魔導書の紡ぎ方(後編)
「ふむ。なるほどな。確かにお前の目指す魔導書を考えれば、一般の製本業を営んでいる者に頼むわけにはいかないか」
私は、トリストファーと巫女、そして師匠の四人で、巫女所有の円卓を囲み、トリストファーが作って来たサンドウイッチに舌鼓をうつ。ヤツの相談事に耳を貸すのはついでだ。
リュエル魔導王国は、魔法技術が優れているだけでなく、人々の生活を支える産業も非常に盛んなお国柄。
知識の都ガーバートなる街が栄えていることからもわかるとは思うが、知識の
それならば、さっさと紙に書いて製本業者に依頼すればいいだろうと思うかもしれないが、コイツの作ろうとしている魔導書には、ひとつの大きな難問がある。
「ええ。そうなんです。クロを住まわせるとなると、魔力のない魔導書では成立しません。それに住んでもらう以上、できる限りクロの住みやすいモノにしてあげたい。 クロはいまの姿を気にいっています。いま住んでいる魔力プレートの魔力では、本来もっと大きな姿になってしまうのですが、プレートに刻まれていた魔術陣をいじって、魔力の大半を外側にでないようにしているんですよ」
「ほう。そんなことができるのか。意外に器用なのだな、あの守護霊獣は」
「そうですね。あの外見からは想像しづらいかもしれませんが、あのサイファー・ウォールメンの知識と技術を受け継いだ子供ともいえる存在です。魔法技術の知識量は、ボクらとは比べものになりません。ですが、どうも彼ら自身の存在の仕組みのようなことに関しては、彼らの身を護る意味もあるのか、サイファー・ウォールメンからはなにも伝わっていないようです。王都に来る途中で聞いたのですが、彼ら四体の守護霊獣が指示されたのは、魔導書を護れではなく『魔導書を書いた想いを伝えて欲しい』だったそうですよ。ただ、いまの状態では宿る物品はおろか、自身の身を護るのも難しい。いざという時に闘えないと、そんなサイファー・ウォールメンの願いを叶えるのも難しくなる。できれば本人の意思で、魔導書から得る魔力量を調節できるようにしてあげたいのです」
なかなかに興味深い話だ。
私もいくつか魔術具に宿る守護霊獣を見たことはあるが、あのように意思を持つ守護霊獣は、あの青い毛玉以外は見たことがない。
根本的に守護霊獣とは許可のない者から、その物品を機械的に守ろうとするだけの存在だ。下手に意志を持たせ、賊にだまされるような霊獣では守護にならないからな。融通がきかんほうが守護としては役に立つ。
あの耳長族が自分達の技術を盗んだと騒ぎ立てたくらいだから、彼らには似たような技があるのかもしれんが、これまでそんなことは聞いたことがないし、少なくともヒト族にはそのような技術は伝わっていない。
「ふむ。守護霊獣のすみ家となる魔導書を作るとなると、少なからずあの守護霊獣の秘密に触れる可能性があるか。製作に関わる者は厳選すべきではあるな」
「ええ。人柄が信用でき、技術的にも信頼できる。そんな協力者が必要です。ボク個人にはそういった知り合いはいないので、懇意にさせていただいているエアギルド長に助言を求めました」
「そして紹介されたのが、私か」
「はい。トレーラン副ギルド長も同席されていたのです。あの方は魔術道具作りの第一人者として、世界でも有名な方ですが、その副ギルド長曰く『思考の柔軟性、計画・設計の緻密さ、向上心。いずれも若き頃の私を上回る前途有望な若者』ということでした。トレーラン様にそこまで言わせるとは、さすがカウティベリオ君です。 友人の中に頼もしき協力者候補がいたことに気づかなかった自分の不明が、恥ずかしいかぎりですよ」
ほお。あの副ギルド長がそんなことを。
私のこれまで試作したモノのほとんどは副ギルド長がかつて製作した魔術道具を参照させてもらっているのだが、私の技術はまだ彼には遠く及ばない。だが、その副ギルド長がそこまで私を評価してくれているとは……。
まあ当然だな!
「はっきり言うが、興味がないわけではない。これまで製本をしたことはないが、作れる自信もある。ギルド長の推薦状もあるからな。正式に依頼されれば作ってはみせる。だが俺の技術で作ってやれるのはただの本だ。魔力のこもった素材で作るのは決定していても、その素材がなければ話にならん。それにだ。トリストファー。
魔導書と守護霊獣の間を取り持つには、魔術陣を活用するのが一番の方法と思うが、その点に関して言えば、私よりも適任者が隣にいるではないか」
師匠に視線をむけると、つられるようにしてトリストファーも師匠に視線を移す。
急に話と視線を向けられた師匠は、その美しいお顔をほんのりと赤く染め、サンドウイッチを片手にあたふたとし始める。
だがなぜか声がしたのは、師匠の向かい側からだった。
「え⁉ 私⁉ トリスちゃんの役にたてる⁉」
「そんなわけないでしょう」
世迷言を言いだした巫女を冷静に否定してやる。
「えー、カーちゃんひどくない?」
「お前のその呼び方より酷くないわ! 師匠のことに決まっておろうが! 師匠のことに!」
唇を尖らせ不平を言う巫女に、立ちあがって全力で怒鳴る。
もうコイツに対して、立場を配慮するといったことが面倒になってきた。かなりまずいな。もうすでに他のギルド員の耳にまで届いていても不思議はない。後で問題にされそうだ。
「ア、アタシも師匠はやめて下さいって言ったじゃないですか!」
なにを言っているのだ師匠は?
魔術陣というのは、それだけをひと目見ただけで、その持っている効力を即座に判別できるような代物ではない。
出口のない迷路のような複雑な模様をしているモノがほとんどだ。あらゆる条件を示す図案をその用途に合わせて複雑に組み合わせていかねばならないので、機能が単純と言われる魔術陣ですら、作るのには相当な知識と技術と根気が必要になる。
魔力を注ぎ込むだけで、誰でも簡単に効果を発揮できる魔法魔術道具の便利性は、職人たちの優れた技術とたゆまぬ努力によって生み出されているのだ。
その魔術陣を、チラリと見ただけで問題点を指摘し、かつそれに適したものを作ってみせると言いきれる大天才を、師匠と仰がずして、誰を師匠と仰ぐのか!
「トリス様も笑ってないでなんとか言ってやってください!」
「そうだね。様付けはしなっくていいって言ってるよね」
「アタシに言うんですかーっ⁉」
茶目っ気を含んだ声音でトリストファーが言うと、彼女が頭をかかえこむ。
ふむ。こういった雰囲気のトリストファーは初めて見た気がするな。それだけ隣にいる師匠と巫女が気を許せる相手ということか。
「私もトリスちゃんの役にたちたーい。なにか考えてよ、カーちゃん」
巫女がトリストファーの腕を掴んで揺らしながらわがままを言い始める。
トリストファーに甘えながら、なぜ私に訴えるのだこのバカ巫女は?
ええい、面倒なヤツめ。
仕方がないので、噛んで含めるように巫女に言い聞かせる。
「貴女ができることなど山ほどあるでしょう。サイファー・ウォールメンの造った守護霊獣を住まわせる魔導書を作る。それはすなわち、禁術書イディオ・グリモリオの復活と言っていい。原本に関してはイディオ・グリモリオ同様に、どこかで誰かが厳重に管理する仕組みを造り上げる必要がある。貴女の魔法力、貴女の立場、貴女以上の適任者はいない。貴女の弟の魔導書を護ることができるのは、貴女をおいて他にはいない。不服ですか?」
「ぜんぜん!」
彼女がようやく尊敬の眼差しを私にむけてきた。ようやう私の偉大さに気が付いたか。
だが、いま一番に気になるのは注がれる視線ではない。
私から外れた視線である。
「おい、トリストファー。なぜ私から目をそらす」
「いえ。さすがカウティベリオ君だな~と思いまして」
いつも落ち着いている風に見せているコイツにしては珍しく、あたふたとしているな。
コイツ、まさか……。
「トリストファー。きさま、まさかどう作るかばかり考えて、作った後のことをなにひとつ考えていなかったなどということはあるまいな?」
「そ、そんなことありませんよ。ほらさっき言ったじゃないですか。いざという時にクロが自分で身を護れたらいいなーって」
チッ。とってつけたような言い訳をしおって。普段はしっかりしているくせに、いざという時になにかが抜けるな。
魔糸のことだって、実験がしたかったのならば、わざわざ大会を選ばなくとも、アイツの頼みなら受ける者はいただろうに。ちゃんとそれを理解していれば、あのような騒ぎになることはなかったのだ。このマヌケめ!
