魔導書の紡ぎ方(前編)

「それじゃあ、あんちゃん。俺たちは帰るぜ」

「ええ。ご苦労様でした」

 西門から魔法魔術ギルドの倉庫まで、この私カウティベリオ・リーベルタースが作成した、魔動車を押して運んだ四人の体格の良い冒険者たちが「あの鉄の塊はしんどいわ」などの愚痴をこぼしながら、ぞろぞろと裏門から出ていく。

 はっきり言ってしまうと、目の前のこれは失敗作だ。王国への貢献の形はひとつではないと、ガーバートから戻っていろいろとやってみたうちのひとつなのだが、いかんせん。動かすのに大量の魔力が必要で、ほとんどの者は起動させた時点で魔力枯渇を起こしてしまった。かく言う私もだが。

 そんなガラクタを歩いて一時間近く以上かかる西門まで飛翔魔法で飛ばすとは、流石は魔法神の巫女パトリベータ・ラブリース。無駄にとんでもない魔力である。

 しかし使うなら片づけまでしっかりやってほしいものだ。なぜ私が後片づけに時間をさかねばならん。魔力を弟にわけて、アイツの几帳面さをわけてもらえば、二人とも丁度良くなるであろうに。魔法神様もいたずらがすぎるな。

 倉庫の真新しい扉を閉め、魔術錠に規定魔力を注いで鍵をかける。決められた魔力量を決められた時間で注がねば、開け閉めができない錠前だ。

 あの魔力馬鹿の巫女には開けられないものなんだが、倉庫の中に直接転移して、魔動車で扉をぶち破ったらしい。

 無茶苦茶だな、あの姉弟は。もう少し魔導王国の常識というモノを覚えるべきであろうに。仮にもあのラブリース侯爵家の者たちなのだぞ。アイツらは。国民の模範にならなければいけない立場であろうに、常識破りすぎだろう。

 なにが魔糸だ! なにが魔技だ! なにが魔導書だ!

 書くならさっさと書け、愚か者め!

 いかんいかん。アイツのことを思いだすと血圧があがる。

 思いだす暇があるなら、我が国を少しでも豊かにするための研究あるのみだ。

 アイツが書く魔導書など、霞んで消えてしまうほどの発明をしてみせる!

 このカウティベリオ・リーベルタースならば、それが実現可能だ。

 ざまあみろ!

 ……しまった。またアイツの姑息な罠にかかり思いだしてしまった。

 血圧があがるから、健康的にもよくないというのに。

 早く作業に没頭して忘れるべきだな。

 一階のロビーで偶然出くわした平民上司に、魔動車を倉庫に戻した報告をし、私はギルド内にある自室へと戻る。

 魔法魔術ギルドは、地上七階地下二階の大きな円筒状の石造建物だ。高さだけなら王城よりある。魔導王国の象徴のひとつと言っていいだろう。広い受付ホールとなっている一階を除いた階は、ギルドを上から見た場合、中心と外周のちょうど真ん中あたりに通路がある。通路から見て内側が重要人物の部屋だったり複数のギルド員が詰める研究室などがあり、外周側が各ギルド員の私室兼個人研究室。

 私の私室兼研究室は四階の外周側だ。

 部屋の前まで戻ると、倉庫とは注入量・注入時間が違う魔術錠を開錠し部屋に入る。

 むー、ガーバートより戻ってから研究に没頭しすぎたせいか、部屋がかなり散らかっているな。一度片づけなければ。

 とりあえず床に落ちていた、いま研究している食物を冷凍させることで保存する箱の設計図を拾いあげる。

 時の流れの止まっている異空間に物品を保管する魔法もあるが、空間魔法は難易度・使用魔力ともに高い。一般人がおいそれと使えるような魔法ではない。魔法陣を構築し、魔術にしたとしても、やはり扱いが難しく使用魔力量は多くなってしまう。

 それならば、外気を利用した冷却魔法陣による魔術道具を作った方が、世間一般的には現実的だ。だが、いまのところ難航中である。あの魔動車ほどではないが、魔力の消費量が多い。高度な魔法を二回連続で唱えるようなモノだ。魔法陣に問題があるのか。道具の仕組みに問題があるのか。難しいな。

