第23話


         *


 涼音の学校を休む頻度は増えた。一週間に一度が、三日に一度に。そうやって徐々に会えない日々が増えていく。

 僕は初めて学校をズル休みして、一日中窓の外を眺めて過ごした。空の果てが黄昏に染まる時、なぜかすごく悲しい気持ちになる。


「……会いたいな」


 無意識に口から零れ落ちた言葉はすぐに泡のように消えて、少し早い蝉の音が聞こえてきた。

 修学旅行の夜、彼女の気持ちに素直に答えられなかったことに、いまさら後悔が捗る。

 あの場で、彼女を受け入れていたら、今頃どうなっていたのだろうか。僕の気持ちは、彼女には届いていない。無かったことになったあの言葉を、背に縋りつく彼女にもう一度投げかけていたら、僕らの関係は何か変わったのだろうか。

 でも、僕は彼女の隣には立てない。今でもウジウジ悩んで前に進めない弱虫に、彼女のそばを歩く権利なんて、彼女が許しても他ならぬ僕自身が許せない。


「あと、二か月……」


 壁にかかったカレンダーをめくるのは、もうずっと前に辞めてしまった。進んでいる日数を実感したくなかったから。

 月日を意識しないように生活してても、季節の移ろいは確かに感じた。八月、彼女はこの世から去る。彼女の求めるものは、まだ見つかっていないし、僕の絵もまだ描けそうにない。

 起きたら、時間が止まっていてくれないだろうか。そんな夢物語を求めて、目をつぶった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る