第1話~下級魔法学校入学式へ~
ご興味を持っていただきありがとうございます。
この話も楽しんでいただけたら幸いです。
よろしくお願いいたします。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
(これから入学式……準備は完璧だ。荷物も送ってある)
俺は下級魔法学校に続く道を歩きながら内心呟く。
気分が浮ついているせいか、足取りは軽い。
バーバラとの訓練を終えてから一ヶ月。
ついに念願の下級魔法学校に入学する日がやってきたのだ。
全寮制ということもあり、家も処分しておいた。
不要な物を全て捨て、今の俺に必要な物だけを寮に送った。
(このローブは最高だ。これだけでも魔法使いになったような感じだ)
黒い生地で仕立てられたフード付きのローブを身に着けていた。
左胸には下級魔法学校の生徒であることを証明する【U】の刺繍が施されている。
中級魔法学校は【M】、上級魔法学校は【H】で表記されるため、一目でどの学校の者かわかるようになっている。
(それにしても……)
周囲を見回し、俺は苦笑する。
周りには一回り以上年下と思われる子供ばかりだ。
全員が俺と同じような真新しいローブを身にまとっていることから新入生だと推測できる。
(やっぱりこうなるよな。俺がローブを着ているだけで目立つ)
30歳を越える俺が同じローブを着ていたら好奇な目に晒されるだろうとは思っていたが予想以上だ。
まるで珍獣のような扱いを受けつつある。
(親からは不審者として見られるな……睨んできている人もいる)
なんだか居心地の悪さを感じながら歩いていると、俺の前に十名以上の男女が立ち塞がってきた。
全員俺よりも年上であり、周りにいる子供の保護者なのだろう。
「すいません、少しお話いいですか?」
「ええ、大丈夫ですよ」
その中の男性が訝しげに話しかけて来た。
俺は丁寧な対応に安堵して応じる。
話しかけてきた男性は40代後半といった容姿で、背が高くガッチリした体格だった。
(弓矢がメイン武器の冒険者か)
全身を一瞥して、この男性の得意な戦闘スタイルが弓だろうと予測できる。
男性の後ろに立っている人たちも冒険者のようだ。
(偶然出くわした人たちだろうな。年齢層が微妙にズレている)
目の前にいる集団の観察が終わったときに、男性が口を開く。
「あなたはもしかして、ラビ・グライダーという方ではありませんか?」
「ええ、そうですがなにか?」
「やっぱり!! 私たちは戦艦タートルの砲撃から守っていただいた街の者です!! あの時は本当にありがとうございました!!」
「「「「「「ありがとうございました!!!!」」」」」」
先頭の男性を皮切りに、後ろの人たちも一斉に頭を下げる。
「ああ、あの時の……ご無事で良かったです」
街を護衛したときのことだと思いだした俺は、頭をかく。
戦艦タートルを討伐できたのは俺以外の冒険者たちが頑張ってくれたおかげだ。
俺がやったことは、砲撃や尻尾の薙ぎ払いなど戦艦タートルの攻撃を無力化したくらいだ。
(あの中で白銀級冒険者に昇格できたのも俺だけだからなんだかな……)
正直、ここまで感謝されるようなことはしていないと思う。
だが、目の前で頭を下げられているのに無下にもできないので、俺は話を合わせることにした。
「皆さん顔を上げてください。当然のことをしただけなんですから──」
(まさかこんな形で注目されるとは……)
内心で愚痴りながら苦笑する。
何が起こっているのかと、俺を中心に人が集まり始めていた。
(早めにこの場を離れた方が良さそうだな)
入学初日から変に注目はされたくない。
「それではみなさん。俺は入学式に出席しなければならないので失礼します」
次に何かを言われる前に去ろうと会釈をすると、慌てて止められた。
「ま、待ってください! その話を是非!!」
食い下がってくる男性に目もくれず、一目散にその場を駆け出す。
近くに子供を待たせていた男性たちは俺を追いかけるのを諦め、落胆のため息をついていた。
(危なかったな……変な噂が流れないといいけど……)
心の中でそう呟きながら溜息をつく。
姿が見えなくなるまで走ったら、目的地に着いてしまった。
(これから通うことになる下級魔法学校か……)
そびえ立つ建物を見上げ、感慨深げに息を吐く。
下級魔法学校は全学年合わせて一万人以上の生徒が在籍している。
王国全土から魔法が使えると認定された子供たちが集まっているからだ。
これでも、裕福な家庭や貴族は中級魔法学校を選択しているから少なくはなっている。
(上級魔法学校には三百人程度の生徒しかいないらしいからな)
上級魔法学校は特に才能があったり、血継属性持ちだったりと選ばれたエリートしか入学できない。
記憶の中から魔法学校について引き出し終えた俺は一旦立ち止まる。
まだ午前8時だというのに校舎の前には人たちが集まっていた。
(入校手続き待ちか……複数の受付があるけれど、待っている人数が多すぎる)
40メートルほど前に10か所以上の受付が用意されていた。
一番短そうな列に並んだものの、しばらく待ちそうな雰囲気だ。
(この調子だと30分くらいはかかるな……ん? なんだ?)
10分ほど並んだところでなにやら前方の方からざわめきが聞こえてきた。
受付の方から数人の職員らしき人たちが歩いてきているようだ。
(何かあったのか?)
俺が並んでいる列の人たちの顔を確かめるように見回し、一直線にこちらに歩いてくる。
それにつられるように周りの視線も集まってくるのがわかった。
(誰かを探しているみたいだな)
そんなことを考えている間に、数人の職員は俺の前で止まるとニッコリ微笑んだ。
「ラビ・グライダーさんですよね?」
俺と同年代くらいの女性職員が口を開く。
「はい、そうですが」 肯定すると、周囲の視線が更に集まるのを感じた。
(こんな短時間で2回も名前を聞かれるなんて……)
俺は厄介事に巻き込まれそうだと思いながら女性の言葉を待った。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
お読みいただきありがとうございました。
次回も書き上げたら更新させていただきます。
もしよろしければ、励みになりますのでフォローやいいね等応援よろしくお願いいたします。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます