第4話 ぅゎょぅι゛ょっょぃ



 降臨した桃色の神様を前に、俺は絶望した。

 膝を折って「神は死んだ!」と錯乱しかけた。

 単発SSRの出目は、神様がお助けキャラよろしく旅について回るこのすば仕様ということだろう。

 つまりは駄女神であると予想される。

 神様らしく万能で有能なセンもあるが、人間程度の演技を見抜けないあたりコイツに知能派の影はない。

 そもそもの前提として俺の運勢で当たりが引けるはずはないと確信していた。

 

 ……どうすんだよこの逆チート配牌。

 なぜ勝ち確の状況からここまで落ちる。

 今のところ成長速度に自信ありな微チートおっさんでしかないぞ。

 オマケに幼女を連れ立っていては適齢女性から子持ちコブつきに見られるのは回避不可だ。

 これでハーレムを目標に掲げるのは難易度ナイトメアってレベルじゃない。

 絵に描いた餅がヘソで茶を沸かすような話だ。


 他にもアビリティガチャで神様キャラが排出さるのはバグだろとか、オマエ神様の仕事はどうしたんだよと桃色幼女に問い詰めたくなるが――。


 ……………………。


 その、俺の発言って神様に聞かれてないよな?

 際どいこと言いまくった覚えあるんだが……。

 いなかったしセーフか?

 てか聞かれてた場合は大変にまずい。

 駄女神の方なら口先八丁で丸め込める説はあるが、これで真の神様なら殺されかねない。最悪で虫だ。

 

 俺は自分の不運を信じている。

 聞かれていなかった場合は駄女神だろう。

 だが聞かれていた場合は真の神様だろう。

 

「ま、まままっさかか神様が降臨してくださるとは光栄だなぁ! こちらこそ末長くよろしくお願いしたいですね! しかしこんな超絶SSR出しちまうとは、俺の人生の運を使い果たしちゃったかなァー!?」


 ダラダラと滝のような汗を流しながら揉み手でゴマすり、行方不明のテンションでめっちゃ下手に出る。

 死んでる状態なら強気に出れても生き返った今、なんの勝算も目的もなく神様相手に喧嘩腰を貫けるほど狂犬ではなかった。

 なるべく刺激を与えないようにしながら神様の機嫌を見極めなければいけない。

 

「――安心しなよ。ガチャなんて書いてあるけど、それってボクを降臨させるためのアビリティだから。キミでも誰でも、いつ引いても同じ結果になるんだよね」


 小首をこてんと傾げてネタバラシをする神様は、怒りのあまり世界に雷の嵐を吹かせる三秒前――といった破滅的な予兆とは程遠いかわいらしい様子である。


 …………大丈夫そう、か?


「は、ははは……な、なら初めから異世界に不慣れな俺を導いてくれるつもりだったってことですか?」


 最初からついてくる気だったんなら転移直後から横に立っておけばいいものを……。

 てか何目的なんだコイツ。

 オマエは導くというか導かれる側だろ?

 補導的な意味でな。

 

「ま、まぁね。言っとくけど同行拒否なんて許さないからな! ボクが愛想つかすならともかく、キミから断る理由なんて皆無だろうけどね!」


「もちろん! 本当、最高に心強いな〜!」


 嘘だろ、なんでちょっと好感度高いんだ?

 このチョロさは間違いなく駄女神の方だな。

 余計なストレスかけやがってクソ。

 しかも古のツンデレヒロインばりのデレ方かましやがって、安っぽいエロゲーくらいでしか今どき見かけんわ。

 …………コイツまさかやっちゃいないだろうな?

 

「あとボクが神様だってことは……まあ、そうそうバレたりしないだろうけど、だからってわざわざバラさないでよね。人間程度を心配して降臨したなんて、ボクとしたことがとんだ黒歴史なんだから」


 ぷいっとそっぽを向く神様。

 心配してついてきたってことは、俺の演技が真に迫りすぎたあまりメンタルブレイクからの首吊りコンボにつながるかもと思わせちゃったのか。

 

 騙す方より騙される方が悪いのだ理論によれば俺に非がないのは明らかだ。

 しかし神様の身の上ながら人の子をもののあはれに思って地上くんだりにまで足を運んだというのに、当の本人が自らをバカにする発言をしていたと知ればさぞかし逆鱗に触れたことだろう。

 これは俺の侮辱的発言の数々がこの場に露呈しなかった僥倖になおのこと感謝すべきだ。

 

「心配……そんな、初対面であれだけの失態をさらした俺を心配なんて、もう言葉の尽くしようがありません。これからは神様に誠心誠意仕えさせていただきます」

 

「うん、がんばって。がんばっても積んでる漫画やアニメが増えたら勝手に帰るとは思うけど。その日までボクの加護にあやかりたいなら退屈させないことだね」


 …………おお、なんかうまいこと着地したな。

 しかも積みアニメが発生する三ヶ月ワンクールごとに勝手に天界おうちに帰ってくれるチャンスまであるらしい。

 ひとまずこの火薬庫に引火しないようご機嫌をとりながらレベル上げにいそしんで、ハーレム建設の準備期間にでもあてるとするか。

 しばらくは幼女相手にへーこらする冴えない生活になりそうだ……。


「退屈といえば、さっきの豹変ぶりは見事だったねぇ」




 



 ――――油断していた。

 安心しかけた背後を刺し貫くがごとく、一転して幼女の愛らしい顔に三日月の、意地悪げな微笑が浮かぶ。


「すぐに登場するつもりがいきなり笑い出すんだもの。駆けつけるつもりが最後まで動けなかったよ……ね、弁解してもいいよ? 有罪には変わらないけどね……」

 

 なんだこのピンチ。

 チャンスか?

 燃えてきやがったぜ。

 

「……………………あぁ、バレてました?」

 

 なんだなんだ無駄な芝居させやがってよ、悪どい笑みを浮かべながら悪びれもせずに返答する。

 こうなったからには表面上の敬いなんて取り払ってしまってもいいだろう。

 今さら取り繕えるものでもない。

 

「チョロ神だって? ――ふふふ。まさかね。ボクを騙し、あまつさえチョロ扱いとは。行くところまで行くとバカも天才も変わらないねぇ」


 ズズ、と神様の立つ場所から感じる威圧感が大きなものとなる。

 眉間にペンを向けた時のような、意識無意識の垣根を越えて視線と警戒を注がざるをえない、極めて動物的な部分で目の前の幼女がただの幼女ではないと判断する。

 だが、それに気圧されてるようでは話にならない。


 これからケンカを――対等な勝負をしようってんだからな。

 

「実際にチョロかったことだしな。図星つかれて顔真っ赤か? にしたって、そんな恐ろしげな顔より、ほっぺた膨らませた方がよっぽどらしい・・・ぜ」


 挑発の言葉をぶつければ一層幼女の浮かべる悪魔めいた嘲笑は深くなる。

 もはやチョロさは微塵もなく、神は、信仰を不要と言う高慢な人間を救わない――そんな無関心さを宿した冷酷な瞳が俺を射っていた。


「……いやね、演技上手な文化人を野蛮な異世界に転生させてしまったことに謝罪したいくらいだよ。どうしてやろうか? 虫にしてやろうかな?」


「そうだな。なら詫びにまたひとつチートでもくれてもらえれば、この野蛮らしい世界で満足しておいてやる」


 俺の返歌にやや拍子抜けしたような顔になる神様。

 

「悪びれないんだ。ふーん、退屈はしないヤツ……」


 悪びれるくらいなら最初から騙したりしないからな。

 さて、もう頃合いだろう。

 

「こうなったからには俺の経験値になってもらうぜ。ちょうどいいことに成長加速のチートがあることだしな」

 

「無理だねぇ。どういう意味かわかってる?」

 

「オマエを倒せばいいんだろ?」

 

「オマエじゃ攻撃力が足りてないよ」


 お互いがお互いを小馬鹿にする口撃の応酬。

 俺は重心を低く、前傾がちな姿勢で構える。

 神様は獣のやり方など知らん――と、そんな具合に無謀なぼったちを決め込んでいる。


「足りてない分は足りてるとこからもってくる。こども割引で本気の四割程度で相手してやるよ」


「これは筋金入りだな。一回死んでも治らないなんてさ」


 いよいよ呆れ返ったような神様に、地を蹴って突進直前の、足と地面との間にエネルギーを蓄えきった状態で最後の啖呵を叩きつける。

 

「――相手が神様だろうとな、大の男が幼女に負けるわけないだろ!!」






 


 


「神をたぶらかそうなんて、今後はりることだね」


「ハイ、すみませんでした……」


 

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