第35話 魔剣と夜を連れて
魔剣ルクシスを手に入れこそしたセレスだが、いざ手に入ってみると一つの大きな不安が生まれた。
(どうしよう、私剣なんて使えない)セレスはこれまでに剣なんて持ったこともないのだ。当然振るえるのかもわからない。だがそんなことはお構いなしでセグノの攻撃が襲い掛かる。
「えい!」反射的に振り回すセレス。ルクシスは闇魔法を見事に切り払った。思えば剣だというのにまるで杖を持っているように軽い。それだけじゃない。剣がやるべきことを教えてくれるような。剣の振り方を知らぬセレスでも戦えるようにできている。魔法攻撃が無理ならば近接攻撃である。剣だけでは防御できない。ピンチのセレスを救い出したのは成体となったチャロだ。成長したことによってチャロも炎だけでなく魔法を使うことができるようになった。光の魔力でできた球体がセグノとぶつかり合う。土煙が上がった後、現れたセグノ。
「これまでに出会った守護獣たちの力がチャロはもちろんルクシスの方にも伝わっているようだな」そういうとセグノは攻撃の手を止めた。
「ルクシスの力があれば魔王にとどめを刺せる。500年前には能わなかったことがついに叶う」
「どうしてルクシスがチャロの中にあると?」
「すぐには気づかなかった。竜の潜在能力にしてはいささか強すぎると思っていたが、彼らがこうして君のために魔剣を託したのなら。これだけの力を持つのも計算のうちだったのかもしれないな」試練が終わったと判断した深林の主が森にかけた力をすべて解除し、セレスたちはようやく一堂に会することができた。
「みんなは試練が終わってたんだ!」
「あぁ、チャロがやられてた時はひやひやしたぜ、だがそれ以上に」
「私たちセレスが500年前の人間だって言われたの。でもまさかそれが本当だったとは」ジーク達には話していなかったことが此処で明らかになった。まあどの道チャロにルクシスが眠っていたのなら、遅かれ早かれ説明をしなければならなくなっていただろうか。
「ごめんね、少し前から知ってはいたんだけどみんなに話したら混乱させちゃうかなって」
「そんなこと心配するなって!わしだって250年生きてる!人間の尺度からすればこれだって立派なタイムスリップだろ?」ジークは事実には驚いたものの、何だか親近感がわいたようで嬉しそうだった。実際にセレスが生きているのは500年前の数年と現代での10年ほどしか生きていないのだが、
「そんなすごい秘密があったのね。けど今まで一緒に旅してきた事実は変わらないもの。セレスもチャロも私にとって大切な仲間よ」
「チャロすごいなー、ティキもあんな風に大きくなりたいよ」ティキはやっぱりチャロの方に興味津々だ。セレスとチャロは今なら話せるかもしれないと、ミナモに話されたことや自分の使命を改めて語った。
「...だから私は戦いたい!お父さんとお母さんができなかったことを、二人の無念を晴らすためにも」仲間たちはそれでもかなり驚いた様子だったが、むしろ今までの事と照らし合わせてセレスとチャロが魔王に立ち向かおうとしていることについて深く理解してくれた。セレスたちは深林の主と別れてから、セグノの神殿でこれからの旅についての相談をした。
「これで魔王に対しての準備はできたな。どころか、魔王を倒せる魔剣ルクシスも手に入った」
「今のところ魔王は復活していないのかしら?」
「ラーヴァントでは確かに魔王との関連を持つ魔物の大量発生が起きた。しかしだからといって魔王が復活したという知らせはないな」
「まず第一に魔王ガレニアはレンビエナの中央、グィラベゼロ大修道院の地下に封印されている。その通路は修道院でも限られたものしか知らないだろうがな」
「じゃあ、だれが知ってるのかわからないってこと?」
「修道院の院長であれば、引継ぎに関して話ぐらいは聞いているだろう。何も知らずに封印が解いては目も当てられなくなる」
「フーガンさん」
「セレス知ってるの?」
「うん、チャロが悪い人に捕まった時に助けてもらった人なんだ」
「それじゃ復活されないうちに魔王さんにとどめを刺しに行きますか!」
「ねぇ、ファイナのお父さんは?」ティキが心配そうに言った。
「アルカージさん、どこにいるんだろう?まさか修道院にいるとか?」
「いたとして、どうすれば魔王からアルカージさんを助けられるんだろう」チャロが今までよりも高い位置から話に入ってくる。成長したことで多少声も低くなり、何より声の位置が違うので一瞬どこにいるのかわからなくなる。
「そのものは君たちの言う暗黒の呪いの影響を受けているのか?」
「はい、ベイアオさんのところで使っていました」
「でもベイアオさんに吹き飛ばされていたよね」
「人間にはとても使うことができぬ力だ。わずかでも使えるということはかなりの才能があるのだろう」
「アルカージさん、」
「だが、その隙に暗黒の呪いから解き放ってやれば助かるやもしれん。守護獣の力を解き放てば、多少抗戦することはできるからな」リジーも防戦一方とはいえ、攻撃を防いでいたし、ベイアオは弾き飛ばしていた。まだ希望を捨てることはなさそうだ。
「けどまずは魔王にとどめを刺すことだな。魔王さえ倒せばその力も止まるかもしれない」ジークの話にティキもひとまずは納得したようだ。
「べゼロ山なら任せて!僕に乗ればひとっ飛びだよ!」大きくなったことを得意げに話すチャロ、よほど大きくなれたことがうれしいらしい。話も決まったところでセレスたちが街に戻って支度をしようとしたとき
「待ってくれ、君たちにシアンを同行させてくれないか?ラーヴァントの代表として、不測の事態には力になるはずだ」
「こちらとしてはいいけど、シアンは大丈夫?」
「俺もかまわない。お前たちさえよければ俺もお前たちの力になりたい」
「みんなはどうかな」街の前で出会ったときから決して相いれないかと思っていたが、ジークとルリナはここまでの襲撃での共闘を経てもう問題ないと判断したようだ。さてシアンに対して一番敵意をむき出していたであろうチャロだが、
「ふーん、来るのはいいんじゃない?本当に悪い奴じゃないからね。だけど、セレスに対してあんなことしたのはまだ許してないよ」
「そうだったな。言われてから謝るというのも失礼だが、少しでも思いが伝わるのなら。セレス、出会った時の非礼を改めて詫びさせてほしい。話を聞かずに攻撃を仕掛けたこと。本当にすまなかった」
「もう大丈夫だよ!チャロもいいでしょ?」
「うん、」
「未来を見通す俺の力、皆のために使おう。短い間になるだろうがよろしく頼む」シアンを仲間に入れたセレスたちはセグノにこれまでの礼を言い、ついに魔王との500年にも及ぶ因縁へと決着をつけるため、グィラベゼロ大修道院へと向かうのであった。
ラーヴァントまでの帰り道、話はシアンの持っている能力についての事になった。
「数秒先の未来を予測できる力!?そんなことができたの?」
「あぁ、もっとも見える時間はまちまちだし連発も不可能だから何度も使って遠い未来まで予測し続けるなんてことはできないがな」
「ティキのちからみたいに名前はないの?」
「そういえばそうだな。ここは単純に未来予知とかでいいんじゃないか?」ジークが提案すると
「いや、この能力の名前なら俺が決めてある。夜が来る。通称<ナイトバイト>だ」突然ものすごい名前を突き出された一同は何と言ったらいいのか分からずその後自然とほかの話題に変わっていた。
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