化かすもの

平中なごん

一 調子こいた友人

 これは、俺が高校の頃の話だ……。


 当時、けっこうヤンチャをしていた俺は、悪友のA、B、Cと一緒によくバイクを乗り回して夜遊びをしていた。


 そんなある日の夜、俺達はいつものこのメンバーで、心霊スポットへ肝試しに行かないかという話になった。


 その数日前、さほど遠くもない山ん中にある廃墟の神社が、かなりヤバイとこだというウワサを学校で聞いたのがきっかけだ。


 そのウワサによると、どういう理由かは知らないが今は祀る者もいなくなった廃神社で、なんでもその神社の建つ山には人を化かす狐が棲んでいたとかいう伝説もあるらしい。


 遊び半分で肝試しに行くと、その狐の霊が出るだとか祟られるだとか……。


 すっかり日も暮れ、時刻も夜の九時を回った頃、俺達はいつものように駅前で集合すると、その廃神社へ向けて意気揚々と出発する。


 場所はAが調べてきていたので、俺達はAを先頭にバイクを連ねてその後についてゆく……明るい市街地を抜け、辺りが田んぼや畑ばかりの真っ暗な郊外になったかと思うと、すぐに景色は樹々に囲まれた山の中へと変化した。


 ポツン、ポツン…と等間隔に立ち並ぶ古びた街灯が、淋しく燈るだけの狭い山道をさらにしばらくゆくと、不意にAは脇へと曲がり、舗装もひび割れて雑草の飛び出した、よりいっそう狭い悪路へと入って行った。


「どうやら着いたみたいだ!」


 やがて、Aがバイクを停めて後方の俺達にそう叫ぶ。


 そこは少し開けた平らな場所で、バイクのライトに照らされ、石の鳥居と朽ちかけた石の階段が前方の闇に浮かんでいる。


 季節は秋もだいぶ更けてきた時分。石段にも鳥居の上にも、落ち葉がいっぱいに溜まっている。


「ここかあ……なかなかイイ雰囲気じゃんか。さ、早く行こうぜ」


 バイクのエンジンを切るとそうイキるBに促され、さっそく俺達は鳥居を潜って石段を登り始めた。 


 各々懐中電灯を点け、足下を照らしながら慎重に石段を登ってゆく……湿った落ち葉で足が滑りやすくなっているものの、思ったよりも石段はしっかりしていて、俺達はなんなくその上の高台へと到着する……。


「なんだ。廃神社っていうわりにはしっかりしてんじゃん」


 すると俺達の視界には、闇の中に浮かび上がる古びたお堂のような木造の建物が飛び込んできた。


 懐中電灯を向けると、屋根は苔むしているし、だいぶ板壁も古びてはいるが、Bが言うように〝廃神社〟と呼ぶにはまだ早いような気がする。


 だが、風の音もしない真っ暗な深夜の山の中で見るそれは、やはり不気味な雰囲気を醸し出している……。


「おおーい! 幽霊だかキツネだか知らんけど、なんでもいいから出てこーい!」


 みんな同じことを考えていたのか? 俺とAとCがしばらく社殿を見つめていると、不意にBがそんな大声をあげる。


 Bはいつもそんな感じで調子に乗ったやつだったが、加えて俺達の中でも特に霊というものの存在を信じてはいなかった。


「ほらあ、早く出てこいよーっ!」


 そのため、心霊現象も起こるわけがないと思っているBは、霊を挑発するような言動をエスカレートさせてゆく。


 最初は大声で罵るだけだったものが、次第に社殿の軒下柱をガンガン蹴って回ったり、正面に置かれた賽銭箱を持ち上げて放り投げたりと実力行使に出るようになる。


「お、おい! やめろよ。バチ当たるぞ?」


「そうだぜ? 一応、神社なんだしさ」


 そのあまりのやりようを見て、さすがにAとCはそう言ってBを止める。


「ハァ? なんだビビってんのかよ? バチなんか当たるわけねーだろ? ってか、おい! 神さまいるんならバチ当ててみろよコラ!」


 だが、その忠告は火に油を注ぐこととなり、乱暴狼藉をやめるどころか賽銭箱裏の低い階段を登ったBは、ガタガタ大きな音を立てながら正面の扉を強引に開きにかかる。


「お、開いたか。おおーい! 神さまーっ! いや、おキツネか? 早く出て来てくださいよー!」


 そして、どうやら鍵はかかっていなかったらしく、観音開きのその扉が半分ほど開くと、できた隙間から真っ暗な社殿の中へと入っていってしまった。

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