雲、【秘密】

たっきゅん

雲、

 薄暗い地下への階段を抜けた先に広がる赤と黒の欲望渦巻くカジノで俺はポーカーのディーラーをしている。


「レイズ」

「……フォールド」


 卓に座っているのは天才ギャンブラーと名高い【青木あおき】、そしてこの賭場では見たことのない顔の男【赤井】、誰しもが青木の勝利を確信している中で


「これは意外だな」

「―――いや、赤井の手札を見てみろよ」


 二人はカードを伏せてこちらに返してきたが、青木がスリーカード、対する挑戦者の赤井は最初からフルハウスが揃っていた。


「あの青木が!?」

「マジかよ……」


 周囲はざわつき、勝負の行方を見届けようとテーブルの周辺のいい位置を陣取ろうと我先に集まり出す。


「どうだ? これだけのギャラリーが俺たちの勝負に興味をしてしてくれているぞ」

「ふふっ、悪くない。それでは次のゲームとしよう」


 ギャラリーは二人の会話を聞いて赤井の正体について様々な憶測を立て始めた。因縁の対決だの青木の相棒だの、しまいには生き別れの兄弟だの言い出す始末で俺はポーカーフェイスを維持できず吹き出してしまった。


「おい、ディーラー! 汚ねーぞ!」

「ちゃんとやれー!」


 うっせーよ。と心の中で思いながらもゲームを進めた。赤井は魅せる。フォーカードなどの役をそれなりの頻度で作っていくのだ。しかし、それができるたびに青木は降りる。結果は青木の圧勝で終わった。


「なぁ、あんた、


 勝負が終わった後、赤井は青木ではなくテーブルの向こうにいる俺に話しかけてきた。


「さて、なんのことでしょうか」

「とぼける必要はないさ。俺たちの勝負は盛り上がっただろ? 


 ッチ。俺は舌打ちをしたが、赤井はどこ吹く風で飄々と話を続ける。


「だが、こんなところで少ない手数料を得るために使っているのはもったいないと思ったわけだ。どうだい? 俺たちと世界を回らないか?」

「もし断ったら?」

「断らねーよ。盛り上げるのが好きってのが伝わってきたぜ? 俺に配られたカードからよ」


 ……そうか。俺は熱い勝負が見たいのか。そして、でっかい舞台でこっそりとイカサマをして盛り上げて演出して、してやったり。とかやってみたいのかもな。


「わかった。俺もあんたたちの仲間に入れてくれ」

「青木を勝たせてくれていたんだ。たんまり前払いは受け取ってるのに断るやつはいねーよ。オレも青木も、あんたがイカサマしてたのは秘密にして忘れてやる。それが仲間としての礼儀ってもんだ」


 赤井は笑ってジャンという音を出して硬貨がたんまり詰まった袋を俺の目の前に置いた。


「じゃあ、これから飲みにいこうぜ! 三人で」


 月明りは雲に遮られ、地下から出てもまだ薄暗い夜道を男たちが歩く。数日後、天才ギャンブラーと馴染みのディーラーが消えたと騒がれ、グルでのイカサマを疑われたが証拠は見つからなかった。秘密は闇の中へと消えていき、雲が晴れる頃には彼らは光の世界で賭博を始めていた。


 ― 完 ―

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雲、【秘密】 たっきゅん @takkyun

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