へ曲がります。次の突き当りの階段を降りてください」
フランシスの指示通りに道を進んでいくと、薄暗い路地に入ることになった。
人の気配はまるで無く、石畳で綺麗に舗装されていた大通りとは打って変わって汚く埃っぽい。
(こんなところに何の用があるんだ……?)
首を傾げつつ歩いていると、角を曲がった先に看板が見えた。
(ここは──)
『冒険者ギルド・下級魔法学校街支店』と書かれた建物が目の前にそびえ立っている。
見慣れた形状の看板を見て、俺の心臓が一度跳ねた後、すぐに拍動が落ち着いた。
「フランシス、間違えているぞ。俺が行きたいのは下級魔法学校だ」
看板を指さして間違いを指摘するが、フランシスは強引に左腕を引っ張ってくる。
「先輩、早く入りましょう」
もう冒険者を引退した俺はここに用はない。
いくら強引に引っ張られようと、非力なフランシスに抵抗するのは難しくない。
「ちょっと待ってくれ」
「どうしたんですか?」
引っ張っていた力が弱まり、フランシスが振り返る。
「どうして俺がここに入らなくてはいけないんだ? 冒険者は引退したと言っただろう?」
「え、ええと……」
フランシスは答えに窮したのか、言葉を探しているようだ。
視線を彷徨わせ、唇を嚙み、落ち着きがないように見える。
「どうしたんだ?」
もう一度聞き返すと、フランシスは一度深呼吸をしてから口を開いた。
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お読みいただきありがとうございました。
次回も書き上げたら更新させていただきます。
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