第7話 お茶会

さて、お茶会当日

招待した20人全員が参加することになったお茶会は一席5,6名で構成されるテーブルが4個並べられている。そのうち一つ、中央にある六名掛けのテーブルに座るのがホストである私と有力貴族とよばれるものたちだ

関係値や段位を考えても有力貴族たちと肩を並べられるのが私しかいないのだから基本的にお茶会を開くときはこの席順となっている。後は、近隣諸国の令嬢たちの席、国境付近の席、そして最後の一つは言っては悪いが私の取り巻きで構成されている席だ。それぞれ自分の立場に近いものが席にいるため話に華が咲いているのだが、私の隣には一人だけ緊張した面持ちでカップを傾けるものがいる。

勿論アイラ嬢だ。彼女は前回までは国境付近のものたちと同じ席についていたのだが、今回だけ特別にこの席に来ている。前この席に座っているものは取り巻きの一人だったため取り巻き席に行ってもらった。これにより私の味方がこの席では一人もいない状態になってしまったが仕方がない。守るべきもののために矢面に立てなくては公爵家の名折れだ。

現在の私の姿は色とりどりのドレス姿の中でも一際目立つ真っ赤なドレスに私に勝てるものはいないとばかりにふんだんにあしらわせた宝石が輝いている。勿論、マナーとしてホストと似た色のドレスを着てはいけないとされているから色の被りもいない。どれもこれも招待状にしっかりと真っ赤なバラの花を添えておいたおかげだ。気分は完全体制どっからでもかかって来てほしい


ある程度机を回って挨拶を済ませれば椅子に座りお茶会の開始の合図を行う。基本的に席があるお茶会は動かずにその席のものと会話をするのがマナーだが、全方面自分より段位が高いものが座る席の為アイラ譲は堅くなり誰とも話していないらしい。これ幸いにと話しかける



「そういえば最近罰として鍛える方法を導入したんですのよ。アイラ譲の家は騎士を輩出する家系でしたわよね。何かいい方法があれば教えてほしいわ」

「え…、は、はい。そうですね…何をしているのか教えていた、だければ。お力に、なれると思います」

「それはうれしいです。では、後程別の招待を送らせていただきますね」



ホストが一番に話を振るということはそれだけで意味がある。

本当はもっと筋トレや食事方法などに熱い討論をしたいが自分の動きを言わないながらも注視しているのを感じている今その話をすべきではない。今度別のお茶会の時にじっくりすればいいのだ



「お話をさせていただいても?」

「えぇ、勿論です」

「このお茶会に参加させていただくのは数回になりますけど…席替えは初めてじゃなくって?」

「えぇ。私が個人的にアイラ譲とお話ししたくてこの席に致しましたの。何か問題がありましたか」

「いえ、問題は…ねぇ?それぞれ気品というものがあるじゃないですか」



アイラ譲との会話が終わった瞬間を見計らいまっていたように話しかけてきたアラべナ譲はほら、というように周りに視線を向ける

他の者たちも思うところがあったのだろうが私に面と向かって言う勇気もアラべナ譲と違う意見をいう勇気ないため曖昧な笑顔でうなずきあう。アイラ譲が隣で体を固くするのが視界の端に入ったが今は目の前の敵である

薄ピンクのドレスに身を包んだアラべナ譲は周りの様子を自分にとっての肯定ととらえたのか自信ありげに顎を挙げてこちらを見る。本来であればホストと似ている色合いの色を身にまとうのもアウトなはずなのに赤と同系統のピンクを選ぶあたりが私への認識なのだろう。どうやら貴族間以外では噂が独り歩きしているようだが、〈私〉も理由もなく暴れまわるほうではなかった。むしろ穏健派に分類される方だったため、こうして助長するものも出てきているのだ


