第10話 友人の婚約者
言っていたラリア様をアイラ譲が連れてきてくれたのは前回のお茶会から3週間がたったころだった
まだ、ロイからの返事はない
何かしてしまったのだろうか、妹と婚約者同時期に無視されるような、なにか
そう思って思案しても何も思いつかないままの私を気にしてかレーライは最近も増して構ってくるようになった。
彼は弟妹が多いと聞くので元来世話焼きの性質なのだろう。気は多少紛れるが一人になったらまた考えてしまう循環に陥っていた
ちなみに、レーライに兄弟仲を聞いたところレーライ一家が仲良しであるがそれは死なないための必要な関係でもあるといわれた。彼は思っていたよりも現実的にこの世界をみているのかもしれない。言外に仲悪いのは貴族様で命の危険がないからだといわれた気がするが、それは納得したから腹も立たない。平民の生活はいつだって明日の心配が先立つのだ。こんな悩みを持てるのも貴族だからだろう
だが、それを特権だとも可哀想とも思わない。その状態を解決するために動く心づもりはあるが、過剰な哀れみはまた違うのだ。レーライにそう返せば満足そうに笑っていたからきっと対応としては間違いすぎてはないだろう
「レデアナ様!」
「アイラ嬢、よく来てくれましたね」
1回目と比べて少し慣れたのか過度な緊張はない可愛らしい笑顔でアイラ嬢がお茶会の場である中庭に現れる。
その後ろから騎士服を着こみ眉間にしわを寄せた青年がついてくる彼こそがラリア・ミライル様。
騎士として王都で城勤めをしていると聞いているがその服の下の筋肉はなるほど、納得できる。もともとアイラ嬢の隣に住んでいたが現在は兄の嫁であるルーベ・ミライル様が領地を収めているため余計な火種にならないようにと領地を離れていると聞いている
椅子から立ち上がり二人を出迎え座るように示唆すれば眉間のしわが更に深くなったような気がした
「さぁ、お二人ともどうぞ。わざわざ来ていただいてありがとうございます」
「いえ、いいのですよ。こちらが話していたラリアです」
「…ラリア・ローサイトです」
「えぇ、ラリア様も本当に来ていただいて感謝いたしますわ」
「…いえ、婚約者の頼みなので」
婚約者の頼みでは無ければ来なかった
どうやら、いつの間にやらラリア様に嫌われていたらしい。品が悪いわけではないが、お茶に手を付けない今の状況を見るとギリギリのマナーで彼は来たくなかったことを表している。隣でアイラ嬢が慌てたようにラリア様を小突く
「ら、ラリア。す、すみません。いつもはこんな感じでは…」
「いえ、大丈夫ですのよ。来ていただいただけでも光栄ですわ」
にっこりと笑ってそう返すものの正直見ず知らずの彼にここまで嫌われる筋合いはないどころか身に覚えがなさすぎる
マナーが最悪だったならまだしも、私のマナーは最高水準のはずだ
それに、引き締まった体と男らしい顔つき…この世界の美的観点からいえば不細工な彼の顔は私からすればイケメン。イケメンに嫌われるのは何とも心が痛む…
頬がややひきつってしまったの私を責められるものはいないだろう。誰だって、顔がいいと思うものに嫌われるのはつらい…
因みにロイ様は別格だ。あれは顔がいいどころか芸術品だと思う
「それで、お呼びだてした事情というのは…」
「いえ。説明はもう把握しているので結構です」
「…そうですか。では、ご意見を伺っても?」
「…先当たって言っておきますが、私も兄も仲良しということはありません。私たちの仲が珍しいわけではないので貴族で仲がいいということは少ないでしょう」
アイラ嬢から先に聞いていたのか、私と必要以上の会話をしたくないのか。そこまで言うとラリア様は口を閉じる。仲が悪いことは特別なことではないから、そのままでいいと言いたいのだろう。
だが、そのままでいいと思えないのだ。思いたくないのだ
「えぇ、では質問を変えましょう。ラリア様は喧嘩をしたときどう仲直りしますか?」
「…は?」
「仲良しということではないという言い方からして仲が悪すぎることもないのでしょう?それならば、喧嘩したとき仲直りした記憶もあるんじゃないでしょうか」
「それは、ありますが…仲直りする必要がありますか?」
「えぇ、ありますよ」
「……」
「だって、私は仲直りしたいのですから。兄弟仲よくなのが普通だからと言ってその普通に従う義理は私にはありませんの。それとも貴方は貴族間の婚約者同士が恋愛で結び付けられることは少ないからと言って恋に落ちてはいけないというのですか?」
「それは…」
「…もう、そうやって意地悪するばかりだから返されて当たり前です」
「アイラ…」
口ごもるラリア様に思わず言ってしまったことを後悔するが先に立たずだ。そもそも挑んできたのは相手のように思う。口ごもり目線を横に向けたラリア様にアイラ嬢が軽い注意をする
エスコートやスキンシップを自然に行ったりしていることや、その目線の熱や気安さを見るところラリア様とアイラ嬢は仲睦まじくこれまで過ごしてきたのだろう
少なくとも私はロイ様とそのような関係を築けているとは言えない
彼との関係はいつだって二人の一方通行であんな風に見つめあったことも、心を込めて触れ合ったこともない。いや、彼は見つめてくれていたのに私は無意識にそらしていた。自分の好みや世間の目が強くて彼自身を見れたのはいつだっただろう
記憶を思い出す前も、思い出した後の今でも、彼の好きなもの一つ知らない私を見限ったのだったらそれは自業自得かもしれない
「もう、…レデアナ様?」
「…いえ、失礼しましたわ。それで?どうなのですか?」
「……仲直り、は女性とは違うでしょうか何度か経験はあります。その際は、自分の嫌だと思うところを相手に伝えて、兄からも伝えられました。それと…兄と私も母は違うので、兄の母に相談したりしました」
「…そうですか。では、早いですが今日はここまでにしましょうか。いろいろとありがとうございます」
「では、私はこれで」
「あ、もう。…申し訳ございません。またよろしければお話しさせてくださいね」
「えぇ、是非」
思考が飛んでいたことに気付いたのか心配そうな顔を向けるアイラ嬢に笑顔を返す。母に聞く、それはやったことがないからいい案かもしれない
それに、いくら冷たい対応をされたからと言って婚約者に注意されて居心地悪そうにしているラリア様を長くとどめるのも忍びなかった。解散の意を伝えてほほ笑むとラリア様はさっさと立ち上がり一礼する。それに続いてアイラ嬢も渋々といった様子で立ち上がると次の約束を交わして立ち去る
なんとなくその後姿を見送っていれば二人で何かを話して最後に笑いあう様子を目撃した
私たちは、あんな風になれるのだろうか
隣にいない誰かを無意識に探してしまった
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