僕のわんだふる物語

朱宮あめ

第1話


 ふと、ミルクの優しいにおいがして目を覚ます。

 僕の大好きなにおい。

 優しくて、あたたかくて、みずみずしい生命のにおい。

「レイちゃん、この子はね、まひるっていうの。あなたの双子の妹よ。仲良くしてあげてね」

 ママは、手の中の小さな生命を愛おしそうに見つめながら、僕に言う。


 ――分かってるよ。この子は僕の新しいたからもの。僕が守らなくちゃいけないもの。まひるちゃんは、僕の大切な妹なんだよね。


 まひるちゃんは、よく笑う天真爛漫な女の子だった。

「レイ! まひる! おいで」

 パパとママに呼ばれ、僕とまひるちゃんは我先にとふたりの胸に飛び込む。

「ふふ、いい子ね」

「可愛いなぁ」


 パパもママも、僕とまひるちゃんを同じように愛してくれる。


 僕は、この家族が大好きだ。

 僕たちはずっとこうして一緒にいられる。こんな生活が、いつまでもずっと続く。

 そう信じてた。


 ……だけど。幸せというものは、とても儚く脆いもので。


 悲劇は、ある日突然訪れた。


 大地がふたつに裂ける轟音とともに、視界が歪んだ。


 ――パパ! ママ! まひるちゃんっ!!


 なにかが割れる音。

 なにかが落ちる音。

 だれかの悲鳴。

 音が鳴り止まない。


 ――怖い。怖い、怖い。

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