まあいい。
相手の言葉の端々をつつくようなマネをしていては、話が進まんからな。
「私はイディオ・グリモリオやノマッド・グリモリオの原本は見たことがない。写本と内容がまったく変わらないのであれば、禁術書に指定されたのは魔導書自体に問題があるということになる。お前や師匠は見ているのだろう、原本を? 実際どうだったのだ。禁術書に指定されるような危険を感じたのか?」
トリストファーと師匠が顔を見あわせ、揃って首を横に振る。
「かなりの魔力を宿していたのは確かです。ですが短い時間ではありましたけれども、魔糸で調べた限り、危険な魔法がかけられているといった様子は感じられませんでした」
「アタシも魔力には敏感な方ですけど、高魔力っていうこと以外は特に気になることはなにも。本当になんでアレが禁術書になるんだろう?」
彼女がしきりに首をひねる。
だがトリストファーは、私と同じ結論にたどりついたようだ。
先程とは打ってかわって、私の目をしっかりと見つめてくる。
「内容にも魔導書自体にも問題がないとすれば、残るのはひとつだな」
「ええ。禁術書になった理由は守護霊獣にあるということですね。これまで魔導書を狙ってきたかたがたは、誤解されていたようですが」
「魔導書を護らせるために意思を持たせたのではなく、その存在をぼかすために、あえて魔導書の守護霊獣の形をとったのかもしれんな」
「はい。彼らに伝えられていない以上、サイファー・ウォールメンの本当の意図はもう予測するしかありませんが、カウティベリオ君の仰るとおり、クロを住まわせた後のことにも、もっと目を向けなければいけませんね。いささか作ることに心を奪われすぎていたようです」
ふん。最初から素直に認めておけば話の腰を折らずにすんだものを。
「話を元に戻すぞ、トリストファー。とにかく守護霊獣であるクロガラ様を魔導書になじませるための装置として魔術陣を使う場合、それの構築者として師匠以上の適任者はいない。わかるな?」
また話を振られ、おたおたとし始めた師匠を横目に、トリストファーがしっかりとうなずく。
「ええ。ガーバートでの彼女の職場のかたから、マオがたいへん優秀であるということはうかがっていたのですが、魔術陣の作用をひと目で理解してしまうほどとは知りませんでした」
熱い視線を師匠に向ける。彼女は恥ずかしそうに顔を伏せてしまう。なんだか微笑ましいな。
「マオはノマッド・グリモリオの守護霊獣エルペッナ様の魔力の性質を知っているよね。クロも君になら、魔導書への移住のために、身体に触れることを許すと思うし」
そういうことだな。守護霊獣が快適に住めるための魔術陣構築となると、守護霊獣を調べないわけにはいかない。
魔術陣における才能だけではなく、守護霊獣からの信頼という点で見ても、師匠がやはり適任。
「マオ。君さえよければ、僕の魔導書作りに協力してもらえないだろうか?」
「はい! もちろんです! アタシがお役にたてるなら、どんなことでも!」
トリストファーに頼りにされたのがよほど嬉しいらしく、師匠は頬を紅潮させたまま何度もうなずく。
そんな様子をうらやましげに見ていた巫女が、すがるようにトリストファーの腕にしがみついた。
「ねえ~、トリスちゃ~ん。さっきから気になってたんだけど、トリスちゃんの作った魔導書に私が魔力を注ぐんじゃだめなの?」
ほう。この巫女にしてはまともな質問ではないか。だが答えは否だ。
トリストファーが優しい手つきで彼女の頭をなでる。
「申し訳ありません、姉さん。魔力を注入し保存できる物質は、元々魔力を持つ性質の素材に比べ、魔力を取りだしやすいんですよ。つまり魔力が奪われやすいということです。魔導書の保存魔力が不安定になるだけでなく、魔導書が狙われる理由を増やすことにもなる。それにいまの僕が知るかぎり、姉さんの注ぐ魔力に耐えうる素材で作るとなると、本ではなく石板になってしまいます」
