第4話 第二夫人

「ねぇ、レディ。中々面白いことやっているみたいね」

「あら、お義母様。面白いことではなく必要なものに罰を受けさせているだけですわ」

「それが面白いといわずになんていうのよ。最近みんなの肌艶がよくなったのはレディのおかげでしょう?」



短い金髪の髪を肩口まで揃え、たれ目がちの目元をにんまりとまるで猫のように釣り上げて微笑む彼女は父の第二夫人であり、我が家の財布を握っている。

高い学力を有している彼女は書類や、必要なものを必要な場所に配置する能力がとても高く私の教育面の先生を受け持っている。私が教育を受けるにあたって学んだことは得難いものであり、その時に彼女が妹であるミーティを産んだ後からもうお役は御免とばかりに上手に父のお渡りの回数を自分が減るように動かしていることも知った。記憶が戻る前の私は父の寵愛を受けるために努力せずその様な改ざんを行うなんてと憤慨し、嫌悪に近い感情を向けていたのだが前世で女性騎士等の結婚以外の道を知っている〈私〉は彼女は結婚に向かなかったんだろうなと思っている

それほどまでに優秀だった。恐らく男に産まれるか、この世界ではなかったら国単位で重宝されていたに違いない。母とはまた別ベクトルの賢さだ。ただ、一つだけ難点を上げるとするなら性格の強かさを仮面で隠す母とは違い、前面に押し出してくるタイプなのだ。彼女が何かを言い始めたらそれはこちらの反応を楽しんでいるに他ならない



「……何が言いたいんですの?」

「そんなに嫌そうな顔しないでよ。私はこう見えてレディのこと気に入ってるって前からずっと言ってるでしょう?」

「だからこそこの警戒だとお判りでしょう?」

「こら、質問を質問で返さないの」

「お義母様から始めたことだと思いますけど…」

「おや、思案している間に忘れちゃった?何が言いたいと質問を質問で返してきたのはレディが先よ」

「ぐっ…」



ぐぅの音しか出なかった

にんまり、また笑う。強かさという言葉でカバーしていたが、もう言ってもいいだろうか。正直この目の前の女性は性格が悪い。口喧嘩しようものなら一回り違う私を完膚なきまでに叩き潰すくらいには手心もない

ただ、気に入っているというのは事実なようで色々な知識は彼女から教えてもらった。そのことは感謝しているし、先生と慕ってはいるのだが…



「ねぇ、レディ。私たちの可愛い子供」

「…なんですの」

「あなたの計画が何であれ私の可愛い弟子が愚かであると私に思わせないで頂戴ね」

「えぇ、仰せのままに」

「じゃあ、もう言っていいわ」



どこの世界に優しく髪を撫でつつ愚かと思わせないようにしろという継母がいるのだろうか、ここにいる。さすが頭を打って気絶から目覚めたばかりのその日のうちに今日の授業で進む範囲が終わっていないからという理由で部屋に突撃してきた人物だ。私の返事を聞いて興味が失せた顔をして手を振り退出するように促してきた彼女に一礼をして私は部屋を出た



「……ぁ」

「あら、ミーティ。母様にご用事?」

「………」

「ミーティ?」



そして、部屋を出たところで実母である第二夫人を訪ねてきたのであろう、ミーティに遭遇した。にこやかな笑顔を浮かべていつも通り挨拶をしたのだが、彼女は私の横をすり抜けて部屋へと入ってしまう


パタン、と扉の閉まる音と私の不思議そうな声が廊下に落ちる


姉妹仲はお泊り会などしあい部屋に訪れあうなどはしたことがない為、良好とはいいがたいかもしれないが出会ったときには笑顔で挨拶して世間話する程度には不仲ではないつもりだった

現に今までその程度の関係値を築いていたはずだったのだが、そういえば自分が前世の記憶を取り戻してからミーティと会うことはなかったため今までの自分の罰する態度を見て自分も罰を受けては敵わないと思ったのかもしれない

これは早急に姉妹仲をなんとか回復させたい。せめて、可愛い妹に無視されることはないようにしたい。両親に駄々を捏ねたほど妹が欲しかったのに、弟ばかりが産まれた(勿論、弟も可愛かった。剣で負けた腹いせに芋虫を服の中に投げ込まなければの話だ)前世と比べて今の私は妹がいる。妹をかわいがりたい、お姉ちゃんの欲を見ていろ!



「レディ?どうかしたの?」

「ぁ……ごきげんよう」

「えぇ、ご機嫌様。もしお暇なら私とお茶を飲みましょう」

「有難い申し出感謝いたします。是非頂きますわ」



不穏なことを考え廊下を歩いていれば、目の前から第一夫人の姿が見える。夫人の中でも家柄が一際高い彼女は、一人だけ子孫を残していないがそれでも家での立場を確立させている

習った通りの礼を尽くしてお辞儀をすれば及第点とばかり顎を僅かに引き柔らかく微笑む。母たちの中で一番優し気な彼女は一番礼に厳しいのだ。及第点をとれなければ鞭や定規が飛んできていただろう

お茶会の誘いに一つ頷き第一夫人の後ろを歩きついていく


しかし、この廊下は第二夫人の部屋に向かう廊下だが用事はよかったのだろうか

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