他人の秘密は蜜の味と言うが、触れてはいけない秘密もある。

久遠 れんり

第1話 始まった異常

 その日俺は、ギルドからの依頼を受けて、ゴブリンの巣を探していた。


 街道沿いや、森の中で人が襲われる事件が、多数起こっている。

 ギルドが聞き取りをして、簡単な地図にバッテンがついたものを見せられる。

「ジギルハイドさん。このバッテンから、推測をしてください。巣を見つけるだけで結構ですので」

 受付のミリーから、忠告を受ける。


 丁度チームを組んでいた仲間が、ダンジョン攻略をしに行くと言い出して、この町を出て行ってしまった。


 俺はなんとなく乗らなくて、この町に残ってしまった。


 いや、それは言い訳。


 村を出るときに、長に言われた言葉。

「村を出るのは良いが、居場所は教えておけ。特に一七の時には、はっきりとさせておけ」

「なに、祝いでもくれるのか?」

「まあ、そんな所だ」

 そう言う長の横で、親父達も笑っている。


「頑張って、仕送りでもしてくれ」

 そんな事も言われたが。

 まあ家には、弟たちもいるから、生活は大変だけどな。


 子供の頃から、農家にしては珍しく、武術と体術を習う。

 変わった村というわけではなく、明確な理由もある。


 国境に近いこの村では、隣国の兵が野盗のように現れる。

 近隣の村を襲うなんて事が結構あるし、戦時には徴兵されて、出陣がある。


 生き残って帰るには、日々の訓練が必要だと言うことらしい。

 まあ、そのおかげで、この世界で標準的な体。

 百六十五センチの身長で、細身。ガキの頃から鍛えた体と、もう染みこんだ体捌きによって、冒険者になっても困らなかった。


 一五歳で、この町へ来て二年。


 仲間は、行ってしまったが、俺は、受付のミリーと、付き合ってもいたりして、結構楽しく暮らしている。



 山側へ入り、獣道を探す。

「あのいい加減な地図だが、痕跡があって助かった」

 襲われたのが、最近だったようで、血の跡が土で固まり残っていた。


 山の中では、町が近いこともあり、他の冒険者チームもうろうろとしている。

 初心者は、薬草やきのこ採取、他にも木の実を採取など色々と仕事はある。


 そんな中、一つのグループだが様子がおかしい。


 まだ若く、初心者だろう。

 一生懸命、薬草採取をしている三人組。

 男が二人と、女一人。


 だが、女が何かを言って離れる。


 その瞬間、一人の男が、素早く短刀を抜き、もう一人の首を掻き切る。

 暗殺者のように、きっちり声を出されないように口を押さえて。


 とっさに身を潜めて、その様子を見る。


 茂った草むらにその死体を隠し、何事もなかったように薬草を探すその男。


 やがて帰ってくる女の子。


 男を見つけて、再び採取を始めるが、もう一人がいないことを聞き始める。

「さあ。その辺りにいないか? それともお前が心配で見に行ったか」

 少し距離があり、聞き取りにくいが、そんなことを言っている。


「えー。会っていないし、セリノったら何処へ行ったんだろう」

 そう言って、その子が男に対して背を向けた。

 後ろから、羽交い締めに抱きつく男。


「ちょっと何をするのよ。やめて」

「お前達が付き合っているのは知っているぜ。もうやったのか?」

「ちょっと。本気で怒るよ。やめて」

 彼女は、体をひねるが逃げられない。


「もう放して、すぐにセリノも帰ってくるし、誤解されると。ひうっ。何処を触って。んんっ。っやめっ」

「大丈夫だよ。ゆっくり楽しもうぜ」

「ちょ本気で。やめっ。ああっ」


 彼女は、木へ押しつけられて、一気に下履きを降ろされる。

「やめっ。くっ。痛い。やめっ」

 そんなことを言っても、やめる気配はない。


 そのまま、突っ込まれる。


 そこで、彼女の抵抗はなくなり。体から力が抜ける。

 地面に押さえ込まれ、行為は続く。


 泣き始める彼女。

 だが男は止まらない。


 意外と早く終わり、男は口を開く。

「俺と付き合え」

「いやよ」

 彼女は、突っ伏したまま、気丈にそう答える。


「町へ戻れば、憲兵に報告をするわ」

 その言葉は、悪手だと思ったら案の定。

「じゃあ、死ねよ。セリノが待っているぜ」

 そう言ってそいつは、彼女の首を切る。


 さっき、セリノとかいう男を突っ込んだ草むらへ、彼女も押し込む。


 一瞥した後、彼はどこかへ行ってしまった。


 俺はそれを見て動けなかった。

 報告しなければ、そう思うが胸が苦しい。

 動悸が収まらない。


 どのくらい経っただろう。ふと意識が戻る。

 のろのろと立ち上がり、俺は見なかったことにして、ゴブリンの巣穴を探すことにした。


 無意識に、現場で血を触ったのか、手に血が付いていた。


 山の中腹で穴を見つける。

 しばらく近くの木の上で、ゴブリン達の出入りを見て、確定だろうと周囲を探査。

 他に出入り口はないようだ。


 町の門が閉まる前に滑り込む。


 はぐれゴブリンや、薬草を採っていて遅くなった。

「おうギリギリだな、早く入れ」

 門番の イバンさんがせかしてくる。


「ごめんよ」

 そう言ったが、ニヤニヤとしながら門を閉めようとする。

「ちょっとぉ」

 そう言いながら滑り込む。


「もう。意地悪だな」

「はっは。お疲れ。今日は俺も早く帰りたいんだ。遅れる方が悪い」

 そう言って、イバンさんは手を振り詰め所へと入って行く。


 ギルドで、報告と納品を収める。


 ミリーは、まだ走り回っている。


「帰りに、イサークさんの店で煮込みでも買って帰るか」

 ミリーの様子を見て、そうつぶやく。


 帰り道で、エールと煮込みを買って、帰る。


 中央の通りには、所々にかがり火があるが、帰り道はもう暗い。


 通りがかった横道から、声が聞こえる。

 誰かを、叱責する声。


「俺と結婚するんじゃなかったのか?」

「ごめん。そう思っていたけれど。ルカスって、お店が結構繁盛をして、その…… お金が沢山あるのよ。きっと門番じゃあ…… ぐっ」

 暗くて見えないが、あの声はイバンさん。


 暗さに目が慣れると、彼女の首を絞めている姿。

 そっとその場を離れる。


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