第3話 勇気の一歩

 今日は学校が始まって二日目、特に用事は無いのに早く教室に着いてしまった。教室の中には誰もいない。やることもないので自分の席で窓の外を眺めていると、ガラガラと教室の扉が開く音がした。誰だろうと思って振り向くと草深さんがいた。草深さんって僕の隣の席だよな、やばい少し気まずい。当然僕の気まずさを感じるはずもなく隣の席に座る。どうしようかな、・・・でもこれは逆にチャンスなんじゃないか。誰もいないからこそ話しやすいかもしれない。そう考えた僕は話しかけることにした。

 「おはよう草深さん今日もいい天気だね。」

草深さんは窓の外を少し確認した後、僕の事を見る。

 「おはようございます。今日もいい天気ですね。」

 「・・・」

この後の会話について考えていなかった。何をしゃべるかを考えている内に草深さんが本を読み始めてしまった。コミュ障の自分を恨みながら、会話を続けるのを諦めてスマホを触ろうと思った時。

 「あの、田村君は昨日の部活動見学で何をしていたのですか?」

話しかけてくれると思わなくて少し驚く。

 「色々な部活を見てみようかなって思っただけかな。」

少し気恥ずかしくて本当の事は言えなかった。

 「なるほどそうだったのですね。全部の場所で一生懸命に取り組んでいたので少し気になっただけです。」

 「あははそっか、草深さんはどうしてあんなにたくさん部活動を見学してたの?」

 「本で読んだ事を体験してみたかったからです。部活が始まってからだと活動に集中しないといけなくなるので、今のうちしかできないかなと。」

 「すごい!なんかかっこいい!」

これが天才の風格というものなのだろうか。・・・今のうちにしかできない事か。そう考えると今の自分にとってできる事は何だろうと思ってしまう。過去のことだけど中学の時に友達を作れていたら文化祭も体育祭も楽しめたはずなんだ。——もう後悔したくないんじゃないのか。・・・やっぱり行動しないとダメだ。

 「草深さん実は僕、友達を作るために部活を回っていたんだ。」

 「そうなんですね。部活を回るより、入った方ができそうな気もしますが。」

 「確かにそうかも…じゃなくて、草深さんに友達になって欲しい。」

 「嫌です。」

 「まじか。」

断られる事ってあるんだ。今の絶対に成功する流れだったじゃん。

 「もしかして僕の事嫌い?」

 「いえ、嫌いではないですよ。ただ言葉が先の友達は嫌なんです。」

 「どういうことかわかんないよ!」

 「あなたは分かんなくても大丈夫です。」

何それ拒絶と同じじゃん。と心の中で叫んだ。

 「田村君を傷つかせてしまった事は謝ります。お詫びと言いますか、本当に嫌いじゃないことの証明としてこれをどうぞ。」

そう言ってスマホの画面を差し出す。

 「QRコード?」

 「はい。私の連絡先です。」

 「いいの?」

 「いいですよ。それともいりませんか?」

 「欲しいです。」

QRコードを取って連絡先を追加する。初めての女子の連絡先だ。

 「連絡先を追加するのは特別な人だけです。しかも男子で交換したのは田村君が初ですからね。これで信用して下さい。」

草深さんは笑っていた。笑っているのを見るのは初めてだった。不覚にもドキッとしてしまう。それにしても女子の連絡先を手に入れたという、ふわりとした感覚が僕を覆っていた。

今日これから授業集中できるかな?

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