第4話 あいつ

 今日の授業は集中できないと思っていたがそんな事はなかった。なぜなら今日は委員会やクラス内の委員長などを決める日だったからだ。ボーッとしてたらいつの間にか自分のやりたくない事をやる羽目になるかもしれない。でもそんな心配はなかった。僕のクラスは積極的な人が多かったらしく、やりたい人がすぐに決まった。

 「今日は皆さんのおかげで早く終わることができました。明日からはちゃんと授業が始まるので教科書の準備を忘れないでください。さようなら。」

 「さようなら。」

 何人かの生徒が先生に元気よく挨拶を返した。・・・もう放課後か今日は何をしようかな。部活もこの前十分に見て回ったし、草深さんが言うように部活に入った方が友達できるだろうし。とりあえずお腹が空いたから学食に行ってみよう。

 学食に着くと多くの生徒がいた。購買の食べ物はすでに無くなっている。まさかここまで人気だとは思っていなかった。購買でどんな食べ物が売っているか見てみたかったのに。残念に思いながらも食券機の前まで行く。様々なメニューがあるが今日はカレーにすることにした。カレーをトレーに乗せて席を探していると、草深さんを見つけた。・・・どうしよう話しかけて良いのだろうか。いや自信を持て僕、連絡先を交換した仲だろう。

 草深さんの前の席に座って話しかける。

 「草深さん偶然だね、何食べてるの?」

 「こんにちは田村さん今日はチャーハンを食べてます。」

 「へぇ、美味しそう今度食べてみようかな。」

 「そうですか、食べきったので私はもう行きますね。」

 「どこに行くの?」

 「部活動見学の続きです。今日は運動部を体験して回ろうかと。」

 「そっか、頑張って」

 草深さんは返却口に食器とトレーを返した後、食堂を出て行った。草深さんと長く話すことができなかった。僕は無念に思いながらカレーを口に運んだ。

 カレーは美味しかったけど、今度は草深さんと食べたいな。そんなことを思いながら学校の中を歩く。特にやることもないので家に帰ろうと思った時、ふと思い出した。今日はあいつが家に帰って来るんだった。やっぱりどこかで時間潰して行こ。でもどこにしよう。・・・よし、こう言う時は図書館に行ってみるか!

 図書館は本校舎から少し離れた場所にある。二階まであって高校の図書館にしては結構大きい気がする。せっかく図書館に来たので本を読むことにする。——そういえば草深さんは本を読むのが好きだったな。多分、僕が読むラノベとかとは違う本だけど。もしかしたら草深さんと仲良くなれるネタになるかも。そう思った僕は文学的に難しそうなタイトルの本をいくつか持ってきて読むことにした。


〜二時間後〜


 何言ってるか分からない。何を伝えたいの?もっと直接言ってくれよ!

 ・・・やっぱり本を読める人はすごい。

——少し前のことを思い出す。高校受験の時、国語は五十点ぐらいしか取れなかったのだ。他の人は七十点ぐらい取れてたのに。

 そうだ僕は国語が苦手だった。どうせ僕は「月が綺麗ですね」しか分からないんだ!

そうして僕は本を読むのを諦めてスマホを触っていた。

 スマホを触って何時間たったか分からない。時間を確認するともう六時になろうとしていた。流石に帰るかとスマホをズボンのポケットに入れた時。

 「田村くんこんばんは、こんな時間に図書館にいるなんて知りませんでした。」

 そう言いながら草深さんがこっちに来る。

 「草深さんこんばんは。ちょっとスマホ触ってたらこんな時間になっちゃった。」

 「そうですか、ところでそこに積み重なった本はなんですか?」

 「あっ、本を読んでたんだけど難しくて断念した本たちです。」

 「普段は本を読むんですか?」

 「いや全然読まないんだけど少し興味が出たから、でも国語が苦手なの忘れてた。」

 そう言いながら無理に笑う。草深さんと仲良くなるためとは言えねー!

 「本を楽しむのに国語は関係ないですよ。難しいならもう少し簡単な本を読んでみるとか、短い作品を読んでみるとかするのはどうですか?そうしたら読めるようになるかもしれません。」

 「でも草深さんいつも難しそうなの読んでそうだから、それっぽいの選んで読んだんだけど。」

 「・・・なるほど。では私のおすすめの本を紹介しましょうか?」

 「それは嬉しいかも。よろしくお願いします!」

 なんか上手く話せた気がする。草深さんとさらに仲良くなれた気がした。


 よし家に着いた。もう母さん帰ってきてるかな。

 「ただいま。」

 「おかえり珍しく遅いじゃない。」

 母さんの声。靴を脱ごうとした時に気づく、昨日までなかった靴。・・・そうだあいつのことを忘れてた。二階から急いで降りて来る音。そしてあいつは現れる。

 「積麦おせーでござるよ!」

 そう、あいつ・・・僕の姉のことだ。

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