 おまけに目的を考えると、永続して使えねば意味がない。

 長時間使い続ける魔法陣は、魔灯に使われているモノの応用がきくとは思うのだが、発動させる魔法が異なると魔術の仕組みも組み直してやらねばならんからな。ほぼ別物になる。

 とにかく、これではだめなのだ。あの落ちこぼれでさえも気軽に使えるような代物でなければ。

 アイツは、調理に使われる熱魔法陣を、その都度魔力石を用いて使用しているらしい。残念ながら魔力石の魔力は無限ではない。使えば消費し、魔力が尽きればただの石だ。誰かにまた魔力をこめてもらうか、新たな魔力石を購入せねばならない。ヤツはまだ高位貴族の出身だからそれほど困らないかも知れないが、魔力の低い一般人にとって、魔力石の購入は痛い出費である。

 永続的に使用するのに少しでも消費魔力を抑えるのは、どうしても必要な技術だ。

 これは口にするほど簡単なことではない。だがやりとげねばならん!

 諦めるというのは、魔導書を書き上げるなどという分不相応なことに挑むアイツに、戦わずして負けを認めるようなモノ。

 クソッ。腹立たしいが、いまも昔も私がアイツに刺激をうけているのは間違いないらしい。

 学生の頃に出会ったアイツは、魔力もないのに日々の努力をまったく怠らない男だった。その姿に私が感銘を受け、見習い、名だたる高名貴族の子息たちを追い抜き、主席として学園を卒業できたことは認めざるをえない。

 あの魔法武闘会での結果も、アイツの努力の成果であり、私が心のどこかで、魔力のないアイツを見下していたがゆえの結果

 わかってはいるのだ。頭では。

 だが感情的に納得がいくかと言えば否だ。

 まったくもって腹立たしい!

 コンコン

 控えめに扉を叩く音が、私の背中に届く。

 珍しいな、来客か。

「お待ちください。いまお開けします」

 片づける前だったが、どうせギルド員だろう。みんな似たような状況だろうから、気にすることもあるまい。

 設計図を再び床へと放り投げ、気軽に扉をあける。

「お久しぶりです。カウティ―――」

 私は黙って扉をしめた。

「ちょっと、カウティベリオ君! あけて下さい。お話があるんですよ。ギルド長の紹介文もいただいてきていますから!」

「やかましい! なぜ貴様がここにいる! さっさと世界樹を強奪するなり、竜を虐殺するなり、しに行けばいいだろうが!」

 私は眉を吊り上げ、扉の前にアホ面を下げて立っているであろう人物トリストファー・ラブリースにむけて、そう叫んでいた。

「物騒なこと言わないでください! 魔導書の材料に関しては考慮中です。ふたつともボクには難易度高すぎますよ!」

 扉のむこうでトリストファーが叫んでいる。

 いつも最後には行動するくせに、やり始める前はグジグジとうるさいヤツだ。

 もっとこう、私のように素直に自分の高潔な心に従い、速やかに華やかに実行に移せないものだろうか?

 とりあえずそれはいいか。このままにしておくと廊下で騒ぎ続けそうで面倒だな。やむを得まい。中にいれるか。

 そう思い、振り返って部屋を見回す。

 ……駄目だ! この部屋のいまの惨状をヤツに見られるのは沽券に関わる。

 決意を固めひとつうなずく。扉を開あけると再び扉を叩こうと手を上げていたトリストファーを押しのけ、素早く扉をしめた。コイツは私より小柄だ。私が壁になって部屋の状況は見えなかったろう。

「私はこれから食事のために街に出る。ついて来る、来ないはお前の自由だ」

 私はヤツの顔を見ずに言い放つと、ヤツが連れきていたらしい、あのラオブ出身の日焼け娘との間をすり抜け、階段へとむかう。

「ああ、すいません。お昼は姉さんと約束しているので、午後からまたお部屋の方に―――」

「一緒に連れてくればいいだろうが!」

 私の意図を潰しにきたトリストファーを怒鳴りつける。

「え? いいんですか? 姉さんを苦手とされる方が多いみたいなので、一緒じゃない方がいいかなと。でも、一緒でもいいのなら、ギルドの裏庭に姉さんが用意してあるテーブルがありますから、そちらで食事にしましょう」

 なんて恐ろしい提案を!

