第36話 暗黒の心臓
べゼロ山は、セレスたちの住んでいたゴド村からなら比較的なだらかで登りやすい。しかしラーヴァントのほうから行こうとするとかなり急な道を強いられる。といってもセレスたちは空を飛ぶことができるチャロのおかげで今回はその道を通る必要はないのだが、
「そういえばチャロはティキの事冷たくないの?」
「いや、ひんやりするよ。今どのあたりにいるのかティキだけなんとなくわかるもの」
「やっぱり溶けないんだな、ティキ。ラーヴァントを抜けても大丈夫だったし」
「ティキは溶けないよ!」
「お前のその能力も興味深いな、打撃や魔法を跳ね返す力というのは、使い方によってはさらに役立つ方法があるかもしれない」
「まあ、そんな機会がなく終わるのが一番いいんだけどね」魔王を倒すためのカギとなる魔剣ルクシスを手に入れたセレスたちはついに魔王の封印されているというグィラベゼロ大修道院へとやってきた。しかし降り立つにあたって一つの問題が、
「そうだ、チャロは大きいから一緒に言ったらまずいかも」いきなり成体の竜がやってきたら修道院のものにも警戒されてしまう。
「それじゃあ僕はここで待ってるよ。ちゃっちゃととどめを刺しちゃってね」べゼロ山の森の中でチャロには待ってもらい、ここからはチャロを抜いた者たちで修道院を目指すことにした。
マップルを売りに行ってから久しぶりにやってきたグィラベゼロ大修道院。その日も別に何か違うというわけではなく礼拝などにやってきた者たちで賑わっていた。
「さてと、着いた着いたけど、ここから院長殿を見つけるのか?どうすればいいんだよ」
「確かに、魔王を倒しに来ました。なんて言っても信じてもらえない、というか逆に怪しまれそうだものね」
「とにかく一度礼拝堂へと向かってみよう。ここで考えていても始まらない」
「そうだね、行ってみよう」セレスたちはフーガンを探しに大修道院の礼拝堂へとやってきた。礼拝堂は常時開設されており、人々も多く訪れる。見つけることは困難かと思われていたが、
「おや、あなたは少し前に出会った」なんとむこうの方から声をかけてきた。
「フーガンさん!」
「いやはやお久しぶりですね。今日は旅のお仲間さんも一緒なようで」
挨拶もほどほどにシアンが本題に切り込む。
「少しばかり話したいことがある。私はラーヴァントの守護獣に仕える一族の者、シアンだ」そういうとフーガンは
「ほほう、ルナフェンリルに仕えるものですか。あなたはこちらに。ほかの皆さんは少しの間大修道院でお待ちください」シアンはフーガンに連れられて礼拝堂の奥の部屋へと入っていった。
「さて、シアンさんでしたね。本日はどういったご用件で?」
「この修道院に眠る魔王ガレニア奴にとどめを刺すためにやってきた」
「まさか、魔剣ルクシスが見つかったというのですか?」
「そうだ。魔王の封印へと至る場所はここでも限られたものしか知らんだろう」
「では、セレスさん含めたほかの方々は」
「それぞれの街で守護獣から力を受け継いだ者たちだ」
「わかりました。準備が出来次第ご案内しますので皆さんにそうお伝えください」
「噓をついているとは思わないのか?」
「まさか、月の街の守護獣に仕えるものには共通して紋章が与えられる。あなたの首飾りがそうですね」
「流石に知っていたか」
「それではまたこちらで」
シアンがいない間、セレスたちは大修道院を周っていた。
「ここでルリナとシアンにあったんだ。ルリナは今みたいにきれいだなって思ったけど、シアンはその時なんだか不思議な感じで」
「そこで会った奴らが今じゃ一緒に旅してきた仲間ってわけか。やれやれ人生ってわからないもんだな」マップルを売っていた辺りでずいぶん昔の事のように思い出話をしていたセレスたちのもとにシアンがやってきた。
