幼馴染のVTuber配信に一度だけ出演した結果、好評で俺もVTuberをすることになった件

桜木紡

第1話 私の配信に出てくれない?

俺の名前は四季朝日しきあさひ、名前の割には朝はそんなに好きでは無い、学校に行かないといけないしゆっくりする時間もないからだ。スマホのアラームで目を覚ますと誰かに乗られている感覚があった。


「おはよ、朝日」


れいはなんでいつも普通に俺の部屋に入ってきてるんだ……ほら、起き上がれないから早くどいてくれ」


「朝日が挨拶してくれるまでどきませんー」


こんな感じのことをここ最近は毎日繰り返している。俺の部屋に平然と入ってくる怜も怜だけど、普通に家の中に通す母さんも母さんだな。

 ︎︎もしかしたら薄い本でも読んでるかもしれないだろ、ちゃんと俺は持ってないけどね? 例えばの話だから。


「おはよ、怜。というか毎日俺の家に来て飽きないものなの? たまには他の誰と行きたいとか思うでしょ」


「他の友達は家が遠いし、私は純粋に朝日と一緒に学校行くのが楽しいからさっ! 朝日だってそんなこと言いながら私と一緒に行きたいんでしょ?」


「まぁそれはそうだな、怜とはずっと一緒に過ごしてきたし今までも一緒に登校してたからな。今更一人で登校する気にはなれないよ」


俺もこの辺に友達はいないというか学校全体で見てもそこまで居ないのだが、もし居たとしても俺は怜と一緒に行っていたと思う。まぁいつも一緒に登校してるから付き合ってると勘違いされることもあったんだけど。


「それじゃあご飯食べに下に降りようか、真白さんが作ってくれてるし」


これも長年の付き合いがあるからなんだけど怜はうちの家族の一員みたいなものなんだよね。今みたいに朝にやってきても母さんは普通に家の中に通すし怜の分のご飯も作っている。

 ︎︎そして怜が俺の家に来た時に毎回起こることなのだが姉さん達が怜を取り囲む。


姉さん達とは長女で社会人二年目の四季真夜しきまや、次女で大学三年の四季夕しきゆう、三女で大学一年生の四季真昼しきまひるの三人で怜のことを妹同然に思っている。ちなみに三人とも優しい、パシってはくるけどその余ったお金はくれるから俺は喜んで引き受けてる。


とりあえず下に降りるとやっぱり怜が姉さんたちに囲まれていた。


「あ、おはよう朝日。今日は怜ちゃん来れないんだって、まぁ朝日はあたしと違って毎日一緒に居れるから来れなくても関係ないか」


「そうそう、こんな可愛い子と毎日一緒に登校できて朝日は羨ましいなぁ。うちも怜ちゃんと登校したいなぁ」


「僕……は見るだけで、十分。怜ちゃんを見てるだけで目の保養になる」


こんな感じで三人とも怜のことが大好きなのだが性格は全く違う。真夜姉と夕姉は普通に怜とお出かけしたりするけど、真昼姉は自分の好きな服を怜に着せて写真を撮るといった少し変わったことをしている。

 ︎︎真昼姉は可愛い服を怜に着せて写真を撮るまでは怜が許可してるならいいんだけど、それを俺に送ってくるのは許可があってもやめて欲しいかな。


幼馴染のワンピース姿とかパジャマ姿の写真を結構な頻度で送られてくる側の気持ちを考えて欲しい。


「真白さん、ご馳走でした! それじゃあ朝日、学校行くよー」


「なんで怜は朝からそんな元気なの……? 母さんご馳走様、それじゃあ行ってくる」


行ってらっしゃいと四人の別々の声を聞いたあと、俺と怜は家の外に出た。



§



「いつも悪いなうちの姉さん達が、三人を同時に相手するのは疲れるだろ?」


「まぁ確かに疲れるけど楽しいからいいんだよ、それで。それで、朝日は今日も事務所に来てくれる?」


「あぁ、俺も暇だし別にいいぞ」


事務所というのは怜の叔父である凍夜さんが経営しているVTuber事務所『Restart』、そう何を隠そう怜はVTuberとして活動しているのである。ちなみにそれを知ってるのは怜の親以外で言えば俺と母さんだけである、姉さん達ですら知らない。

 ︎︎俺は毎日その付き添いとして着いて行ってる、怜曰く俺が隣にいると落ち着くからだそう。


配信をするということをもちろん気をつけないこともあるわけで、俺は物音を立てないように気をつけないといけない。ネットの女配信者というのはその配信に少しでも男の影があったら炎上すると怜の初配信の時に凍夜さんから気をつけてとよく聞かされたものだ。


「朝日もVTuberになれば一緒に配信できたりするんだけどなぁ……」


「いやいや、凍夜さんからVTuberというものは散々聞いてきてるし……なんだっけアバター? 俺の分のアバターがないから俺がVTuberにはなれないでしょ?」


「あのね、私がVTuberになるって言った時に朝日は断ったけど朝日もならないかって聞かれたでしょ?」


結構前のことだけど、確かに俺はあの時断っていた。俺自身、興味がなかった訳では無いが俺は怜みたいに勉強と両立出来る気はしないし俺はそういうのをやるのに向いてないからな。

 ︎︎その作られた『キャラクター』を演じれる能力を俺は持っていなかった。


「その時に叔父さんが一応朝日用のアバターも作ってはいるらしいんだよね。だからさ、朝日……私の配信に出てくれない?」


「俺が、怜の配信に? 無理無理、俺は怜みたいに視聴者を楽しませれるような魅力は無い。というかこのことは凍夜さんに説明してるの?」


「もちろんしてるよ! 朝日をVTuberにするために朝日が知らない間に色々叔父さんと話してるんだからね?」


「準備がよろしいことで……」


もし俺が配信に出たとして視聴者はどう思うだろうか? 俺は男だし一部の過激層が黙ってないかもしれない、そうなったら配信をすることが難しくなるのは確実である。俺は怜の配信を楽しんでいるので俺としても怜の配信が無くなるのは嫌だし、安全策で動くなら俺が配信に出ることには反対だった。


「……今日一回、今日一回だけ配信に出てみて問題がないなら俺も考えてみる、ダメだったら今まで通り、それでいいな?」


「うん、それじゃあそういうことで!」


まぁ怜が嬉しそうだし、一回だけなら別にいいか。


朝日はまだ知らなかった、あの時凍夜さんが朝日も誘った理由を。即ち、凍夜さんに誘われた時点でその者には才能があるということに。

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