「お弁当を作ってきているんです。いつもの癖で多めに作っちゃったんですよ。カウティベリオ君も一緒に食べてくれると助かります。学生の時、ボクの作ったモノ食べたことありますもんね。あの時は美味しいって食べてくれましたっけ。腕は落ちていませんから、味の保証はできますよ」

 しまった。罠にはめられた。

 あんな面倒そうな女と食事をする羽目になるとは……。

 まあいい。確かにコイツの作る料理は、ウチの料理人たちの作るモノより美味かった記憶があるからな。なんの用事かは知らんが、話くらいは聞いてやるか。

 鉄の精神力で、不快感を毛ほども現さなかった私は、返事は返さず階段をおりる。ふたりの足音がそれに続く。

「でもカウティベリオ君。忙しいのはわかりますけど、お部屋はたまにでも片づけられたほうがいいですよ」

 ……。

 おのれぇぇぇぇぇ! トリストファァァァァ!

 の精神力でこめかみがひくつく程度で感情の露出を押さえた私は、高々と音を踏み鳴らし、階段をおり続ける。

「あ、あれ? なんだか、怒ってる? ボク、なにかマズいこと言ったかな?」

「いいえ。トリス様は当然のことをおっしゃったまでです」

 おのれぇぇぇぇ! 日焼け娘ぇぇぇぇぇ!

 私の怒りがなににむけられているかわかったうえで、明るく返事しおって。

 鈍感極まりないトリストファーに、輪をかけて腹立たしいわ!

「ああそうだ。カウティベリオ君、真っ直ぐ裏庭に向かってくださいね。姉さんがそちらで待っていると言っていたので。どれくらい時間がかかるかわからないから部屋で待つように言ったのですが、さっき倉庫に玩具オモチャが戻って来たらしいから、ボクに見せられるように準備しとくねって―――」

「ふーざーけーるーなー!」

 私は叫びながらながら駆けだす。

 あの魔力馬鹿の巫女が玩具と呼びそうなモノは倉庫にひとつしかなかった。

 だがアレは断じて玩具ではない。

 根幹となる絡繰りの考案、動かすための魔術陣の構築、そしてあの美しい外観。

 今後の大事な資料であると同時に、失敗作でも私の大事な初作品なんだからな!

 一階に転移魔法もかくやというほどの速度で到着した私は、驚いた目を向けてくるギルド員になど目もくれず裏庭へと続く扉に飛びつく。

 思い切り引きあけ飛び出した私の鼻先を、なにか大きくて黒いものが突風を生み出しながら通過した。

 遅れてやってくる大きな衝突音。全身から嫌な汗が吹き出すのを感じながら、私は黒い物体の飛んでいった先を見る。

 ギルドの敷地を囲む石造りの塀の一角を打ちこわし、路上に転がる扉の、ひしゃげた憐れな姿が見えた。

「あら、急に飛び出してくると危ないわよ?」

「危ないのは……きさまだぁぁぁぁぁ!」

 車輪付きにも関わらず、大柄な冒険者が四人がかりでようやくここまで運んで来た魔動車を、浮遊魔法で浮かせ軽々と運んで来るアホ面のバカ巫女に、私は指をつきつけ言葉をたたきつける。

