プロローグ⑥~試験に合格した二人~
お付き合いいただきありがとうございます。
楽しんでいただけたら幸いです。
プロローグはこの話を含めて後二話です。
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学校長から下級魔法学校の合格を言い渡されてから数日後。
俺は王都から少し離れた郊外でボロボロになっていた。
(くっ……あの時は水晶があっただけマシだったのか……)
イージスに回復補助効果がなかったら危険だった。
俺の前では、炎が轟々と燃え盛っている。
まさに死と隣り合わせの状況だ。
周囲は爆発によりいくつものクレーターができていた。
「ねえ! もう無理しないで! ラビさん死んじゃうよ!!」
そんな俺に一人の少女が心配そうに声をかけてきた。
赤色の髪を一つ結びにした少女で、バーバラという名前だ。
俺は彼女に軽く手を振ると、目の前で燃え盛る炎をかき消した。
「問題ない。もう少しでコツが掴めそうなんだ。もう少し訓練に付き合ってくれ」
「本当に? 無理だけはしないでね……?」
バーバラはいまだに心配そうに俺の顔をのぞき込んでくる。
下級魔法学校へ入学する一週間後までに、バーバラの引き起こす爆発を完全に防げるようになる必要がある。
そのためにはこの爆発がなんなのか理解しなくてはいけない。
「さあ、魔法を使ってみてくれ」
俺はバーバラに魔法を使うように促す。
この五日間で、俺に対する以外の被害は抑えられるようになった。
だが、ザックさんの求めているレベルは完全な無力化だ。
(肝心の俺がこんなボロボロになってはいけない……集中だ……)
神器イージスを構え、バーバラを覆うように結界を生成する。
「うん……いくよ……!」
バーバラは意を決したように杖を構える。
「木よ生えなさい!!」
バーバラが詠唱した瞬間、周囲で空気が大きく揺らいだのがわかった。
(くるっ!!)
魔法学校に合格した後、俺はひたすらにバーバラの爆発を受け続けていた。
その過程で一つ気になることがあった。
魔法を行使しているバーバラは爆風にさらされても無傷なのだ。
つまり、爆発を防ぐときにバーバラを守る必要がないということになる。
「はぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
俺は雄叫びを上げながら集中力を高める。
魔力で身体能力を強化し、体の一部となっているイージスへと魔力を送り込む。
イージスの纏う純白の光が、さらに強い輝きを放つ。
次の瞬間、大きな破裂音と共に大爆発が起きる。
爆音が耳をつんざき、視界を遮るほどの土煙が舞い上がった。
「ぐぅっ……!?」
イージスの結界が受る膨大なエネルギーが俺の体を襲い、内臓が押し潰される感覚が襲ってくる。
肺に残った空気すらも外に吐き出してしまい、呼吸がままならない。
全身の骨という骨が軋みを上げる。
腕が震え、膝が笑う。
視界が歪み、目から熱いものがこぼれ落ちた。
全身が悲鳴を上げ、今すぐにでも倒れてしまいたい衝動に駆られる。
「ふぅ……ふぅ……ふぅ……」
必死に呼吸を整え、無理やり手足を動かした。
イージスが光ると、身体中を駆け巡っていた痛みが治まっていくのを感じた。
「ねえ!? 本当に大丈夫なの!? ラビさん倒れそうよ!?」
バーバラは慌てた様子で駆け寄ってくると、俺の顔を覗き込んでくる。
泣きそうな顔をしており、目元には涙が浮かんでいるのが見えた。
どうやら爆発を防ぎきれないために心配をかけてしまったようだ。
「ちょっと衝撃に驚いただけだ……ほらもうなんともない」
「……ほんと?」
バーバラは俺の体をペタペタと触り始めた。
触診をしながら俺の体に異変がないか確認しているようだ。
今の爆発を全身で受けてしまい、今の俺は文字通りボロ雑巾のような有様だ。
それでも、俺はバーバラに言わなければいけないことがある。
「お前……今手加減……しただろ……はあっ……はあっ……」
俺は途切れ途切れになりながらも、はっきりと告げた。
俺の言葉に、バーバラはビクリと反応する。
図星だったらしい。
バーバラは気まずそうに、俺から視線を逸らす。
なぜバレたのか不思議に思っているのだろう。
「全力でやってくれないと魔法学校に被害が出る可能性がある。手加減しないでくれるか?」
「で、でも! これ以上威力を出したらラビさんが死んじゃうよ!」
たしかに、ここ数日俺は毎日爆発を受けている。
もうどのような爆発なのかは大体理解しているので、俺への反動無しに受け流すことも可能だ。
しかし、俺が受け流したことによって周りに被害が出たら本末転倒だ。
「大丈夫だから全力で来てくれ」
「でも……本当にこれ以上は……」
俺は不安そうに支えてくるバーバラの手を振り払って、ふらつきながら立ち上がる。
イージスが癒してくれてはいるが、正直立っているだけで精いっぱいだ。
だが、俺が防がないとバーバラの魔法を学ぶ道が閉ざされてしまう。
(俺と同じ思いはさせない……あんな思いは俺だけで十分だ……)
俺はあの地獄のような日々を送るのは俺だけいい。
ザックさんのおかげで唯一使えるようになった身体能力向上の魔法を発動させる。
動かない俺の体を魔力で補強しながら、俺はバーバラの目をしっかりと見据える。
「白銀級冒険者をなめるな。お前の全力の爆発を防ぎきってやるさ」
「……わかった! どうなっても知らないからね!」
バーバラは決心したのか、目を閉じて深呼吸をしていた。
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気の向いた時に綴るため、次回更新は未定です。
1話程度の文量を書き上げたら更新いたします。
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