第9話 私の気持ちも知らないで……

今日は俺の初配信日、朝から見るからに怜の機嫌が良かった。それと、いつバレたか分からないが姉さん達にVTuberのことがバレてた……まぁ真昼姉があの二人から隠し事なんてできるはずないか。

 ︎︎まぁ別に困ることでもなんでもないんだけど、姉さん達に配信を見られてる可能性があるって考えるとなぁ……真昼姉に見られたんだし今更か。


「ようやく初配信日かぁ。楽しみだなぁ、朝日の初配信」


「この前怜の配信に出た時が初配信のようなものだろ。怜の知名度のおかげでコラボした俺の存在はネットで結構広まってるんだから」


見ている限り怜の初コラボがあの時で、コラボした俺はデビューしてないのにも関わらず人気ってわけだ。どこかで別の活動をしてないか探すやつもいたけど出るはずがない、だって俺は何者でもないから。

 ︎︎曲を聞いて、配信を見たりするだけ、全て与えられるだけだ。


でも今日からは俺も与える側だ、与えられるだけなのは終わり、どうやったら視聴者を楽しませれるかを考えないとな。幸い怜とコラボしたのと会社の告知のおかげでチャンネル登録者は三万を超えていた。


「私は朝日の初配信見るためだけに事務所に行こうかなぁ。今日は別に配信日じゃないけど、ゲリラで同時視聴してもいいかも」


「黙って隣で見てるだけにしてくれ、さすがに俺の配信を見ながら怜が感想を言ってるのを配信されるのはな? 同時視聴ならアニメとか映画とかを見ておけ。俺みたいに黙って見るか、コメントだけするかどっちかにしてくれよ?」


「分かってるって。朝日みたいに隣で見ながら、スマホでコメントするからさ」


俺は別に隣にいて欲しいなんて頼んでないけど、まぁいいか。というか怜がコメントしたらコメント欄が絶対ざわつくじゃん? でも怜が俺の配信を見に来ることも大体予想されてるか、幼馴染だと言って一緒に配信したんだし。



§



学校について、もう少ししたら朝日が来るはずなので私は廊下で待っていた。


「ちょまて、無視するな。止まれ止まれ」


私は慌てて朝日の肩を掴んで止める。


「その声は……詩乃だよね? そんな髪短かったっけ……。告白でもして失恋でもした?」


「デリカシーはどこに捨ててきたのかなぁ……。失恋はしてない、私はまだまだ片思い中だし髪を短くしたのはただのイメチェン! それで何か言うことあるでしょ?」


「前からずっと可愛いけど、もっと可愛くなったかな? これで片思いしてる人も振り向いてくれるんじゃないかな、まぁそのためにイメチェンしたんだろうし頑張ってね」


(私の気持ちも知らないで……。ほんと、無責任な発言をするなぁ)


助言のつもりなんだろうけど、朝日が振り向いてくれなきゃ意味が無いんだよ。他の男子が百万回好きと言ってもらうより、私は朝日に一回好きと言ってもらいたい。

 ︎︎私の片思いしてる人は朝日で、朝日がその事に気づくまでは私も曲を作り続ける。


「話は変わるけど、今日は朝日が配信だけダメだとして……いつ私と遊んでくれるのかな?」


「もう少しで夏休みだし、普通に遊ぶだけじゃなくてなんか特別なことでもするか? ちなみに怜は毎年夏休みになったら絶対に一度は俺の家に泊まりに来る」


「それをわざわざ言うってことは私も行っていいってことなんだよね?」


そういえば朝日の家って行ったことがない、怜ちゃんは相当な回数行ってるだろうし朝日の家族とも仲がいいんだろうなぁ……。


それにお泊まりなんて初めてする。女子同士ですらやった事ないのにいきなり男子かぁ……まぁ朝日だしいいんだけど。


「ただ、癖の強い姉が三人いるから気をつけてね? 高確率で着せ替え人形にされるから。写真も取られるだろうし……まぁ優しいのには変わりないよ、ほんのちょっと俺が連れてくる女子に興味津々なだけだから」


私にとっては朝日のお姉さんたちと関われるのはチャンスかも。朝日の好みとか、聞いたり色々アドバイスを貰えるかもしれない! そうと決まれば私の答えはただ一つだ。

 ︎︎アドバイスをもらって私の気持ちも知らないで呑気に過ごしてる朝日好みの私になってやる!


「それじゃあ私も行く! 怜ちゃんとかと一緒にお泊まり会楽しそうだし。着せ替え人形にされて写真を撮られるくらいなら別に気にしないって」


怜も詩乃もその取られた写真が全て真昼の手によって朝日に送られているということを知る由もない。なぜなら真昼は性格上そんなことをしないと印象付いてるから。

 ︎︎もしバレても送信取り消しをしてる真昼が怒られることは無く、怒られるのはその写真をしっかりと保存している朝日だけなのである。


「それじゃあ姉さん達と母さんにも伝えておくから。ちなみに詩乃は今日の配信を見るつもりで?」


「もちろん見るに決まってるじゃん、普段から私の曲を目の前で聞かれてその場で感想を言われるっていう辱めを受けてるんだから。私だって朝日の配信を見て感想を伝えてあげるから覚悟しててね?」


「あ、はい」


今まで散々感想を言われ続けていたから、その分をお返ししないとね。まぁお返しと言うより、私の朝日に対してどう思ってるかを伝えるんだけどね。

 ︎︎もちろん直接言うつもりは無いしそれっぽい理由はつけるつもりだ。


朝日に気持ちが伝わらないのは朝日が鈍感すぎるだけじゃなくて私も悪いかもね。さっさと告白して終わらせればいいのにそれが出来ないんだから。


『好き』と一言を言うのにどれだけの勇気がいるかは恋をしている人にしか分からない。


中三からのこの恋はいつ終わるだろう。終わるなら、告白して終わりたい、その告白が成功でも失敗でもいい……告白もしないで後悔するのは嫌だ。


「朝日、早く気づいてね?」


「何に?」


「それくらい、自分で考えろばーか」


私はそう言って教室を出ていった。

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