圧倒的非日常感
「「行ってきまーす」」
朝食を済ませた後、学ランへ着替えて母さんから弁当を受け取る。
俺の記憶が確かならば、いつもは羽那子どころか伊千香とも一緒に家を出る事はない。
妹とは決して仲が悪い訳ではないが、中学三年生の女の子が毎朝兄と一緒に家を出る方がおかしいと思っていた。
だから逆に、今俺は日常を過ごしていない。圧倒的非日常感。
「
「はいはい」
何だかんだ、やはり母親だ。母さん目線ではどうもいつもと様子が違う息子に映っているだろうからな。
ただ俺目線で見ると、家族全員がいつもと様子が違う訳だけど。
まぁそれももうすぐ変わるだろう。学校までは歩いて15分。クラスメートに会えば、俺の身の回りに起きている不思議な出来事に気付いてくれるはずだ。
「じゃあここで。はなちゃん、お兄ちゃんをお願いね?」
「大丈夫だよ。いっちゃんこそ気を付けてね」
伊千香が十字路を右に曲がり、その先で待っていた友達のみっちゃんと合流する。みっちゃんが俺に向けてぺこりと頭を下げてくた。
伊千香にみっちゃんと呼ばれている女の子。同じクラスで、たまにうちに遊びに来るから面識がある。
羽那子はみっちゃんの事、知ってるだろうか。カマを掛けてみるか。
「羽那子、あの子の名前何だったっけ?」
みっちゃんに向けて小さく手を振っていた羽那子が、考える素振りすら見せずに答える。
「
よく考えたら、俺みっちゃんのフルネーム知らないわ。合ってるかどうか分からん。でもみっちゃんというあだ名は合ってた。
うーん、微妙。
「さて、2人きりになった訳だけど、無理に思い出そうとしなくていいからね?」
何がさてなのか分からないが、俺を気遣っている風なのは分かる。あくまで風だ。だって、俺は元々この女の子を知らない。
だから、俺の『元々知らない』という感覚が正しければ、この女の子だって俺の事を知らなかったはずだ。はずなのだ。だから風だ。
俺とこの子が一緒に登校するのは、今日が初めてのはずなのだ。
「なぁ、本当に俺と羽那子って幼馴染なのか? 全く実感がないんだ。まるで羽那子が降って湧いたみたいだ」
「人をボウフラみたいに言わないでよ」
ケラケラと笑う羽那子。いや、君の立場からすれば笑っている場合ではないと思うんだけど。
「はぁお腹痛い、もう歩けないじゃん」
その場で立ち止まる羽那子。その背中をトンと叩いて声を掛けるセーラー服姿の女の子。
「おっはー、はな。今日も朝から夫婦漫才してんの?」
「おはよー、りなりん。いっくんのせいでお腹痛いの」
「えー、ちゃんと避妊しなさいってあれだけ言ったのにー」
「違うよ、あたし達そんなヘマはしないから」
「いやそもそも何もしてないからな!?」
何で普通に会話してんだ、まるで最初から知ってる友達同士なんだが……。
羽那子がりなりんと呼ぶ子は
その子と普通に会話をする羽那子。降って湧いた説は間違いなのか……?
「おはよー、朝からやってんなー」
「見せつけられる方の身にもなってみろっての!」
「ひゅーひゅー」
「ふーふー」
「私も先輩達みたいに仲の良い恋人欲しいな~」
「くそっ、後輩がイチャイチャしてるせいで一夜漬けした内容全部飛んでった!」
おい、何でみんな羽那子の事知ってるんだよ!?
羽那子も先輩や後輩関係なく手を振って愛想振りまいてるし。
「何でみんな俺らの事知ってんだ……?」
「去年の学園祭でベストカップル賞に選ばれたあんた達の事を知らない生徒がいる訳ないでしょ? 今さら何言ってんの?」
えっとりなりんさん、ベストカップル賞って何です……?
あれ、もしかしてこれ、マジで世界で俺だけが幼馴染の事を知らないって事か……?
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