熱い男
授業終了間際に頭を抱えた
騒ぎの元凶である転校生、
「で、どうするんだ?」
俺の席まで来て真剣な表情で迫る
「いち×たみだ!」
「違うよ、たみ×いちだよ!」
一部女子が沸き立つ。中学の頃から聞こえる声なので無視。というか半ば自動的に意識から排除されつつある。
「どうするとは?」
「はぁ!? 朝からはなちゃんの事知らないとか訳分からん事言い出して、なおかつ転校生からアプローチ受けて、はなちゃんめちゃくちゃ凹んでたじゃねぇか!
お前どうするつもりだよ!」
だから、どうするつもりも何もないんだよ。
羽那子の事は本当に知らないし、東条さんの事は知ってるけどどうするもこうするもない。
むしろ俺はどうするべきなのか教えてほしいもんだ。俺だけが幼馴染の事を知らない。本当に医者に掛かるべきなのか?
でも記憶とか脳とかって、薬飲んでハイ治りましたって簡単に済むもんじゃないだろう。どうであれ、今すぐに解決するとは思えない。
「何ぼんやりしてんだよ、今すぐ追いかけろよ! それでもお前、はなちゃんの彼氏なのかよ!?」
民人が俺の胸倉を掴んで揺する。怖い、民人は暴力に訴えるようなタイプの男じゃない。何でこんなに感情的になっているのか。
昨日までこんな感じじゃなかった。羽那子が原因か? ダメだ、混乱するだけで考えが纏まらない。
「ちょっと民人君! どうしたの、何かあったの!?」
羽那子が俺達に駆け寄って来た。俺と民人の間に割って入る。
「修羅場だ」
「三角関係」
「男と女で男の取り合い」
「男多数の複数プレイはちょっと……」
バカな事を言ってるギャラリーのお陰で少しだけ冷静になれた。
「はなちゃんはいいのかよ!? 知らないとか言われて、知らない女とくっ付いてて、それでもいいのかよ!!」
いやくっ付いた訳じゃないよ。席をくっ付けてるだけだ。ってかすぐそばでギャーギャーやってるから知らない女呼ばわりされてる東条さんがすごく居心地悪そうにしている。
だからってここで俺が何か言うと東条さんの肩を持って云々言われそうだから黙っておこう。
「あんたの気持ち分かるけどね、クラスの中で言う事じゃないんよ。それも当事者の目の前で知らない女呼ばわりしてさ。
東条さんは今日初めてこのクラスに来て不安だったろうさ、そん中から知ってる顔見つけて懐かしくなっただけ。
そんで緊張と緩和とでテンション上がっただけよ、そんなに目くじら立てて怒る事じゃないんよ。はなが怒るならいざ知らず、少なくともあんたではないんよ」
羽那子から少し遅れて戻って来た林さんが民人を諫める。ちゃんと東条さんのフォローもしている。出来る女だ。
「……そうだな。東条さん、すまなかった」
「え!? う、うん。うちは大丈夫やで、気にせんとって」
東条さんの返事に被さるようにして、授業開始のチャイムが鳴る。俺達周辺に集まっていたクラスメイト達がそれぞれが席に着く。
そして授業が始まり、数学の授業と同じく俺と東条さんは机をくっ付けて一冊の教科書を見合うが、先ほどとは違い東条さんから話しかけて来る事はなかった。
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