運命の再会

 ふと、昔のことを思い出していた。


 あれは高校時代のことだった。私はその日に限って教科書を忘れてしまい、途方に暮れていた。そんな時だった。


 「俺の教科書、使っていいよ」


 そう声をかけてくれたのは、隣の席のSくんだった。


 「先生にはナイショね」


 そう無邪気に笑う彼が、誰よりも輝いて見えた。


 

 あれから何年が経っただろう。すっかりいい大人になった私は、とある用事で久しぶりに母校に足を運んだ。


 書類をもらうため、事務室を訪れる。するとそこには先客がいた。すらりとした長身に、よく日焼けした肌。その姿に、私は見覚えがあった。


 「Sくん!」


 彼は私を見つけると、あの日と変わらない爽やかな笑顔を見せてくれた。

 彼とこんなところで再会できるなんて、まるで夢のようだ。


 それから私と彼は用事を済ませ、連絡先を交換して別れた。食事にくらい誘えばよかったとちょっと後悔したけれど、あまりしつこくして嫌われるのも嫌だ。これでよかったんだ、と思うことにした。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る