第5話 第一夫人

「ミーティが歩いていくのが見えたから邪魔しちゃ悪いでしょう?流石に血の分けた親子の邪魔をするつもりはないのよ」

「血を分けたって、そんな…私にとっては義母様もお母さまですわ」

「あら、それは嬉しいわね」



用事などがあったのではないかと気にする私にそんなことを言いながら、彼女はお茶のカップをゆっくりと傾ける

私のマナーの先生をしてくれている彼女の所作は基本的に美しい。どこを切り取っても、どこから目線を向けても絵になるというのだろうか。今まで厳しいほどの練習を培ってはきているが、彼女のようになるのは根本的な問題で難しいとすら感じるほど彼女は完成しきっていた

庭園の中の机と椅子が置かれたお茶会会場。彼女のお気に入りの場所で、何度もお茶会を開く練習をさせられたこの場所で二人のお茶会が開かれていた。私たちが使用しているカップのほかに一つのカップが置かれているがそれは突然来る旦那様用だといつも夫人は言っている。

もちろん、父様が呼ばれていないお茶会に参加する暇もないので心意気としていつもそう考えておけというものだろう。自分ももし子供とお茶介することになったらそうしようと心にとめている

因みに私が使っているカップにはガーベラ、目の前の彼女のカップには薔薇、残っているのはブドウのカップだ。三つのカップは特注で第一夫人のお気に入りらしく身内でのお茶会をするときはいつもこのカップを使用している。

もっとも、妹であるミーティと第一夫人や父上と第一夫人がお茶会しているところはたまに遠目から見かけるがそれ以外で夫人同士でお茶会しているところは見たことがない。

母たちが一同に会うことは夕食の会場以外あまり見かけないのだが、出会ったら立ち話をしたり部屋に会いに行ったりはしているので仲が悪いといった印象は受けない。記念日の贈り物もしあう仲なのだ。ただ、各立場があり忙しいのだろう



「それにしても、レディ。最近、どうなのかしら?」

「どう…とは?」

「あら、意地悪しないで頂戴な。私がレディに聞くと言ったら恋話に決まっているでしょう」

「お好きですね。でも、変わっていませんよ。ただ…会う回数は少し増えたかもしれません」

「いいじゃない!素敵だわ!」



美しい所作をしながらも無邪気に笑い手をたたく

他二人の母とは違い彼女は第二王子であるロイとの関係を気にしてくれていて、毎回恋話と称して色々と提案してくれた。少し楽しんでいるようにも見えるが、第二夫人とは違いどちらかというと純粋さを兼ね備えた楽しみに見える。こういった話をするのは数えきれないほどであるのは、婚約者が決まったと話した時から恋話が大好きだから彼のことを聞かせてくれと私に何度も言ってきたからだ。私はそのたびに不満を漏らしているというのに彼女はその私をとりなして状況が変わらないのが不満であればロイを変えるようにと言ってくれたものだ



「…でも、ようやく肉付きがよくなったのに最近罰?とやらに付き合っているせいか肉がなくなってきたんじゃなくて?もっと食べさせるべきだわ」

「いえ、義母様。あれくらいで丁度いいのですよ」

「あら。前までもっと太らすと息巻いていたのはどこのどなただったかしら?もしかして、あきらめてしまったの?でも…周りの目も大事よ」

「…周りの目よりも大事なことはありますから」

「……そうかしら?」



不思議そうに、純粋な笑顔を浮かべてカップを傾ける夫人を見ながら自身のカップを空にしてメイドを呼び出すための鈴を鳴らす。相手がもう一口飲めば無くなる程度残してカップを戻したときにお代わりを用意するのはマナーだと目の前の先生に教えてもらったのだ。これは前世では知らなかったことであり、今世があってこそ身についた所作だろう。

母にも、第二夫人にも多くの時間と知識を持って色々なことを教わったが私が一番時間を費やしてもらったのはきっとこの目の前の女性だと心から思う。



「でもレディ。大事なことといえばそろそろ社交にも目を向けるべきじゃないかしら?」

「……社交、ですか」

「学園に入るまで後数年ですもの。立場、というもの。わかっているでしょう?」

「そうですね、わかりました」



入口からやってきたメイドが私のお茶を入れた後、第一夫人のお茶を入れる中何かを気づかせようと瞳を静かに向ける第一夫人にうなずいて見せる。貴族が絶対に入らなくてはいけないとされる学園入学まで残り2年だ。それまでに公爵家の娘として立場を明確にするためにも、ここ最近開催できていなかったお茶会を領地や近隣の娘たちの上に立つものとして開催しろというのだろう。眼差しを見る限り今回のお茶会の本題はそれなのだと思う。何かあるかと私のほうを見るメイドを目で下がらせながら覚悟を決めた

仕方がない、やってやろうじゃないか。お茶会を!!


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