産む道具
「あー、これで五十連続外れか」
手にしたスマホを机に放りだし、大きく伸びをした。千佳はおろか明日香以上のバストが制服が引き延ばされることで大きく強調され、中の形がくっきりと映る。
宗徳たちが入ってきたというのに返事さえなく、ボヤキは続いていく。
「いっそ百連ガチャにぶっこむかなあ…… だけどこれ以上の課金は、あの子にも悪いし……」
「あの!」
「なんだ、お前らか」
八重樫はスマホゲームをログアウトし、着崩れた制服を治して向き直った。
「ノックはしましたよ。そもそもいきなり呼びつけたのは八重樫さんじゃないですか」
「悪かったって…… だが多少は大目に見てくれ。国家公務員なんてのはストレスがたまるんだ」
「お酒はやめたのに、今度は課金ですか」
「いいだろ別に。私が稼いだ金だ。そろそろ二人目を産まなくちゃならんから、また産休に入るかもしれんが」
「女性も大変な時代になったわよね」
「まあ悪いことばかりじゃない。子供は可愛いし、出世にもつながるからな」
これが、日本が貧しくなった一つの要因。極端な少子化で税金を納める人間より受け取る人間が多くなってしまった。
それに対抗するため、時の政府は大胆な対策を打ち出す。
少子化と人口減少の波は、結婚と出産の価値を大きく高めていったことに着目した。
働く女性が三人以上子を産んだ場合は優先して出世できるようになり、
専業主婦でも五人以上の子を産み、育てている女性は手厚く生活の保障がされる。
フェミニストたちからは
『女性は産むための機械じゃない』
『子供を持たない女性に対する差別だ』
非難の声が轟轟だったが、独身女性を介護する人材すら足りなくなったころから批判の声も止んでいった。
同時に老人の安楽死を合法化し、胃ろうや中心静脈栄養など寝たきり老人を延命させる方法に制限をかける。さらに高齢者の医療費負担を若者と同じ割合にし、高齢者医療費を大幅に抑制することで予算は捻出された。
同時、日本は長寿大国から転落することとなる。
「そういえば…… 宗徳。また一人、敵組織からスカウトしたそうだな」
「仕方ないでしょう。少子化の時代、可夢偉使いだって希少なんです」
「まあ、情報担当と示現巌に任せておけば問題ないだろう。さて、そろそろ本題に入ろうか」
八重樫が視線を鋭くすると、宗徳と千佳の背が伸びた。
公安五課に配属されて数年、修羅場をいくつも潜り抜けてきた。だが任務を言い渡される前の瞬間は慣れることがない。
昨日銃弾の嵐を潜り抜ければ今日は寒空の下を一日中張ることもある。
同じ修羅場は二度となく、慣れは油断につながる。油断とは死への片道切符でしかない。
「今回はな……」
八重樫が口を開いた途端、彼女のスマホが音を立てた。ディスプレイに表示された番号を見たとたん、彼女はため息をつく。
スマホで通話しながら彼女は席を立った。その間ずっと、英語でも中国語でもない言語で話し続けている。アジア系の言語だろうが、詳しくはわからない。
海外のテロ組織を相手取ることもある公安という部署。高等教育を受けている宗徳たちが想像すらつかない言語に堪能な姿は、八重樫がエリートであることを如実に感じさせた。
八重樫は電話を切った後、宗徳と千佳に頭を下げた。
「すまない、来客だ。少し待っていてくれ」
「ちょっと……」
千佳の発言を宗徳は押しとどめる。彼の方が公安五課の経験は長いだけあってこういった事態にも耐性ができていた。
「そう言うな。公務員も忙しいんだ」
八重樫と宗徳たちは部屋を出る。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます