未知の玄関

red13

好奇心は……、

日本のある山奥に不吉な噂を持つ屋敷が一軒あった。

噂によると、その屋敷に入ったものは、行方不明になるのだとか。

そんな噂がある屋敷であるからか、多くの人々は近寄ろうとすらしない。

 

だが無謀にも、そんな屋敷に入って真相を確かめてやると意気込んでいる一人の若者がいた。

平山広平、大学生である。

 

彼は屋敷に向かう少し前、彼の友人たちから屋敷に向かうのをやめるように説得されていた。

 

「平山、屋敷に行くのはよそうぜ。お前の母さんや父さんにも行くのをやめるように言われただろ? やめようぜ」

 

平山は友人たちの説得に耳を傾けようとはしなかった。

むしろ、今すぐ目の前の友人を押し除けて屋敷へと向かわんとばかりの勢いがあった。

それでも、友人たちは説得を試みる。

 

「平山、お前だって知っているだろ? あまりにも行方不明者が出たから、警察が屋敷の調査をしたこと。でも、警察官にも行方不明者が続出したから、一旦、捜査が打ち切られた話を」

 

その話を聞いても平山は下を向きながら左足を揺すり、

右足で小石をジャリジャリと転がすばかりで、

友人たちの警告を受け入れる気など一切なかった。

そんな平山の説得を友人たちはあきらめて、ため息をつきながら帰っていった。

 

邪魔者がいなくなった平山は早速、屋敷へ潜入した。

さぁ、おばけでも何でも出やがれ、と。

だが、屋敷の玄関の扉を開いて、彼が見た光景は彼の予想を裏切った。

 

「なんだ、これは」

 

彼がそうつぶやいたのも無理はなかった。

そこには広い草原が広がっており、竜が飛んでいる幻想的な空間が広がっていたからだ。

彼はすぐに、不自然にその空間にある玄関の扉を再び開いた。

 

そこで平山が目にしたのは元の世界などではなかった。

まるで近未来的で有機的な形状の見たことがない建物や乗り物が埋め尽くしていたのだ。

再び平山は玄関の扉を開いた。

希望にすがりつくように……。

 

だが、目にしたのは慣れ親しんだ光景ではなかった。

そう。

幾度となく玄関の扉を開いても、その都度見たことのない世界に飛ばされるだけであった。

彼は、そのことによって、体の感覚が麻痺していくのを感じ取っていた。

 

その後も、機械のように何度も扉を行き来した平山は驚いた。

そこは異世界の中でも特に異質であったためだ。

その世界は闇であり、平山や玄関の扉以外の物体を確認できない。

また、目で見る限り、地面を確認することもできないが、歩いたり座ったりすることはできた。

他にも、暗闇の中であるはずなのに物体をはっきりと認識できるなど、とにかく不思議な空間だった。

 

そんな空間を元の世界に戻れない不安を忘れ、興味深く思う平山であったが、自分と扉以外のある存在に気付いた。

その存在とは、まるで仙人のような風貌の老年の男性であった。

平山はその男性に話しかけた。

 

「あなたも私と同じようにこの世界に迷い込まれたのですか?」

 

男は平山の顔を見ながら、「君と同じだ」と答えた。

平山は自分と同じ遭難者にあったことを嬉しく思い、元の世界への帰還方法を尋ねた。

男からの返答は無慈悲であった。

 

「君ね。私が元の世界への帰還方法を知っているなら、ここに留まるのはおかしいと思わないのかね? つまり、それが答えだよ」

 

その返答に絶望した平山に男は更なる追い打ちをかける。

 

「私が知っていることは、君も私も元の世界には帰れないということだけだ。長年の経験でわかったことだが、あの扉をつかって一度出た世界へは二度と戻れないらしい」

 

それを聞いた平山は初めのうちは絶望して生きる気力を失っていた。

だが、彼は元の世界へ帰還することを諦めたことで生きる気力を取り戻した。

彼は自分が生きて行ける世界を自分で見つけ、そこで生涯を全うした。

 

おわり

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