「話は終わった。いよいよ案内してくれるそうだ」仲間たちにも緊張が走る。ついに魔王を倒すところまでやってきたのだ。
「いよいよだね」
「奴らの動きが激しくならないうちにとどめを刺さなければ、準備ができたら出発しよう」セレスたちは覚悟を決めてフーガンのもとへと向かった。シアンが話したところで待っていたフーガンに会うと
「さあさあ皆さんこちらです」何でもないような部屋の本棚に魔力をかけると棚が横へと滑り、まだ見ぬ通路が現れた。地下へと続いていく階段を少しずつ降りていく。もうどれくらい降りたかもわからないほど降りてきたころ、フーガンの持っていたランプが会談の終わりの部分を照らした。どうやら着いたようだ。そこから奥へと少し進んでいった先の光景にセレスたちは息をのんだ。
「なに、これ、、」おぞましい拍動をする黒い物体。ランプで照らされてよりわかる周りの暗闇すら超えるほどの黒い何かがそこにはあった。
「これが魔王ガレニアの心臓とも言えるもの。これに守護獣の力を与えながら魔剣ルクシスで切り裂けば魔王を倒しきれるはずです」
「しゅごじゅうの力もひつようなの?」
「抑え込む力は強い方がいい。万が一を考えるべきだと思いましてね」
そうしてジークたちが言われた位置につき、力を放ち始めた。そしてセレスがルクシスで黒い塊にとどめを刺そうとしたその時、
「まて!」セレスたちの背後に強い光とともに何者かが現れた。強い光に目が慣れ、ようやくその人物が明らかになる。
「フ、フーガンさん!?」光の先にいたのはもう一人のフーガンであった。
「どういうことだ、どっちが本物なんだ?」戸惑うジークに対して現れたフーガンはここにいる者たちに語り始める。
「そいつの正体は魔王の手下だ。私がラーヴァントに言った隙をついて、よくもまあ小癪なことをしてくれたものだ」セレスたちを連れてきたフーガンも呆れたように
「なにを証拠にそんなことを、お前の方こそここが開いた隙をついて入ってきたのではないか?」
「どこまでも生意気だな。お前は本来“こちら側”であったはずなんだがなガリウスよ」
「ガリウス⁉」その言葉を聞いてシアンは凍り付いた。ジークの方もなんだか苦しそうにしている。
「ルナフェンリルに仕える一族には証となる紋章がある。彼の持つ首飾りはその代の者の証、そしておまえにもあるはずだ。言い伝えによれば首筋にな!」そういうとフーガンは光の魔法を放った。
「くっ」魔法によって燃えてしまった首元を隠していた部分からシアンのものと同じ紋章が現れた。
「獣人でありながら秘術によって500年もの間生き延びてきた化け物め!ここで恥ずべき新たな主人とともに死ぬがいい!」フーガンがそう言うとセレスたちを連れてきた方のフーガンは歪んだ笑顔を見せた。口元がどんどん避けていき、耳も生え、まるで別者になっていく。
「君たちも離れるんだ!」フーガンが言う。セレスは逃げることができたものの
「うぅっ体が」
「動かねーだと!」
「俺としたことが、くっそぉ!」4人を縛り上げているのは今までも見てきた暗黒の呪いの力だった。あまりの不意打ち、更にはその正体も衝撃の者だったため、シアンですら対応が遅れてしまったのだ。老いさらばえた人狼は笑いながら叫ぶ。
「ちっ、ルクシスを手に入れたガキごと、この中で爆破してやろうと思ったのによお。けどいいぜ?愛する我が孫の成長を見れたし、案の定残りの守護獣の力も手に入れることができた。いよいよ来るんだよ!我が主である魔王ガレニア様の支配する世界がなぁ!」そう言うと呪いによってジークたちから力が奪われていく。
「やめろ!」フーガンが止めようとするが時すでに遅し。暗黒の呪いをつながれた魔王の心臓が先ほどよりも激しく動き始める。
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