知ってる女の子でした
数学の授業中、チラチラと俺の席の様子を伺うクラスメイト達の視線を受けながら過ごした。
ベタな展開だが、転校初日の為に教科書が揃っていないという
数学の授業中、東条さんが何故俺の事を知っていたのかが判明した。
小学校の頃、俺が一人で参加した農業体験のキャンプ合宿で同じ班になったらしい。
羽那子の記憶が全くないのとは違い、東条さんとのエピソードは言われれば思い出した。あぁそんな事あったな、と頭の片隅に存在していた。
しかし当時の東条さんの顔までは思い浮かばないな。
「ほんであん時にベビ捕まえて遠くへ放り投げてくれたやろ? 頼もしかったなぁ」
「あー、あったなそんな事」
クラスの浮足立った雰囲気にイライラしているのを隠しもしない
小学校五年生のゴールデンウィーク、俺に田植え体験をさせようと両親が申し込んだのが農業体験キャンプ合宿だったはず。
もちろん俺は乗り気。確か
各地からそれぞれ観光バスに乗って集合したのが中国地方のどこかの村で、小学五年生から中学三年生の男女がわいわいと楽しく農作業を体験したのだ。
自分達でキャンプを設営したり、田植えをしたり、釣りもしたかな? 農業体験だけでなく、子供の為の体験型学習というイメージだろうか。
「あー、あん時食べたカレーおいしかったなぁ。キャンプファイヤーも綺麗やったし。
一緒のテントで寝ようて言うてたけど、中学生のお姉さんに連れられて別々のテントで寝たんよなぁ」
そんな事あったっけ?
「うちな、あん時の体験からキャンプめっちゃ好きになってん、また一緒にキャンプしようや」
「ん? んー」
「ホンマに? じゃあいつにするー?」
机にぶら下げた前の学校指定と思われる通学鞄から、スケジュール帳を取り出す東条さん。
そしてその向こう側に見える桝先生怒りの表情バージョン。
「コラ東条! 転校初日に逆ナンかましてんじゃねぇよ!!」
丸めた教科書でスパーンとかます桝先生。いやツッコミどころそこじゃないよな? 今は授業中だから静かにしろってのが正しいツッコミなんじゃないの?
「逆ナンちゃいますよ! うちはナンパされた方やし」
いやいやいや、俺ナンパなんてしてないよね? 教科書見せてあげてるだけじゃん。
「六年前の話ですけど」
六年前ってつまりキャンプ合宿の時? 俺ナンパ的な何かしただろうか。
「例え六年前であろうがすでに鈴井には藤村という立派な嫁がいたんだぞ!」
「ギルティ」
「不倫はその事実を知ってから三年間慰謝料請求が可能、俺が羽那子ちゃんの弁護を担当する」
「じゃあ俺が調停委員するわ。伊千郎の有罪で死刑」
「でも浮気は男の甲斐性って言うし、私が嫁なら許しちゃうかなぁー」
「最後に戻って来てくれたらそれでいいよねー」
「あーもう授業にならん!
鈴井、前に出ろ。公開処刑だ!!」
桝先生が暴走し始めた。俺だって先生と同じ非リア充のはずなんだよ。そんなに目の敵にしないでほしいんだけど。
「どうしよう、あたしどうすればいいのか分からないよ……」
前の席では羽那子が頭を抱えている。
いや俺だって目が覚めてからずぅ~っとどうすればいいか分からん状態だからな!?
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