 しまった。仮にも相手は魔法魔術ギルドの重鎮にして国の重要人物。

 下手な口のききかたをして、不敬罪にでも問われたら面倒だ。

「えー」

 言葉をあらためる間もなく、巫女はなにが不服なのか、唇を尖らせてブーたれてくる。

「だって出ようと思ったら鍵がかかってたんだもん。仕方ないでしょ」

 さも当然のようにふんぞり返りながら、そんなことを言う。

「どうやって入った?」

 なんとか怒りを抑えながら問う。言葉を正す心理的余裕などない。

「転移魔法で」

「ならば転移魔法で出ればいいだろうが!」

「ハッ!」

 今気づきましたと言わんばかりに、バカみたいに口をあけたアホ面をさらす。

「なるほど。あなた、頭いいわね」

「お前がアホなんじゃぁぁぁぁ!」

 我慢の限界だった。

 相手はこの魔法魔術ギルド内においてだけでも重要視される魔法魔術ギルド特級名誉研究指導教授の称号を持つ魔法神の巫女。

 国からも、国教である魔法神教からも特別扱いを受ける者。おまけにラブリース侯爵家に名前を連ねる者ときている。こんな白昼堂々と罵声をあびせれば、私自身はもちろん、もしかしたら家にまでお咎めがくだるかもしれない。

 頭ではわかっている。

 それでも、私が心血を注いでやっとの思いで作りあげた初作品を、玩具の如く取り扱われた挙句に殺されかけたとあっては、私の鋼の理性をもってしても感情を抑えきることができなかった。

 しかも!

 あのトリストファーの姉だと思うと、余計に腹立たしいわ!

