第2話 頑張ろうね、朝日

怜がVTuberをしてということを知っているやつは居ないが、怜の配信を見ている人は俺の数少ない友達の中に居た、それが成瀬詩乃なるせしのだ。


「ねぇ朝日、今日の配信はもちろん見るよね?」


「会った瞬間その話をするのをやめてくれって、俺は詩乃しの程VTuberには詳しくないし。まぁ見るけどさ」


俺の『見る』と詩乃の言う『見る』は違う、俺は配信している姿自体を見ているが詩乃は配信を見ているのだ。というか今日の配信は何するんだろ、いつもはゲームとか雑談とかしてるけど。


「それでついさっき告知されたんだけど、今回は特別ゲストも出るみたい! しかもちゃんとそのゲストの人もアバターを持ってやるんだって」


「そうなんだ」


「レイちゃんがゲストを呼ぶのって初めてのことだし、どんな人なんだろ」


同じ事務所の子かなとか予想してる詩乃には悪いけど、そのゲストというのは目の前にいる俺です。そういやVTuberの怜はレイ・ターフェアイトって名乗ってるけど、俺が出る時はなんて名乗ればいいんだろ。

 ︎︎まぁ今日一度の出演だし無名でも問題ないか、好評で俺がちゃんとVTuberとして始めるようになるのなら名前を考えればいいや。


「よく考えたら朝日ってVTuberとか興味無さそうなのに案外見てるよね、まぁレイちゃんだけだけど」


「怜以外のVTuberには興味無いかな、正直お前が出す曲の方が楽しみ。次も片思いの曲を期待してるよ、Shinoさん?」


「ば、バカ!」


怜のファンである詩乃だが、高校生ながら顔出しNGでシンガーソングライターをやっていて片思いの曲を数々と作ってきて人気を獲得してきた。ネットの人たちの曲を聴いた感想を挙げるするならば本当の片思い中みたいでリアルだったとか色々である。

 ︎︎詩乃からは恋愛してるなんて話は聞いてないので、経験なしでそういう曲を作れる詩乃は天才だと思う。


「……私がそういう曲を作ってる理由を考えろよバカ……」


「何か言った?」


「ううん、何も無い。ただちょっと朝日を罵倒しただけ」


「なんで!?」



§



昼休みに俺は今日のことについて色々聞こうと、屋上に怜を呼んで一緒にご飯を食べていた。


「ねぇ朝日、あの女誰?」


「誰……とは?」


「ほら、朝に仲良く話してたあの子! 朝日は私以外に女友達居ないんじゃないの?」


ひっでぇ、確かに友達は少ないとは言ったけど女友達が怜以外に居ないなんて言った覚えは無いけどな。普通に考えて男友達より女友達の方が多いのはおかしいけどな、その上二人は有名人で俺みたいな一般人と幼馴染や友達やってるのが不思議なくらいだ。


「詩乃は一応お前のファンだからさ、今回の配信も楽しみにしてたぜ? まぁ俺が出るから、いつもより面白くなくなりそうだけど」


「そんなことないって、一応今日は雑談だし自分の体験談でも話してくれればいいからさ。設定上も幼馴染ってことにしてるし、話せる事もいっぱいあるんじゃない?」


設定上そうでも、リアルのことを話していいものかね。視聴者がその二次元上の俺と怜の話だと思ってくれればいいけど、やっぱりネットはそう上手くはいかないだろう。

 ︎︎前も言ったけど一定数は俺がレイの配信に出ることに反対するやつもいるだろうし、雑談で話したことを勝手な解釈をするやつもいると思う。


どっちにしろまだまだ子どもである俺たちにどうにかする術があるわけじゃないし、もしそうなった場合は凍夜さんに任せよう。尤も、俺達もそうならないように気をつけないといけない訳だが、大体はファンの熱烈すぎる愛が爆発した場合に起こるから気をつけようがなさそうだけど。


「頑張ろうね、朝日」


「まぁやるからには全力でやるよ、今回で終わりだけどね。勉強と両立できなさそうだし」


「それはだったらの話でしょ? 変わったよねぇ、あれだけ勉強しなかったのに真白さんのところで過ごすようになってから一位を維持してるんだから」


昔の俺は悪ガキだった、普通に面白がってイタズラばっかりしてたけど今思えばそれはパチ……父親のせいだったのかもしれない。まぁ母さんが離婚して五人で過ごすことになったから俺もイタズラばっかりしてられないなぁと思って勉強したら何故か一位を取れちゃったという話。

 ︎︎俺の動力源は家族、多分家族のためならなんだってできる。


「別に俺は一位を目指してるわけではないし、俺がVTuberというもの興味を持てば週一とかでやるかもしれないけど」


さすがに学生なんだからVTuberになったとしても配信はそこまで多くできない、本業は勉強だよ勉強。


「うんうん、朝日がVTuberになってくれたら叔父さんも喜ぶよ。叔父さんは元々私たちをペアでデビューさせようとしてたらしいからね、まぁ朝日が断ったから私だけデビューしたけど」


「怜、お前結構俺と一緒にデビューできなかったこと気にしてるだろ。そこまで俺と一緒が良かったのか? 」


「むぅ、朝日嫌い……」


そんなこと言ってるけど、それが照れ隠しなんてことはわかっている。とりあえず教室に戻るとしよう、怜が手を離してくれないけどね。


「別のクラスだし変な目で見られるから離してくれないかな? 何回付き合ってると勘違いされたと思ってるんだ」


「あの女が近づかなくなるし、別に私は朝日となら付き合ってもいいと思ってるからいいの」


「あ、そう。怜は大丈夫でも俺が大丈夫じゃないんだよなぁ」


また詩乃になんか言われる。もう諦めるしかないのかな、正直周りから言われること自体は別に気にしてないけど詩乃の機嫌悪くなるしなぁ……。


まぁ一緒に出かければいつもみたいに機嫌直してくれるでしょ。

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