ふむ。それはそれで見てみたいな。そちらの方が伝説にはなりそうだ。
「う~。わかんないけど、わかった~。私、トリスちゃんの魔導書、しっかり護るね」
巫女はトリストファーの腕をはなすと、とてもがっかりした様子でうなだれる。
そんなにコイツの魔導書作りに協力したかったのか。
むぅ。いくら腹立たしいバカ巫女といえど、目の前でこうも落ち込まれるのはさすがにな。だがコイツの無駄な魔力やワケのわからん魔法が、魔導書作りに役に立つとは……いや待てよ。
私は肘をテーブルに置き、顔の前で手を組み合わせる。
魔力のこもった素材で魔導書を作るとなると、イディオ・グリモリオ同様、千年経ってもしっかりとした外観を残し続けることが考えられる。その書物に普通のペンで文字を書きこんだとしたら、千年後には外観だけがまともで、中身はろくに読めなくなる魔導書が完成してしまうのではないか。
かりにもこのカウティベリオ・リーベルタースと師匠が手を貸すのだ。そんな情けない魔導書は困る。
あの青い毛玉だって、どうせ住むなら外も中もしっかりとしたものの方がいいだろう。
魔力を込めながら書くか、インクに魔力をこめる魔術ペンを使うのが普通だが、どちらもトリストファーには無理だ。数文字くらいは連続して書けるかもしれんが、その都度魔力の回復を待っていては、本当にいつ書きあがるかわかったものではない。
そこで逆の発想だ。
元々魔力のこもった素材で作るのならば、それで作りあげた紙から、文字の形に魔力を抜くというのはどうか?
トリストファーには魔糸という技がある。私に魔力枯渇を起こさせたということは、私の体内の魔力をその魔糸で体内から押しのけたということだ。
つまり、やろうと思えば魔力素材から文字の形に魔力を押しのけることが、可能ということ。
もちろん放って置けば、人体に魔力が戻っていくのと同じように、穴の開いた箇所に魔力が戻っていくことだろう。
そこでコイツの出番だ。魔糸によって生み出した文字のフチに、魔力結界的な魔法をかけ魔力が穴に戻るのを防ぐ。直接穴に魔法をかけるのでなくとも、魔糸を通した箇所へ、結界を残していくような魔法をかけられれば、不滅の文字を残していくことはできるのではなかろうか。
もっとも一文字ずつに結界魔法をほどこすような器用なマネが、このバカ巫女にできるのかはわからんし、塗り薬のように魔力結界を残していく魔法も聞いたことはない。
ただコイツは、伊達に魔法神の巫女と呼ばれているわけではないからな。
彼女にしか使えない魔法を、日々呼吸をするが如く生み出しているという噂は絶えないし、魔導書一冊分の全ての文字に魔力結界を施すだけの魔力も持っている。おまけにトリストファーのためならば、一文字ずつに魔力結界をかけていくなんていう手間暇のかかることにも耐えそうだ。
実際にできるかどうかはともかくとして、提案ぐらいはしてもよかろう。
実際になんとかできるかはコイツら次第だ。
少なくとも可能性さえあれば、巫女も少しは元気を取り戻すだろう。
私は姿勢をただし、あの手この手で巫女を励まそうとしているふたりに、いまの考えを説明してみる。
全てを聞き終えたふたりの目が、大きく見ひらかれた。
「いや、なんというか。カウティベリオ君のその発想力には脱帽ですね」
ふむ、コイツにそう言われるのは悪い気がしないな。
「はい。アタシ、この人のことは
なんだか余計なひと言が力強くなった気はするが、むけられる視線は心地よいな。
まあ、とりあえずこの二人の好意的な視線はいい。
私は一番の目的であった巫女に目をむける。巫女はいつの間にか顔を上げていた。
おおう!
