第6話 先輩って呼んでみてよ朝日

昨日の夜、家に帰ったあとに俺がVTuberになろうとしてることを母さんに伝えた。反対されると思ってたけど、案外そんなことがなかった。

 ︎︎何故かと聞けば凍夜さんの会社だし、怜が一緒にいるし安心だそうだ。


それで怜っていう先輩に分からないことがあったら教えてもらいなさいともいわれた。やっぱりそうだよなぁ……怜は誰から見てもVTuberの先輩ってことになるよなぁ。

 ︎︎面倒くさいことになるから姉さん達には秘密にしてもらってるけど、いずれバレるんだろうなぁ。


特に真昼姉、配信とか結構見るから偶然俺や怜の配信を見ることがあるかもしれない。まぁ真夜姉と夕姉は他の用事があるから配信を見ることは無いと思うけど、真昼姉が見つけたらそのまま二人にも伝えられるんだろうなぁ。


「朝日……ちょっと来て」


「何、真昼姉?」


ちょっと来てとか言ってるけど真昼姉の声は小さいから聞こえる時点で結構近いところにいるんだけどね。


「昨日、配信に……朝日っぽい声の人がゲストとして出てた、これって朝日……?」


早速危惧してたことが起きたんですけどー。というかなんで怜がVTuberしてること知ってるの? 怜の配信で俺っぽい声だったらどう考えても俺しかいないやろ。


「俺だけどさ、他の姉さんには黙ってて欲しい。あ、俺がVTuberになるってことだけじゃなく、怜がVTuberやってるってこともね?」


「分かった……僕と朝日だけの秘密にする。その代わり怜ちゃんにまた写真撮らせてって、言っておいて」


「ん、分かった。じゃあ怜が待ってるし学校行ってくる」


「ん、行ってらっしゃい……」



§



学校に来たらもう一つ問題が出てくる……そう、怜のファンである詩乃の存在だ。詩乃は仕事柄声には敏感だし、よく話してる俺の声だとバレてるかもなぁ、怜と詩乃は話したことがないからバレてないがワンチャンバレるかもしれない。


そんなことを考えながら教室に入ると、早速詩乃に肩を掴まれた。


「昨日のことについて説明してもらおうかな? 明らかに朝日の声だったと思うんだけど」


「説明するからとりあえず手を離せ、そしてちょっと着いてこい」


そのまま怜を呼んで人気の少ない屋上にまで移動した。


「よし、ここならいいな。詩乃、確かに詩乃が思ってる通り昨日の声の主は俺だしVTuberを始めるつもりだよ。 ︎︎それでVTuberのレイは俺の幼馴染で今隣にいる怜なんだけど、ここまでわかった?」


「今呼んできた人がレイちゃんの正体で、朝日の幼馴染?」


「そう」


詩乃は怜を数秒間見つめて怜の手を握ってブンブンと振った。


「お、推しが目の前に……そうだ、サインください!」


「ま、また後でね。朝日、ここまで熱狂的なファンが近くにいるとは思わないじゃん!」


「この前言わなかった? お前のファンがいるって」


確か詩乃と話してたことを怜が問い詰めてきた時に言ったはずだ。


「これからは朝日と一緒に配信することが多くなると思うからよろしくね。それでさ……先輩って呼んでみてよ朝日」


「やーだね、俺はまだ所属してないし。まぁどっちにしろ先輩って呼ぶつもりはないけど」


「一回、一回だけでいいから、ね?」


いや、普通にもうすぐホームルーム始まっちゃうから帰らせて欲しい。でも怜に手を握られていて戻れない、多分言うまで戻れないだろこれ。

 ︎︎というかなんで詩乃は戻らずに見てるんだよ、詩乃も俺が先輩って言うのを見たいってのか。


「ホームルーム始まるから早く戻るよ……怜先輩?」


「やったー! 朝日に先輩って呼んで貰えた!」


そこまで嬉しいものかな、これ。言われた怜だけじゃなくて詩乃も嬉しそうなのは意味がわからないけど、とりあえず俺は足早に教室へ戻った。



§



今日の夜に凍夜さんのところに行って母さんに契約書を書いてもらわないといけないから早く帰りたかったんだけど、今日だけ先生の手伝いを任されてしまった。別に断ることも出来たけど、先生の手伝いは今しか出来ないし契約書は後に回そうと思えばできるからな。


「手伝ってもらって悪いな朝日、ちなみに学校生活はどんなだ? ちゃんと楽しめているか」


「友達はずっと変わらず怜と詩乃だけですけど楽しくやってますよ」


「まぁそろそろ夏休みだ、高校初めての夏休みを楽しめよ。ただ羽目を外しすぎないようにな、ちゃんと課題をやって怪我しないように遊ぶんだぞ」


まぁ怜は配信するだろうし、詩乃は曲を作ることに専念するだろうから外で遊ぶことは無いかな。それで俺も配信することになるだろうし、怪我よりもネットに気をつけないとな。


しばらくして先生の手伝いが終わったので家に帰ろうとすると、当たり前かのように怜が待っていて母さんが車を停めて待っていた。


「ほら、二人とも乗って。凍夜さんの会社まで向かうわよ」


「いくよ、朝日。今日こそ本当に朝日がVTuberになる日だよ」


「ん、実質昨日なったようなものだけどな。俺専用のはアバターで誰かが寝たせいで俺は一人で配信したし」


車に乗り込むと怜が頬をぷくりと膨らませながら俺の肩にもたれてきた。まぁ今まで配信中に寝たことなんてなかったし、視聴者に寝てることを見られて恥ずかしかったんだろうなぁ。


VTuberになったあと、どんな生活が待ってるか楽しみだ。

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