第一章 二十六話 紅白戦⑫―一回裏― 圧力
――
私はこれまでにない
(
今のど真ん中の投球に対して
なら何で今、逃げなかったのか。――違う。逃げなかったんじゃない。
「……でも初球、あのコースでストライクが取れたのは大きい。」
投手にとってストライクカウントが先行する状況はお守りのような安心感がある。どうしてもボールカウントが先行してしまうと
――でも私には変化球という選択肢がない。それが使えればストライクからボール、ボールからストライクというようにコースの範囲を目一杯使って
「……よし、二球目は……。」
そう呟いて
こくりと縦に頷き、セットポジションに入る。
(……1、2、3っ!)
そう心の中でリズミカルに数字をカウントアップした瞬間。
「――えりっ!!」
セットポジションの為に
私の動きを見て
「夏波っ!!」
えりもわざわざ
「………。」
扇さんも
「……っふ!!」
セットポジションに入るや否や私は始動した。扇さんは中腰の姿勢で、構えるミットは
「――あっっぶねぇ!!」
――
(……これで良いんですよね?扇さん。)
あの四番の人が避けなければ多分
――所謂、
……いくら球速が遅い私の球だって下手をすれば大怪我の恐れがある。それを承知で当たるか当たらないかぎりぎりの所に投げ込んだ。
(扇さん、やっぱり
やはりというか何というか投げられた側はたまったもんじゃない訳で当然矛先は
「OK!ナイス
そんな内心穏やかじゃない四番の人を尻目に扇さんは「それでいい。」と言わんばかりに、何でもないように私へ声を掛けてくれる。
当然、そんな危ない球を投げられてそれを「ナイスコース」なんて言われた日には怒りの矛先が私から扇さんへ向かうのもまた自然なことだった。
「……へぇ……
「さぁ?どうだろうね。」
何やら二人が話してる。マウンドからでは聞こえないけど。……四番の人は一瞬カッとなったけど落ちついてくれたみたいだ。でも次のことを考えると気が重い。
……
「……タイム。」
そんな私を見かねて四番は打席を外すことで一度タイムを要求する。一度、二度、打席の外で素振りをして再度打席に入る。そんな
――ああ……どこまでも想定通りだ、と。
相手の短いタイムの後、再開した後のサイン交換は一度で完了した。
「…………………………。」
一度、二度、三度、セットポジションに入った状態でしきりに
(さぁ、私。覚悟を決めろ。)
左足をいつもより高く振り上げ、相手打者の方向へ踏み出す。そしてグローブを着ける左手を
(狙いは低め、後は扇さんを信じるだけ!!)
「っふ!!」
吐いた息と共に右腕を振り切る。
「……!?――またインかよ!!」
(低すぎ……!!)
投球は四番の足元目掛け放たれ、バッターズボックス内でバウンド。先程と一転して今度はまるで足払いをされたように
「っ
その時だった。相手ベンチの沢井さんから
視界を遮る
「
私は咄嗟にそう叫び、
「アウト!?セーフ!?」
そう沢井さんが判定を急かすくらい傍から見たら際どいプレイだ。
「ギリギリ……でセーフ?」
「そ、そうだと思います。」
「ん~惜しい。若干送球が浮いたかな?」
判定の余韻で静まりかえるグラウンドに扇さんの呟きが零れた。
確かにあのタイミングを考えれば、送球の捕球から
「バッテリー間エラーによる進塁は絶対に許さない」――扇さんの今のワンプレイは相手への無言の圧力だ。そして私へのフォローでもある。「――
――これでカウントは
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