第3話 まずは散歩から

「なぁ、最近レーライは何してんだ?」

「あれだよ、あれ。お嬢様の頭をぶつける運転してしまった罰をお嬢様自ら下しているんだ」

「それにしたってよぉ…あんな風に運動しちまったら太るにも太れねぇじゃねぇか」

「それが罰だってよ。怖い怖い…」

「…ちょ、おい!あれ王子様じゃないか?王子様も運動させるなんてお嬢様強すぎだろ…」

「ちょっと、貴方たち無駄話するほどお暇なようね」

「お、お嬢様!」

「い、いえ。俺たちは…」

「言い訳は結構です。貴方たちも散歩10週しなさい」



侯爵家の庭師が丹精込めて作り上げた広大な庭を新人使用人のレーライと我が国第二王子のロイと一緒に散歩しているときに聞こえた声のほうに向かえば肉だるま(中)が二人立ち話をしている。見たところ、剣を携えているため騎士だろうが前世の記憶がある私からすれば本当に動けるか不安なところだ。勿論、門番はきちんと痩せているものが務めているのだが内部はお飾りの部分が大きい為本当に動けはしないことは知っている。だが、それでは内部で何かあったとき不安だろうと無駄話を口実に10週歩くように指示を出した。その時の絶望顔は言い難い…散歩10週でこの顔をするのだから今後が心配だが、運動のうの字も知らない者たちにハードなトレーニングをかすのは愚の骨頂。まずは散歩から責めてある程度の体力がついてから筋肉を育てていくしかない…



「へ、は、…も、もう、きつい、です。お嬢様」

「あら、レーライ。貴方のせいで傷つけた私の頭はどうだっていいの?」

「は、はっ…どこを、傷ついても…レデアナの美しさ、は…損なわないよ」

「……ロイ様、お戯れはおよしになってください。動きに集中なさって」



隙あらば口説こうとするロイ様の言葉にツンっと顔をそむける。正直内容事態は照れてしまうものだったが、いかんせん肉だるま。目を見ようにも肉しか見えない現状ではときめくもなにもあったものじゃない。むしろ、その体力を歩くものに使ってほしい

頭を打ち付け気絶してから1週間後…頭を打ったのだからと起き上がろうとすると両親から命の受けたメイドたちがすぐにベッドに戻してきた。愛情が多いと思っていたがこれでは過保護だ…でも、親から愛されているのは心地いい為指示にしたがいベッドから1週間離れられなかった。そのため自身の運動不足解消と罰を同時に行おうと私も散歩に参加した。使用人への罰ついでにロイ様にも私が頭をぶつけたとき助けなかったからと無理難題で一緒に散歩するように命じれば嬉しそうに散歩をしてくれたため現在は三人で侯爵家の庭をぐるぐると回っている。お茶会をやろうと下見に来ていた第一夫人が二度見していたのは正直申し訳なく思ってはいる…本番はやらないからお茶会日程は是非知らせてほしいと言っておいた

今まで太らせようと必死になっていたのに正反対のことをしようとすれば周囲から変な目で見られること覚悟の上だったが、罰という二文字が思いのほかきちんと働いているらしく太っていることがよしとされるこの国にとってはトレーニングすることは罰で相違ないらしい。

こちらを見て世間話をするものたちへ逐一歩き回る罰を与えながら自身たちも歩き回ること20週。流石に限界を迎えた二人の足を止めるように指示しながらも歩き終わった者たちに用意しておいた特大おにぎりを渡した。運動後の炭水化物は回復が促進されるのだ。皆うれしそうに白米を頬張っていたためきっと次回も白米を糧に頑張ってくれるだろう。因みに、罰を命じられたものは20人以上を超えていたため、20人以上が侯爵家の庭を濶歩する姿に第二夫人は爆笑していた。彼女のあれ程まで輝いている笑顔を見るのは初めてだった



些細なことでも指摘して罰としてトレーニングを課す事1ヶ月

ロイ様の目元はある程度見えるようになってきた。他のものもズボンを上にあげられるようになった等の報告が増えてきた。今までは、家族にあげてもらっていたらしい…太りすぎはよくない

言いがかりのようなものから指摘すべきものまで罰を与えてきたが、出席率が一番高いのはロイ様とレーライだった。どうやら、レーライはそそっかしくミスが多いようで他の使用人からレーライがこんなことをしたと一日何度も報告が入るほどであった。何回同じミスを聞けばいいのか、ロイ様がいるときは彼が聞いてまとめた回数を提出してくれるようになった…王子が何をやっているのか、止めても聞かないのだ

出席率が多く、元々そんなに太った体系ではなかった彼はトレーニングの結果を一番出していた。いい筋肉が順調に育ちつつある体になってから剣のトレーニングも追加すればみるみる上達しており、門番の護衛たちより強くなる素質を持っていることに気がついてからは本人も楽しくなったのか進んでトレーニングをし始めた

レーライはミスも多かったが他のものに可愛がられる立ち回りがうまかったようで、進んでトレーニングの成果をみんなに話すため、その姿を見て感化されるものも出てくるようになってまさしく順調だ。ただ、立ち回りがうますぎて罰目的でないことが早々にばれてからは私にも軽口を聞いてくるところだけはやめてほしい。特にロイ様の前でやると彼の眼が怖いのだ、ロイ様の抑止力が私だということまで理解して立ち回る分本当にたちが悪かった



「俺、お嬢様のこと血も涙もない極悪非道って思ってましたよ~。いや、今もちょっと思ってましたけど」

「貴方最近調子乗ってませんこと?お嬢様は軽口きいていい存在ではありませんことよ」

「いや~、でもお嬢様の罰は今受けてますから?」

「………いい加減にしないかい?君を物理的に首にしていいんだよ?」

「でもでも、俺ってお嬢様の目的みたいなの一番貢献していますからね?」

「……ロイ様、首にしないで大丈夫です。あと、レーライ。調子乗りすぎです」

「は~い」

「レデアナ?何をそんなに顔を赤くしているのかな?」



ロイ様に見えないようにウインクする姿がまたこざかしい。ちょっと、イケメンになったからって…

赤くなった頬が冷めるまでロイ様の眼が痛かった。イケメンのウインクに反応するのは許してほしい

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る