悪夢の始まり
気が付くと、私は自室のベッドの上にいた。見慣れた光景のはずだった。なのに、何かがおかしい。身体を起こそうとするが、ピクリとも動かない。冷や汗が背筋を伝う。
ふいに、玄関のドアが音を立てて開いた。どうして? この部屋には、私しか住んでいないはずなのに。
「綾乃、ただいま。いい子にしてたかい?」
目を疑った。部屋に入ってきたのは、紛れもなくSくんだった。しかし今目の前にいる彼にあの日のような爽やかさは微塵もない。ニヤリと不気味な笑みを浮かべて、こちらに一歩、また一歩と近づいてくる。
私は本能的な恐怖を覚え、重い身体をなんとか起こして逃げ出そうと試みる。しかし、金縛りにあったように身体が動かない。私にできることは、ゆっくりと迫ってくる彼の姿をただ指をくわえて見ていることだけだった。
「つかまえた」
耳元でねっとりとした囁きが聞こえる。不気味な笑みが目の前に迫る。背筋がぞくりと寒くなる。
そうだ、これは夢だ。悪い夢なんだ。だとしたら、逃げられるはず。
覚めろ、覚めろ、覚めろ!!
……見慣れた天井が視界に入る。全身に冷や汗をかいていた。あわてて飛び起き周囲を見渡すが、そこに彼の姿はなかった。ほっとため息をつく。
どうやら、先ほどの出来事は本当に悪い夢だったらしい。それが分かって、安心のあまり視界がにじんでゆく。とにかく、今は落ち着こう。お気に入りのコップに麦茶を注ぎ、一気に飲み干す。眠るのは怖かったけれど、明日も仕事だからと自分に言い聞かせて再び眠りについた。
……しかし、私の悪夢は、これで終わりではなかった。
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