第2話 異常は重なっていく
「はああっ」
目の前で、疲れた顔をしているのは、ミリー。
「お疲れ」
そう言いながら、温め直した煮物をテーブルにおく。
「ありがとう。これってイサークさんの店?」
「そう。あそこは、基本の味がなんだか他と違うよね」
「うん。あの人、どこかの島国から来たんだって。親から教えて貰った、出汁とか言うのを使うらしいわ」
「そうなんだ」
そう言って、エールもコップに注ぐ。
「あー美味しい」
「どうしてそんなに疲れているんだ? 帰りも遅かったし」
「ああ。いつものことだけど、登録したばかりの新人が、三人とも帰ってこなかったのよ」
なれたことだが、ミリーは落ち込む様子を見せる。
年間に、結構な数の未帰還者が出る。
「それは、大変だったな」
「うんまあ、良くある事よ。それよりゴブリンの巣ありがとう」
「どういたしまして。巣穴だから後で埋めないと、まずいぞ。他に出入り口はなかったけれど」
いくつかのベテランに、依頼を出すから大丈夫でしょ。
そう言いながら、夕食を済ませる。
昼間見た事件のせいか変に高ぶり、ミリーが気絶するまで頑張ってしまった。
「おはよう」
ミリーは照れた感じで挨拶をしてくる。
そして、ぎゅっと抱きしめてくる。
「どうした?」
「ううん。何でも無いの」
そう言って、二人で固くなったパンを軽く炙り、昨日の煮物をおかずに朝食を食べる。
ギルドで適当に依頼を受けて、近くの村まで遠出をする。
ミリーが顔を寄せ話しかけてくる。
「ごめんね。巣穴の方へ人手が掛かって。他に適任者がいないのよ」
村に出てくる、ゴブリン退治。
場所で考えれば、巣穴の連中じゃないかとも思うが、まあいい。
「ひょっとすると、泊まりだな。まあ早く帰ってくるよ」
「分かった。気を付けてね」
そして、門へ行くと、今日もイバンさんは立っていた。
「おはよう」
「おう、おはよう。今日は何処まで行くんだ?」
「隣村」
「結構あるな。まあいい。ちょっとくらい遅くても、詰め所にいれば開けてやる。外から声をかけろ」
「ありがとうございます」
そう言って手を振り、町を出て行く。
思い出される昨夜の事。
「別れたんだな」
思い出される、遅くなっても声をかけろ。
「ありがたい。往復で十キロ以上あるからな。上手くゴブリン達が出てくれればいいが、来なければ遅くなる」
そんなことを言っていると、かなりギリギリ。
いや、途中で日が暮れてしまった。
「だあぁ。村で泊まれば良かった」
走ったが、当然門は閉まっている。
イバンさんに声をかけて、開けて貰おう。
今朝言ったように居れば良いが、そうでなければ、門の前で野宿だ。
「すみません。イバンさん。俺です。ジギルハイドです」
三回ほど、声をかける。
「だめかぁ」
思わずへたり込む。
「流石に遅すぎだぞ。もう帰るところだった」
少し開いた門から、イバンさんが顔を出す。
「ありがとうございます」
「馬鹿声を出すな。さっさと入れ」
そう言って、叱られる。
お礼を言って、ふらふらとギルドへ向かう。
だがもう門が閉まったからか、誰も居ないようだ。
酒場の方にはまだ居るようだが、まあ良い。
明日出直そう。
そして、帰って行くが??
一軒の店から、ミリーが出てくる。
相手は、ルカスだな。
「いやあ、ミリーちゃんどうだった? 新作料理」
「はい。あの、美味しかったです」
どこから出している声だよ。
カウンターの中で聞く声よりもう一段高い声。
「俺達の付き合いも、もう一年。どう? そろそろ返事をもらえないかな? 親も、ギルド職員のミリーちゃんなら、読み書き計算が出来るし問題ないって言ってくれているし」
「そう。ですね」
そんな会話を聞いて、俺は当然パニックだ。
一年の付き合い?
普段そんなそぶりはなかった。
いや仕事が大変だったと言って、遅くなることが何度かあった。
まだ子供は困ると言って、避妊薬を塗っているのも知っている。
だけど…… そうか。
ギルドの仕事の割り振り。
外で泊まりが結構ある。
今日だって本当は、入れなかった。
二人は、仲良くルカスの家へと入って行く。
そこで俺は、勇気が出せず家へと帰る。
冒険者より、店をやっている奴の方が金はある。
それも、いつ死ぬか分からない俺よりも安全。
そうだ。ミリーのためを考えれば、絶対にその方が良い。
奴は方々の女に、手を出しているようだが。
今の状態で、そんなことを言っても信じないだろう。
布団をかぶりベッドで丸まる。
そして夢を見る。
奴の家。
そのベッドで奴を受け入れ、抱き合う二人。
俺は、持っていた剣を振り下ろす。
ルカスの背中を貫いた剣は仲良く、ミリーの胸も突き通す。
下半身も繋がっているし、丁度良い。
何が良いのか分からないが、そんな変なことを考える。
騒ぎで家人がやって来るが、俺には気がつかない。
いたずらを思いつき、奴の両親を斬り合わせる。
夢だからなのか、イメージをすると剣を持ち出し斬り合いを始める。
そんな光景をただ見つめる。
「ははっ。こりゃいいや」
結局、屋敷に居る奴らに斬り合いをさせてみる。
その間に、家捜しをして、金を貰う。
そして、火を放たせる。
憲兵も来たが、ついでに手伝わせて、火を広げる。
なんだか少しすっきりした。
明日になれば、帰ってきたミリーはどんな顔で驚き、どんな言い訳をするのだろう。
だが、朝になって起きようと思ったが、頭が痛い。
体もだるい。
報告だけすることにして、今日は休もう。そう考える。
そう言えば、ミリーが帰ってこない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます