閑話休題 私の憧れの人
初めて招待状を目にしたときは夢だと思った
私は所謂地方貴族というもので段位も低くお茶会などの招待状が届くはずもなかった。逆にお茶会の招待状を送るには遠すぎて誰も来てくれない。知り合いなど一人もいないまま学園に行くことを覚悟していた時に届いたそれは私にとって何よりも重たい貴重なものになったのだ
精一杯のお洒落として用意したドレスは型落ちだがホストの真っ赤な薔薇とは被らない色合いを選ぶ。アクセサリー類は小さなダイヤモンドをあしらった首飾りをつけた
会場に着いたときに案内されたテーブルにいる者たちが全て地方貴族と呼ばれる国境近くの者たちであることはすぐに気づいた。そのおかげですぐに打ち解けた私たちは友人と呼ばれる関係となるのに時間はかからなかった。
そんな風に楽しく会話をしているところで登場した彼女は真っ赤なドレスを着こなして背筋を伸ばして綺麗な所作で各テーブルを回り挨拶していく。誰かが美しいと零し称賛する声には大いに同意したいところだったが、彼女の挨拶回りの時に私は小さく名前を告げるだけでそれ以上は何も言えなかった
最終的に彼女がついた席は私たちよりも段位が高く中央に配置されている貴族たちがいる席だ。その席についている者たちは煌びやかで宝石を沢山身に着けていて自信に溢れていた
私なりにお洒落してきたはずだったがそれと比べてしまうとどうしても見落としてしまう。同じようなことを思ったのか私たちのテーブル全体が気落ちしている雰囲気を醸し出したその時だった
あの声が聞こえたのは
「あの、なぜあのような子たちを招待されたのですか?」
「あのような子達って?」
「その、言ってはいけませんが大丈夫ですか?無理させてもいけないでしょう」
「…あぁ、あのテーブルのことね」
それは私たちも疑問に思っていたことだ。なぜ私たちを招待したのだろうか
静まり返っていたこともありテーブルについている皆が自然と耳を傾けていることがなんとなくわかる
「あの方たち素敵な人たちでしょう?国境付近を守っている大事な方たちですのよ。勿論、距離的には無理をさせてしまったかと思うけれど…是非とも友達になりたいの」
「え、あ…あの」
「でも、やっぱり無理はよくないわよね。一度その辺りをどうするか考えてみるわ」
「…そうですね」
そこじゃない
話を振った貴族が思った言葉はたぶんそれであっているだろう。彼女は私たちの存在がお茶会の品位を下げないかの心配であって遠距離移動が大変であるかどうかの心配をしているわけではないのだ
だが、それすら考えついていないのか惚けたことを返すホストに何も言えなくなったのだろう。同意してそそくさと別の話をしている会話に混ざっていった
そこでこちらに目線を向けたホスト、レデアナ様と目が合ってしまう。話を盗み聞きしていたのも当然なため思わず目線をそらそうとする前にウインクを投げられ小さく口を動かされた
[その首飾り似合っていて素敵ね。服装ともあってるわ]
それだけで十分だった
周囲のドレスは綺麗だとか、ここに来るまでの遠征費用も馬鹿にならないとかそういったマイナス面全てを覆すほどにその言葉が一番うれしかった
母から譲り受けたダイヤモンドの首飾りは小さくても私の一番のお気に入りで型落ちと呼ばれる薄緑色のドレスは父が精一杯のお土産として購入してきてくれたものだ。私はその気持ちが嬉しくてこの格好が大好きなのだ
その気持ちが報われたような気持ちになる
他のみんなも何か言われたのだろうか、どこか口元をほころばせたものが多くなった私たちのテーブルは自然と会話が始まった
たった一言、それでもその一言で私はこのお茶会には何があっても来ようと決めたのだ
そう決めたからこそ、きっと今がある
私だけのお茶会の招待状を握りそう思った
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