公安五課本部

 ある生徒は放課後の予定を話し、ある生徒は部室へと駆けていく。


 明日香が黒服に護衛されながら校門前のハイヤーに乗り込んだのを教室の窓から確認し、宗徳たちも鞄を肩に引っかけた。


 校門を出てしばらく歩き、電車に乗り継いで都内の桜田門駅で降りる。ビジネスマンでごった返す夕方の都内をしばらく歩くと、目的の場所にたどり着いた。


「国家公安委員会・警察庁」という黒字に金字で描かれた看板があるビル。


 二人は制服のブレザーの内ポケットから警察手帳を取り出し、夜の宗徳たちと同じように深緑の制服を着て刀を腰に差した門衛の警官に見せた。


 帯刀警官は明らかに自分より年下の宗徳と千佳に顔色一つ変えず敬礼する。


 この国では明治維新の「真・廃刀令」により一般人が刀を持つことを禁じられていた。


たとえコスプレでも刃がついていなくとも、刀と同様の形状を持つ物品の製造・販売・所持が禁じられている。


所持できるのは警官や自衛隊の上位者に限られていた。宗徳と千佳の階級は軍隊で言えば下級将校であり、十分にその資格を備えている。


 東京都庁とよく似た造りの、いかにもお役所といった内装の国家公安委員会の建物内部。


 見学と思しき学生やスーツ姿の一般人に混じり、宗徳と千佳は歩を進める。


 それでも制服姿の二人が珍しいのか、時折胡散臭そうな視線を向けられていた。


 そんな視線の中、他に乗客がいないことを確認して公用のレベーターに乗り込む。


それから階数のボタンの1,3,7を連続で三回ずつ押すとエレベーターが上へ上へと動き出す。


 階数を示す表示が増えていく中、最上階よりも一つ多い数字を示したところでドアが開かれた。


 基本的な内装は他の階と変わらない。


 だが下の階と違い職員はみな帯刀している、中には宗徳たちと同じ、またはもっと小さい年のころの少年少女も混ざっていた。


宗徳たちはロッカー室で深緑の制服と制帽、金色の飾緒という公安五課の制服に着替え、腰に刀を差す。


これだけで認識阻害の可夢偉が二人を包み込み、関係者以外には二人を制服を着ていない時の二人と同一人物だと認識できなくなるのだ。


千佳はそれに加えてポニーテールをツインテールへと結わえなおした。


「急な呼び出しだけど、いったい何の仕事さあ……」


 あくびまじりに千佳がぼやく。


「僕も聞いてない。でも招集がかかれば拒否する権利はないからね」


「まあこのご時世でいいお給料と年金が保証されてるから、いいさぁ」


更衣室を出た二人は、「第二資料室」というネームプレートが掲げられた部屋を規則的にノックした。指紋と虹彩認証によって電子キーが解錠され、二人は中へと足を踏み入れる。



警察と一口に言ってもいろいろだ。いわゆるお巡りさんが所属する刑事課から子供の安全に対応する少年育成課、公安部という集団の犯罪組織に対応するための部署などがある。この階は公安部の中の公安第五課で、公式には存在しないことになっている。


 第五課は可夢偉使いに対応するための部署で、職員は皆可夢偉使いか、彼らの指揮官やサポート役だ。厳格な審査を潜り抜けてきた精鋭中の精鋭のみこの階に立ち入ることを許される。


 第二資料室は左右に資料ファイルがびっしりと詰め込まれた本棚が立ち並び、中央奥に室長の仕事机が据えられている。


 部屋の主はスマホに一心不乱に向かっていた。指先を宗徳たちですら残像が見えるほどの高速で動かし、画面が切り替わるごとに舌打ちしたり破顔したりしている。


 スマホを打っているのは二十代後半の女性。一応第五課の制服を着てはいるが襟元は乱れ、制服は二つ目のボタンまで開かれて黒いブラジャーがチラ見している。


 椅子の上なのにあぐらを組んでおり、やさぐれていると見えないこともない。


 化粧っ気がろくにないのに美人を絵に描いたような容姿。


 宗徳たちの直属の上司、第二資料室室長八重樫花だった。


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