宗徳の過去
宗徳は可夢偉が使えるものの落ちぶれた家柄だった。
約二百年前に江戸幕府が崩壊した時。
他の可夢偉使いの多くは明治政府に召し抱えられたが、明治維新で幕府方に属した但馬流は冷遇され、貧しい暮らしを強いられた。
だが可夢偉を利用し明治の中頃に入って財を成すことに成功する。武士の商法であったためそこそこの財ではあったが、貧しい暮らしからは抜け出せた。
大正、昭和、平成と時代の変化はあったが、自前の道場を持つほどの豊かさは手に入れた。
だが、令和に入り多くの企業が零落すると同様、但馬家の会社も業績が悪化していく。宗徳が物心ついた頃には道場も手放さざるを得なくなった。
そしてついに会社は倒産。ショックのあまり両親は幼い宗徳を置いて自死した。
事業が共同経営であったため、頼るべき親戚も借金を抱え夜逃げした。
幼かった宗徳は着の身着のままで夜の街に放り出されることとなる。
生活保護など十歳にも満たなかった宗徳には知る由もなかったし、名目上は大企業の御曹司である彼に下りるはずもなかった。
宗徳は幼くして入れられた養護施設でも幸せをつかめず、虐待にあい逃走した。
夜の街をゴミあさりしながらその日暮らしをするうちに、上級国民との暮らしの差を見せつけられ反感を抱いていく。
食べきれないほどの食事をパーティーで出される彼らと、その残飯をあさる自分。
夜景を見下ろすタワマンと、段ボールハウス。
やがて食うためにエデンの組織に入ることになる。
町でビラ配りに誘われ、手伝うとご飯を食べさせてもらった。入会を決意するきっかけはただそれだけ。
理念などはどうでもよく、食事と暖かい寝床があればよかった。
エデンには自分と同じような境遇の子が集められる施設があり、友達もできた。
思えばそれも彼らの手口だったのかもしれない。
初めはデモへの参加を呼びかけられた。何を言っているのかわからなかったが、参加した日はおやつがもらえたので積極的に参加するようになった。
デモで言っていることをテストする日もあり、そこで花マルがもらえるとお小遣いがもらえた。
「万人に平等な世界の実現」
「上級国民くたばれ」
「粛清してやる」
徐々にただ叫ぶだけのデモから、揉み合ったり押し合ったりといった行動が加わっていく。暴力的で違和感を感じたが、友達も一緒にやっていた。何より食事と寝床を与えてくれるエデンの人たちの指示なので、逆らおうと思えなかった。
窃盗にも手を染め、明日香を救出するときに使用したピッキングの技術もその時に習得した。
やがて宗徳は組織の在り方に疑問を抱くようになる。
自分たちで稼ぐこともなく、ただ破壊活動と寄付のみで成り立つエデン。
宗徳は徐々にやる気をなくし、活動頻度も減っていった。
やがて一人で町の外に出て一般人の会話を聞いたり、エデンでは使用が禁止されているスマホの画面をこっそり見たりして、自分たちがどのように見られているかも知った。
宗徳はこっそりと行っていたつもりだったが、子供のやること。エデン上層部ではその動きをすでに察していたのだ。
ある日友達数人と一緒にエデン幹部の下を訪れた時。いつも優しいオーノ牧師がなぜか剣呑な雰囲気を漂わせていたのを宗徳は鮮明に覚えている。
中止しようかとも考えたが、オーノ牧師は熊みたいな外見とは違って優しい。きっとわかってくれる。そう信じて。
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