なんだか妙にキラキラした瞳でこっちを見ているな。
これまでで感じた巫女の能力から察するに、おそらく私の説明はいっさい理解していないだろう。
ただ自分もトリストファーの魔導書作りのために、なにかできる可能性がでてきたということだけは、直感で感じとったに違いない。
「うん。私、頑張る!」
立ちあがってその女性らしい小さく可愛らしい拳を、青き空に向けて突き上げる。
ふん。元気が出たようでなによりだ。
私が紙のカップに入れられた、トリストファー持参のアイスティーで疲弊した喉を癒していると、ギルドの裏口の扉がひらく。
姿を見せたのは、小太りの老婆エアギルド長だ。
「エアちゃーん」
巫女が気安くギルド長の名前を呼び、彼女に駆けよっていく。
「ギルド内ではギルド長。カウティベリオ君もここにいたのね。三人と一緒に食事をとっていたのは予想外だったわ」
「エアちゃん、聞いて、聞いて。私でもトリスちゃんの魔導書作り手伝えるんだって。やり方はよくわからないけど」
ギルド長の注意をあっさりと無視し、案の定、私の予測が当たっていたことを力強く宣言する。
「カーちゃんが教えてくれたのよ!」
「カーちゃんと呼ぶなと言っておろうが!」
私の文句を聞きつけたギルド長が、嫌な予感しかしない深い笑みを私に向けてくる。
……まずい。ギルド長の前で巫女を罵倒してしまった。
相手はギルド長と副ギルド長を除けば、一番立場が上といえる魔法魔術ギルド特級名誉研究指導教授。
よくわからん役職だが、コイツの存在はギルドの枠を越え、国、ひいてはこの大陸でも最重要視されていると言っても過言ではない。
残念ながらいまの私は、ギルドが切り捨てても惜しくない程度の下っ端ギルド員。
立場の違いをはっきりとわからせるためにも、なんらかの処置をくだすというのは、ありえることだ。
「あらあら、さすがはカウティベリオ君ね。パトリちゃん相手でも、遠慮なくモノを言えるなんて。トレーランも含めて、他のギルド員はパトリちゃん相手だと、萎縮しちゃって満足に喋れやしないのに」
ああ、このまま小言に移行する未来しかみえん。悪くすれば、罰則まであたえられそうな気がする。
「カウティベリオ君」
私の名を呼び、巫女を押しのけるようにして前に出る。
その姿は、やはりギルド長なのだと感じさせる貫録のあるもので、トリストファーも師匠も、巫女さえも固唾を飲んで私たちを見守る。
「はい」
口をついてでた返事が、自分でもやたらと重々しく聞こえた。
「今日づけで、アナタを魔法魔術ギルド特級名誉研究指導教授補佐に任命します。お父様待望の出世よ。これからもパトリちゃんの面倒をみてあげてね」
「はい⁉」
言葉の意味を咄嗟に理解できず、間のぬけた声をあげてしまう。
「パトリちゃん。これからは一人で無駄に考えて行動せず、必ず補佐であるカウティベリオ君に相談してから行動するのよ。あいだにひとり挟むだけでも、だいぶ被害がおだやかになると思うから」
この言葉に、馬鹿巫女が諸手を上げて喜ぶ。
「わーい。代わりに考えてくれる人ができたーっ」
「自分で考える努力をせんか、きさまはぁぁぁ!」
吠える私に、ギルド長が満足気に頷く。
「うん。完璧な人選ね。これからもその調子でお願いね、おカーちゃん」
「『お』をつけないでいただきたい!」
どこまでも抜けるような青い空。溶けていく爽やかに響く笑い声。
なのに私の心だけが、どんよりと曇っていた。
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