「私って考えるの苦手なのよね~。うーん。もうしばらくたてば、代わりに考えてくれる可愛い子が来てくれるんだけど」

 私の罵倒などまったく気にした様子もなく、あっけらかんと答えてくる。

 そのあまりに無邪気な様子に、私の肩から力がぬけた。

「トリストファーなら、もう間もなくやってくる」

 巫女は今度はキョトンとしたアホ面をさらす。顔のいそがしい奴だ。

「あなた誰? トリスちゃんのこと知ってるの?」

 ふん。やっぱりな。

 この担ぎあげられ高みにいらっしゃる高級貴族の巫女様は、同じ魔法魔術ギルドに所属していても、下級貴族研究員のことなどご存知ないらしい。

「カウティベリオ・リーベルタース。ギルド研究員の一人です。貴女が玩具にしているソレは、私が作ったもの。許可なく、もてあそばないでいただきたい」

 いまさらな気もするが、俺は言葉をあらためる。

「へぇ~、コレあなたが作ったんだ」

 おお! なんだか目を輝かせているではないか。わかったか。私の偉大さが。

「でもコレ。私しか使えないよね」

「ぐっ!」

 痛いところをついてきおって。

「だから私が貰っちゃっていいわよね。カ、カ、カ……カーちゃん?」

「田舎の母親のように呼ぶでないわ! 駄目に決まっているだろうが!」

 私の努力が一瞬で崩壊したのを見計らったかのように、背後から追い打ちがかかる。

「プッ。カーちゃんだって。トリス様のお姉様のお母様? どれだけ複雑な家庭環境なの、この人。ププッ」

「こ、こら、マオ。お願いだから、これ以上カウティベリオ君を刺激しないで。全部ボクに跳ねかえってくるんだから」

「全部、きさまが悪いのではないかー!」

「ほらー!」

 生意気にもトリストファーのヤツは、胸ぐらを掴んでやろうとする私の接近を、顔をそらしながら両腕を全力で突っぱることで防いでくる。

「トリスちゃん、おかえりなさ~い。ご用事もう終わったのね。見て、見て。カーちゃんがくれたの」

 私たちのやり取りがまったく目に入っていないとしか思われないのんきな声で、バカ巫女がそうつげると、私たちの眼前に魔動車が静かに丁寧に置かれる。

 こんな繊細な魔法の使いかたができるなら、扉を吹き飛ばさずとも、簡単に倉庫からでれたであろうに、本当にアホかコイツは。

 それに魔動車をくれてやった憶えはない。

「姉さんが一昨日に乗ってこられた乗り物ですか。カウティベリオ君が作ったんですね。よろしければ食事の前に拝見させていただいてもよろしいですか?」

 誰の所有物か理解しているらしいトリストファーが、腕の力を弱め、好奇心に満ちた目で許可を求めてくる。

 ふむ。なんだかんだでコイツは魔術道具に対する知識もそれなりに持っているし、腹立たしいが知恵のまわるヤツでもある。

 魔動車の問題になにか気づくかもしれん。

「好きにしろ。だが断っておくぞ。これは失敗作だ。これがいまの私の実力の全てだと思うなよ」

「はい。承知しています」

 なにがおかしいのか、ニコニコと微笑みながら頷く。

 驚いたことにトリストファーだけでなく、日焼け娘まで一緒になって、魔動車をあらゆる角度から観察している。

 私のことを嫌っているようだからな。テキトーに眺めて嫌みのひとつでも投げてくるかと思ったが、その目は意外に真剣だった。

 汚れるのにもかまわず地面に仰向けに転がり、両側のスタンドと名づけた部位で固定している魔導車の構造を、下から眺めたりもしている。観察の仕方がトリストファーよりも本格的だ。

「丈夫にできているからな。さわってみてもかまわんぞ。ただし先端についている取っ手の間の魔術陣には、間違っても魔力をいれようとするなよ。巫女殿以外では魔力枯渇を起こしてたいへんだったからな」

「へー、そうなんですね。ボクにはもともと入れるだけの魔力ありませんが、動かすのに多くの魔力が必要なんですね」

「その点が失敗作だ。本来であれば少量の魔力で動かせるよう設計したつもりだったのだがな。しかし、こちらに戻って2週間程度で作った図面だ。そのうちまた時間をかけて練りなおすさ。ただ、いまは違う魔術具を考案中だ。それができれば食料の保存がしやすくなり、人々の生活にもゆとりがでるだろう」

 なるほどとうなずくトリストファーの横で、立ちあがった日焼け娘も魔術陣をのぞきこむ。

「ああ。確かにこの魔術陣じゃ、かなりの魔力消費しちゃいますよね」

 なんだ? ずいぶん知った風な口をきくな。

「この絡繰りって、魔力エネルギーで前後の車輪軸に通している、樹皮材を回転させることで車輪を動かして、乗っている人を座ったまま移動させる仕組みですよね」

 予想もしない相手の口からでた正答に、私は日焼け娘を凝視してしまう。

「ああ。だいたいそんなところだ。すごいな、わかるのか」

 あんなちょっと見ただけで、コレの仕組みを理解するとは。

 トリストファーも隣で感心したように日焼け娘を見ていた。

 巫女にいたっては、いつの間にかトリストファーの腕にしがみつき、うっとりとした表情をしている。明らかになにもわかっていないな、コイツは。

「この魔術陣だと、この樹皮材にエネルギーがまったくいかないとおもいますよ。魔力の運動エネルギーだけで、この鉄の塊を動かしていますね。力づくで動かしているのと同じです。車輪はコレが動くついでに回っているだけで、馬車の荷車の車輪と同じ意味しかなしていません」

「なんだと⁉」

「逆に言ってしまえば、魔術陣さえきちんとしたモノを組み込めば、想定の魔力量で理想通りの動きをさせることができるのではないかと思います」

「ほ、本当か⁉」

 思わぬ言葉に、反射的に彼女に駆けうpってしまった。

 彼女は真剣な眼差しのままうなうなずいてみせる。

「あのー、それでなんですけど、私に動力を動かす魔術陣、作らせてもらえませんか?  アタシ、アナタのことは嫌いですけど、この絡繰りは本当に凄いと思いました。一職人として心から尊敬できます。こんな絡繰りアタシには作れません。でも魔力で動かすための魔術陣ならなんとかなります」

 ひと言余計だった気もするが、どうでもいい。大事なのはそこじゃない

「動かすことができるのか、コレを。通常の魔力で? その魔術陣を作れると?」

 私の初めての子供とも言うべきコイツに、真の意味で命を吹き込んでくれると?

「作れると思う。いえ、作ってみせます。ラオブ王国王家御用達の魔術付与士グノシィー家の名に懸けて」

 先程まで小さくて小うるさかっただけの小娘が、いまはまるで太陽の化身のように、大きく光り輝いて見える。

「師匠と呼ばせていただきたい!」

 彼女の手を取り、私は心からの喜びを露わにしていた。

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