ニ 奇妙な友人

「おい! おまえらもビビってねえで入って来いよ! とんだチキン野郎どもだな!」


 俺達が呆れて見守っていると、中からは祭壇のものを物色しているのか? ガタゴトいう騒がしい物音とともに、今度は俺達を挑発するかのような台詞が聞こえてくる。


 それにはいい加減、俺達もカチンときた。


「そうだ。いいこと思いついた。ちょっと手を貸せ……」


 妙案を思いついた俺は、AとCに目配せして階段を登ると、左右から一気に扉を閉めてやった。


 調子こいてるBを閉じ込めて、ちょっと懲らしめてやろうと思ったのである。


「……あっ! てめーら、ふざけんなよ? んなことでビビるかよ……おい、開けろよ!」


 わずか後、すぐにそれに気づいたBは扉の裏側まで来て開けようと内側から押してくるが、俺達が全体重をかけて抑えつけているので開くはずもない。


「おい! ふざっけんなよ! なにベタなことしてんだよ? ぜんぜんつまんねーぞ!」


 まったく開かない扉に、Bもガンガンと中から押しこくり、強がりは言っているもののけっこうビビっている様子である……いい気味だ。


「ほんと、てめえらいい加減にしろよ? いい加減にしねえと……え? なんで? ひぃっ…」


 だが、しばらくすると、なんだか妙なことを口走った後に突然、Bは静かになってしまう。


「……あれ? 中で何かあったのかな?」


「いや、逆に俺達を騙して慌てさせる気でしょ?」


 Bの異変に俺達は訝しがるが、やつの自作自演だと判断すると、無視してそのまま扉を抑え続けることにする。そっちがその気ならここは我慢くらべだ。


「……いや、それにしても長すぎないか?」


 ところが、いつまで経っても社殿内から物音はしてこない。


「おい! B? どうしたんだ? なんかあったのか?」


 俺は扉ごしに声をかけてみるが、やはり向こうからはただ沈黙が返ってくるだけだ。


 なんだか嫌な胸騒ぎがする……。


「悪かったよ、B。謝るからさあ……あれ、開かない。なんか開かないぞ!?」


 それでもBが不貞腐れて無視している可能性を考え、悪戯を詫びながら扉を開けようとするが、今度はこちらが引っ張ってもまるでびくともしない。


「おい! B! どうしたんだ!? おまえが抑えてんだよな!? ……クソっ! なんで開かないんだよ!」


「B! 大丈夫か!? 大丈夫なら返事しろよ!?」


 今度は俺達が慌てる番だった……俺達は必死に扉を引っ張って開けようとするが、朽ちかけた木製の戸だというのに鉄みたいに固まっている。


「クソっ! 開けよ! 開けってば!」


「B! 返事しろ! 今開けてやるからな!」


 慌てふためき、必死になって扉を開けようとする俺達。


「おい、どうしたんだ?」


 ところが、そんな俺達の背後から不意に声が聞こえる。


「……え? B!?」


 振り返ると、それはBだった。社殿に閉じ込められているはずのBが、なぜか平然とそこに立っているのだ。


「お、おまえ、どうして……いつ外に出たんだよ!?」


 驚いた俺達は、唖然とした顔でBに尋ねる。


「なに言ってんだよ。さっきからずっとここにいたろ?」


 だが、その問いにBは訝しげな様子で、むしろ俺達がおかしいとでもいうかのようにそう答えるのだった。


 そんなバカな……確かに扉は閉まったままだったし、その前にはずっと俺達が陣取っていた。Bが外に出る方法も、また、その隙もまったくなかったはずだ……いつ、どうやって外へ出た?


 まさに狐に抓まれた・・・・・ような心持ちである。


 もしかして、他にも出入り口があるのだろうか? そうやってイリュージョンみたいなことして、Bは俺達を驚かそうとしている可能性もありうる……。


 そう思って社殿を一周してみたが、そんなものはやはりなさそうだ。


 じゃあ、いったい……まさか、本当に狐に化かされてるなんてことは……。


「みんな、いったいどうしたんだ?」


 訝しげな声の調子で、またもBが尋ねてくる。


「お、おい、よくわかんないけどなんか変だぜ? もう充分見たし、そろそろ帰ろうぜ?」


「そ、そうだな。もう時間も時間だし……」


「あ、ああ。他にはなんもなさそうだしな……」


 その奇妙な出来事に、なんだか急に怖くなってきたBを除く俺達三人は、そう言って頷き合うと問答無用でBも連れ、早々に廃神社を後にすることにした──。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る