暴力は何も生みませんが、暴力によらねば何も変わらない

「そういうことでしたか」


頭に弾丸を打ち込まれたはずの柴田から声がした。


「甘いことを言いながら、別の人間が背後から撃つ。やはり警官も上級国民もクズぞろいですね。『あの方』の言った通りだ」


 柴田の周囲を覆うように現れた、向こう側が透けて見えるほどの薄い壁。


 撃ち込まれた弾丸はその壁に阻まれ、燃え上がりながら溶けていった。


「可夢偉使い……?」

「なんで、柴田が使えるさあ」


「なんなんだ、お前は! どうなってやがる!」


 可夢偉使いについて知らされていないのか、小柄な警官が軽くパニくる。それでも銃口は自分をにらむ柴田に向けられていた。


やがて、柴田は服の陰から脇差を引き抜いた。刃渡りはおよそ一尺二分、炎が波打つような朱色の刃文。


「確かに、私は可夢偉使いです。暴力はなにも生まないと信じ、先祖代々の技を使うことなく生きてきましたが」


柴田は自身の周囲で受け止められた弾丸と、ドローンによって運ばれる数々の贅沢品を見て言った。


「暴力は何も生みませんが、暴力によらねば何も変わらない」


 振り上げた朱色の脇差を小柄な警官向けて振り下ろした。


「柴田流可夢偉、『北ノ庄』」


 同時。警官の周囲の空間が爆ぜる。


 黒煙の混じった朱色の炎が花火のように広がった。わずかに遅れて爆心地から広がる爆風に、宗徳と千佳は腕で顔をかばう。


だが爆発に最も近かった警官はゴムボールのように吹き飛ばされ、地面をバウンドし、周囲の瓦礫に叩きつけられて動かなくなる。


「大丈夫さあ? しっかりするさあ、」


 柿色の鞘から刀を抜いたままの千佳が駆け寄る。


 額や腕から血が流れ意識は既にない。激しい呼吸に伴い胸がバラバラに膨らみ、肋骨が折れているのが明白だった。


「これが虐げられてきた者の痛みです。思い知りましたか、上級国民のイヌめ」

「他の地点の爆破も、私が製造に協力しました。可夢偉だけでは火力が足りませんでしたし。肥料工場の薬品から合成するのに、化学の勉強がずいぶんと役立ちましたよ」


 大人をいたぶる快感か、力を振るう愉悦か。


 柴田の声には怪我をした人間へのいたわりが一切感じられなかった。


「しっかり、しっかりするさあ」


 出会ったばかりとは言え目の前で負傷した警官に涙交じりに呼びかける千佳。


 宗徳は黒塗りの鞘から刀を抜くと、冷徹な表情で千佳に指示を出した。その声には肝が縮み上がるような響きがある。


「柴田くんは僕が止める。千佳はその人を救急車のところまで」


「一人で、大丈夫さあ?」


「問題ないよ。こんな甘ったれ」


 宗徳は刀をだらりと下げた自然体で構え、柴田に向き直る。

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