第6話 お茶会準備

さて、お茶会をやってやろうじゃないかと決めたはいいがお茶会を開くのには準備がいる


お茶会の参加者を決めるのは楽だった

お茶会にいつも来ているメンバーというものがいたから、その中からある程度抜粋して招待状を送ればいい。

基本的には領地外部の仲良くしておくべきといわれる有力貴族たち、領地で地繋ぎになっている近隣貴族たち、そして国境付近を守っている貴族たちの中で自分と同じ年代であり学園に同時入学する者たちの中から選抜して20件ほど送っていく。

そのあと、公爵家からの誘いとなっては大体のものが確実に参加するという返事が来ることを見越して、招待状を送ってから返事も待たずに喧嘩をしない関係値や相性を見ながら席順を決めていく


それが一番難しい


近隣貴族たちはそれぞれ仲良くしておくべきという考えが強くあるため基本的に私にゴマをする行動をしてくれるから喧嘩などにはならないが中央に近い有力貴族たちの中には私のことが嫌いなものもいる。それならば、お茶会招待状を出したり参加しなければいいと思うがそれもまた社交なのだ。嫌われている場所でどれだけうまく立ち回れるかも社交として必要になってくる。

今までの私が立ち回れるのは母の教育の賜物だろう。それは、前世の記憶を思い出したからと言って薄れることなく、私の中で生きている知識であるからその辺も問題はなくいつも通り動けばいいのだが…ここで頭を悩ませている理由が勿論ある。前回のお茶会で一騒動あったのだ



「…レディ。あまりに放っておかれると寂しいから、少し手伝わせてくれないかい?」



そう、声がかかるまで唸り続けていた私はようやく紙に向けていた視線を上げて見目麗しくこちらをみる金髪碧眼の少年の姿を見る。彼は私の視線に映れたことが何よりも幸せだと言わんばかりにその麗しい顔を破顔させる。イケメンの顔は何をしてもイケメンだ。むしろ、目がつぶれてしまいそうにもなる

自分の頬が染まっていくのがわかる、最近調子乗るを通り越してもはや昔からの友人くらいの気軽さで話しかけてくるようになった新人使用人レーライにウインクされた時とは比べ物にならないくらい赤面しているだろう

今日は無事ダイエット効果が表れたことによって自分好みの顔立ちと体つきになってきた婚約者とお茶会の日である



「……そうね、ロイ。放っておいてごめんなさい…あの、あまり、見ないでくれないかしら」

「…それは難しいな。最近会えていなかっただろう?君の顔が見えない時間を少しでも減らしたいんだ」

「う、顔は顔よ。今度絵でも送らせるわ」

「絵は絵だよ。でも、会えないときは絵で君に会いたい気持ちを紛らわせることにしよう。最高の画家を用意させるよ」

「うぅ…」



ロイは出会ってからこんな感じだったがまだ肉だるまの時はよかった。流すことができたのだが…自分好みになってしまってからはもう、どうしたらいいかわからなくなってしまいつつある。そうなっている私を見ている視線が愛おしそうなものであることは疑わなくてもいいだろう。これでもし浮気でもされようものならサティアの分あわせて暴れまわる自信がある。一途な婚約者に恵まれない自分の境遇を嘆き悲しみ拳を握るだろう

え、泣く?それはサティアでやった。浮気者には泣く涙も情も持ち合わせてはいない



「…あぁ、この子のことが心配なのかな?」

「そうなの。一個前のお茶会の話はしたかしら」

「聞いてはいないけど知っているよ。確か、君のことを気に食わないといった愚かなアラベナ嬢が嫌味の矛先を彼女、アイラ嬢に向けたのだろう?」

「愚かなって…あと、知っていることに引っ掛かりを覚えるけど…でも、そうね。概ねあってるわ」



意識を飛ばしていた私を仕方がないように微笑みながらそっと話を戻してくれた彼の指先には二人の名前がある。私のことを気に食わない有力貴族の令嬢であるアラベナ嬢が文句をつけようと国境付近の辺境伯であるアイラ嬢に突っかかり泣かせてしまうという問題が一個前のお茶会であったのだ。その時は終盤の馬車に乗る直前であったため、そのままアイラ嬢が逃げ帰り終わったが今回はそうはいかない

席順は去ることながら問題を起こさせないように立ち回る必要があるのだ。最初から招待しなければいいという考えもあるだろうが、ここでアラべナ嬢を招待をしないと彼女に私が負けたという認識になり今後の社交がやりにくくなる。しかし、アイラ嬢を招待しないとなると見捨てたという認識になり国境付近の他貴族たちは二度と私のお茶会に参加しないだろう。前世の記憶が戻る前から国境付近を守ってくれているその重要性を高く評価してお茶会に誘っていたし、記憶が戻った今はサティアと同じ境遇である彼女らには勝手な親近感も沸いているため嫌われることは避けたい



「やっぱり、私の近くにアイラ嬢を座らせて守るほうがいいかしら」

「そうだね。ある程度重宝していると視覚的にもわかりやすいほうがいいだろう。段位は低くても国を守るために国境を守っている者たちを蔑ろにするのはあまりいい法案とは言えない」

「…そうよね。ロイも同じ考えで私は嬉しいわ」

「僕もだよ。愛しの婚約者様」

「はい、そこまで~。いちゃつくのはその辺にしてお迎え来てますよ王子様」

「いちゃついていないわよ、レーライ。貴方最近生意気が酷いわよ」

「これくらいしないと入っていけないんですよ。メイドたちがどうしようかと困ってましたよ~」

「……レーライ、今度お茶菓子を買いに行きなさい」

「準備してます」

「……じゃあ、名残惜しいけど。僕の愛しの婚約者様は見送りまで来てくれるかな?」

「えぇ、勿論です」



段位が低いからといって見下すものも多い国境付近の者たちの重要性を理解しているロイは本当に視野が広い。第一王子は見下していると聞くから元々第一王子の婚約者になる予定だった私にとっては今の結果に大満足だ

思わず視線を向けた顔に微笑むと微笑み返してくれる

胸が温かくなり心がときめく。きっとこれを幸せと呼ぶのだろう。


家族と過ごす幸せとはまた違った感覚に心を躍らせていると聞こえてきた生意気な声に思わず眉を寄せ反論してしまうが困った様子でこちらをみるメイドたちを指で示して見せるレーライに時計を確認する。いつの間にやらロイが帰る時間になったらしい。時間がたつのが早すぎることに気づかなかったのは私の不徳の致すところだ。メイドたちに謝罪の意味を込めて流行りのお茶菓子を届けさせようとレーライに指示すると彼はいつの間に持ってきたのかカートの上に並べてあるお茶菓子を見せてくる。大分働き方を覚えた彼は有能であったようでこういった心遣いをしてくれるようになった。あの時首にしなくて本当に良かった


私の手を取りキスを送るロイがこちらをみてというように少し力を込めて手を握るのを握り返して微笑む

そして、そのまま馬車まで見送りに向かうのだ。また次回と交わした約束が果たされないことも知らぬまま

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