そう、助長

意味は不必要な力添えをして、かえって害すること。だ



「そうですね、気品は大切ですわ」

「きゃっ、何を!」

「ねぇ、アラベラ・ファーラ侯爵様。もしかして、目が悪いのかしら?」

「な、いうに事欠いて何を言うのですか!このような振る舞いは!」

「…では、なぜ貴方は赤いドレスを着ていらっしゃるの?」

「っ」



用意してある水をぶっ掛けると怒りに目を見開きこちらに突っかかる相手のドレスの色は真っ赤だ

ドレスを選ぶ際に同系統もアウトな理由はこれだ。有事の際にホストと同じ色とされてしまうから。

思わずといった風に口ごもる相手を椅子に座ったまま見下すように目線を向ける。

水を用意していた理由は決まっていた、毎回お茶会の旅に同系統の色のドレスを着ていたから今日も着てくると思っていたのだ。私は毎回それを微笑み黙認していた、それが彼女を助長させた原因だと知りながらも綺麗で整っている顔に睨まれるのは強いだろうからと。だからいつでも〈私〉は笑顔を浮かべるようにしていたのだが、甘やかす部分と厳しくする部分分けるのは大切なことだと私は知っている



「もう一度言いますわ。アラベア・ファーラ侯爵様。気品というものは大事ですの。私が席替えしている意図も伝わらずそのような問題を起こす発言をするほど頭も悪かったんですか?」

「私はっその、」

「段位が問題というならば貴方は私の招待客に文句をつける立場にないことを自覚なさい。私が気に入らないというならば完璧で文句のつけようのない所作を身に着けないさ。私の先生は私のお義母様たちですのよ?半端な振る舞いで私に傷をつけることはできないと知りなさい」

「……はい。申し訳ありません」

「いえ、わかっていただけたらいいのよ。そのお召し物に嫉妬してしまってつい水をかけてしまったの。私もごめんなさい、よかったらそのドレスを買ったお店を教えていただけるかしら」



手をあげればメイドたちが用意させていた予約が取れないことで有名なドレス専門店ミュールド店の最新でありながらも今私が着ているものと青いドレスを手に歩み寄ってくる

厳しくしたら次は飴だ



「そして、お詫びにこちらに着替えてきて頂戴。貴方はいつも薄桃色を着ているようだけど私ずっとこの色が似あうのにと思っていたの。一度試してみるのはいかがかしら」

「このデザインはまさか、ミュールド店…」

「えぇ、母が贔屓にさせていただいているのもあって私も贔屓にしていただいているのよ」

「……ぜひ、着させていただきます!」



アラベラ様の目が変わり口元が柔らかく微笑む。どこか媚びるような高い声で頷けばメイドに連れられて立ち去って行った

周囲の目も先ほどとは打って変わって同格、あるいは下に見ていた瞳が上を見る目になり如何に近付こうかと算段し始めたように感じる。

今までの〈私〉は自分の持っている人脈や店との関係を自分のものではないからと思い使うことを避けていた。

一方的に利用するのは悪いことだが、利用しあうことは悪いことではない。私と違い中央の有力貴族である彼女らならば新作を上手に披露する機会も多いだろう。広告料代わりに繋がりを少し誇張して伝えるのはさほど悪い案ではない



「私段位だけでは計り知れないものを皆さんに感じてこうしてお茶会に招いているのよ。ムーン様はセンスが良くいらっしゃるでしょう?いつも素敵な色合いのセンスだと思ってみているの。レンディ様はいつでもお話をいち早く知っていますし…アイラ様はその持ちうる知識が素敵で話すと楽しいのは知っていらして?私は全員素敵なところがあると思っているの。だから、皆で仲良くなれるとうれしいわ」

「勿論です、みんな仲良く過ごせるのが一番ですよね!」

「えぇ、もし中央にいらっしゃるときは是非我が家にきてください!」

「いいですね。また皆でお茶会しましょう!」

「でも、お友達になりたいのはアイラ様が一番なの。よかったら、なって頂戴ね」

「え…は、はい!是非!」



私の意図に合わせてにこやかに頷く周りを見て最後にアイラ嬢を見るとこちらを光を含んだ瞳で見つめている

いい意味でも悪い意味でも欲の混じった瞳ではなく混じりっけなしの憧れをこめた眼差しに小さく微笑み周囲が盛り上がりだしたことに乗じて小声で話しかけるとそんな風に頷いてくれた

アイラ様の地域は有力な騎士を輩出していると聞く。私の知っている知識と比べるためにもトレーニングの仕方などをしっかりと聞いておきたい。そして、よければ仲良くなりたい


戻ってきた落ち着いた色合いを身にまとったアラベラ嬢は精錬された美しさがプラスされてとてもかわいらしい雰囲気になっていた

今回のお茶会は大成功で終えたのだった




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