第3話 宇宙スライム

 光学カメラは既に対象の機体を捉えていた。


 単座のバートラスFF、戦闘機型だ。外観は俺の乗っているバートラスMSマークⅡとほぼ同じで、無尾翼、ブーメラン型の形状。全長8メートル、全幅15メートルほどの小型の機体だ。単座型と複座型がある。作戦に合わせて腹部に追加兵装を抱き、様々な任務をこなせるマルチロール機だ。俺の機体は全長20メートルもある円筒形の救助ポット。目の前の戦闘機型は全長5メートルほどのレーザー砲を装備しているはずなのだが……何かおかしい。


「AHAL。シルエットがおかしくないか? 戦闘機型にしては追加兵装が大型ではないか?」

「捜査中……アレは何かが取りついています」

「何かとは何だ?」

「不明……金属ではない何か……柔性の物質……」

「軟性だと?」


 訳がわからない。軟性の物質を使用している兵器だと? 我が帝国と対立する勢力……銀河の中に複数存在しているのだが、そんな兵器を使う勢力はない。


「お兄ちゃん。離れて!」


 後席のルーが叫ぶ。俺は咄嗟にバーニアを吹かして進路変更をしたのだが、さっきまで俺がいた宙域に半透明なクラゲのような何かが実体化していた。そいつは青白い半透明の触手を数千メートルも伸ばして俺の機体を掴もうとしていた。


「危ねえ。アレは何だ?」

「英中尉。離脱しろ。アレには武器が通じない」

「何だって?」


 榊少尉からの忠告だ。


「レーザービームは反射するし、ミサイルも意味が無かった。爆発の衝撃を吸収している。タコ……いや、スライムみたいな奴だった」

「救助は?」

しきみ中尉は死んだ。もう、あのタコに取り込まれている」


 そうか。アレはスライム状のモンスターって事か。

 宇宙空間であんなものに出会うとか訳が分からないが、ここは逃げるべきだな。


「樒中尉の回収は諦める。AHAL、逃げるぞ。反応炉を臨界へ」

「了解」


 ブオオオンと反応炉からの振動が伝わってくる。スロットルを押し込み全開にするのだが。


「前方に反応? ワープして回り込まれました」

「何だって!?」


 俺はバーニアを吹かして進路を変える。あのスライムは触手を何本も伸ばして俺につかみかかろうとして来るのだが、ギリギリでかわすことができた。


「どうすりゃいいんだ。旋回し続ける訳にも行かんぞ」

「艦隊に支援要請しますか?」

「要請しろ」


 支援要請しても俺の所に来てくれるのか。あの宇宙スライムが前線を押し込んでいる。あっちが優先で俺の方は後回しに決まってる。


「お兄ちゃん。助けてあげようか?」

「最悪だ。離脱できないかもしれない……って、助ける? ルー、どういう事だ?」

「だから、あの宇宙スライムをやっつけちゃおうって事」

「可能……なのか?」

「私に任せて。あの宇宙スライムはね。通常は五次元空間に存在してて出会う事はない」


 ルーの説明によると、あの宇宙スライムの正式名はアウラレーゼ。異次元空間に存在している生命体らしい。俺たちは三次元、アウラレーゼは五次元、ルーたちは七次元だから原則出会う事はない。


「私たちがね、七次元から三次元に降りたりした時に追っかけてくるんだよ。あの宇宙スライム」

「何故? もしかして食料とか?」

「言い方は悪いけどそうなんだ。高次元エネルギーはめちゃ栄養価が高いんだって。私を食べちゃうとあの宇宙スライムは1000年くらい補給しなくてもイイらしいよ」

「何だって? じゃあ人間もか?」

「うん。肉体じゃなくて魂の方を食べるんだ。榊さんは無事だったから魂の光が見えていた。樒さんの方はもう見えなくなってた。食べられてたんだよ」


 七次元存在のルーには人間の魂の光が見えているのか。だから生きていた榊には直ぐに気付いたが、樒の方は分からなかった。


「ところでどうする? 単純な速度ではバートラスに分がある。しかし、アウラレーゼはジャンプして先回りしてくるぞ」

「対処法はいくつかある。先ずは、手元にある装備で何とかしましょ」

「できるのか?」

「うん。大丈夫」


 自信満々のルーだ。しかし、俺にはどんな方法で戦えばいいのか、皆目見当がつかなかった。


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