第34話 絆が放つ光

 劣勢に立たされる中、それでもセレスとチャロは必死の戦いを見せた。守護獣としての力はやはり圧倒的で、ここまでの中で成長してきた二人も歯が立たない。今までどれだけ仲間たちに支えられてきたのかを痛感させられる。だがそれもここまでか。しびれを切らしたようにセグノが闇の魔力を解き放ち、セレスに襲い掛かる。

「セレス危ない!」チャロが気づいてセレスをその場から押し出した。小さなその体で。だがそれではチャロが避けることができない。そのままチャロはセグノの一撃をもろに食らってしまった。セレスなら魔法で多少はダメージを防げただろうに、だがチャロはそうせざるを得なかった。もしこれを敵に利用されてしまえば、間違いなく弱点になるだろう。それでもあの日、マップルを売りに行ったあの日に自分の不手際でセレスも危険な目に合わせた、(この際自分の方が危険だったのは今のチャロには問題外らしい)もうセレスを危険な目に合わせない。セレスは自分が守るんだ。そんな思いがチャロを動かした。

「チャロ!」急いで駆け寄るセレス。試練であることをセグノもしっかりと覚えているようだが、にしてもかなりの威力。この戦いにおいて食らってはいけないはずの攻撃を食らったペナルティだろう。だが試練は終わらない。一難去ることすらできずまた次の一難が訪れる。今度こそセレスにセグノの攻撃が向かおうとしていた。

 打って変わってルリナ達は深林の主との戦いにいまだ活路を見いだせずにいた。一度とはいえ、守護獣の力を発動させられていたジークとは異なり、ルリナは自分の持っている能力が一体どんな作用を引き起こすのかまるで予想できない。守護獣としての格がある以上、ツリーアルラウネとしてなら深林の主を凌駕する力なのだろうが、あいにくルリナは力を授かっただけに過ぎない。ある意味で力が使いこなせるようにさえなればこの森へのパワーバランスが変わってそのまま押し切れるかもしれない。そもそもリジーの使っていた能力はいったいどんなものだったか、

(シャミアと戦った時、リジー様は木の根を使って壁を生み出していた。やっぱり木々を操る力が能力のカギ?)

ルリナが考えていると深林の主は再び森を利用して攻撃してきた。ルリナもプラントで反撃する。木の根と木の根がぶつかり合う。その時ルリナの心の中に声が響いてきた。わずかではあるが聞き覚えのあるその声は深林の主のものだった。

(ただ木を使おうとするな。森の呼吸、ひいては大地の鼓動に耳を傾けるのだ。大地とともにあれ。さすれば森はお前にも力を貸すだろう)

大地とともにあれとは中々どうして思いつかなかったものだ。これまでルリナが使ってきたものはあくまで魔法としての植物だ。実際の植物とは似て非なるもの。なんでもないところから木の根だけ生えてくるのだ。だが深林の主の力は違う。確かに木属性の魔力ではあるものの明らかに実際の植物を操っている。いつかウィルが言っていたような気がする。生物の根源についての話。生き物はそれぞれエネルギーを持っている。それは代謝だとかそういう問題ではなくて、生命そのものという漠然としたもの、命の定義といった哲学を放り出してしまうようなもの、それが生命エネルギー。もしかすると木属性の魔力とはこの生命エネルギーを司る力のことを指しているのだろうか。多くの点について奇抜だが、なんとなく説得力を持っていた。その中で唯一わからなかった理論だったのだ。しかし、今自分が置かれた状況から考えれば疑う余地もない。まさに森が生きている、といったところか。

「森の呼吸、大地の鼓動に耳を傾ける、ね」今までのルリナならわからなかっただろう言葉が今ならわかる気がする。意識を集中させ、ある種の瞑想状態へと入る。ルリナの心の中に一縷の光が見えたその瞬間、自分の思いを込めて力を解き放つ。手を地面につける。次の瞬間、周りの草木が動き出す。ルリナを中心として円状に展開するその空間は深林の主の力とぶつかり合い、そして打ち勝った。咄嗟に木々の根が深林の主に襲い掛かる。いつの間にか辺りの森は開け、ジークとシアンが見えた。

「ルリナ!もうだいじょうぶ!」ティキの声でルリナの方も気が付いた。すぐに深林の主への拘束を解除する。

「ご、ごめんなさい」

「いやよい、それこそが覚醒した力だ。彼らはお前の思いに呼応し、攻防一体の要塞にもなりうるだろう。その力うまく使うのだぞ」

「はい!」ルリナは明るく返事をした。しかし、ティキの方は

「ねえねえ、ティキは?ティキはなにかできたの?」すると深林の主は

「ん?お前の力はすでに目覚めているが、」

「えぇ!?」

「あの魔氷鏡じゃないの?」

「そ、そうなのか」新しい力をもらえずしょんぼりした様子のティキ。そこにジークたちも合流した。

「二人も何とかなったんだな!」

「えぇ、だけどセレスは?まだ森の道が開けない、」

「恐らく試練が終わっていないのだろう。セレスの様子はどうでしょうか?」シアンが深林の主に聞く。深林の主はゆっくりと話した。

「小さい竜の方が攻撃を食らったようだな」

「チャロが⁉」

「大丈夫さ。だって試練だろ?セグノ様だって本気じゃやらないって」ジークが楽観視するが、事態はそんなに簡単ではなさそうだ。

「うむ、あの様子だとは庇うべきでないものをわざわざ庇いに行ったな」

「それって、どういうこと?」ティキが恐る恐る聞く。

「状況によってはかなりの深手になっているぞ」

「...おいおいまずいじゃないか、」

「た、助けに行かないと!」無理やりにでも行こうとするルリナ。しかし

「やめろ!これは試練なんだ!お前たちの時と同様、邪魔をすることはならない!」シアンがそれを止める。

「だけど!」

「セグノのやることだ。行っていた通りこれも想定済みのはず。窮地からの脱出することこそ、その者をもっとも成長させる。今は見守っているしかない」深林の主もそういった。ジークたちは森からセレスたちの様子を見ていた。

 気づけばセレスがチャロとセグノの間に入っていた。チャロが相性の悪い攻撃を受けてこんなことになったのに、これじゃ二の舞だ。でもそれでいいんだ。今まではチャロが守ってくれることに甘えていた。チャロがこれまで守ろうとしてくれた分、今度は自分が守るんだ!急造でお粗末な魔法障壁とともにセグノの攻撃が命中しそうになったその時、

「セ、セレス!」チャロの体から光があふれだした。

「ぬう!」強烈な光にとっさに離れるセグノ。

純白の光はチャロの体から分離し、次第に形を変えていく。と同時にチャロの体も見る見るうちに大きくなり、一瞬のうちに立派なドラゴンの成体の姿になった。

「チャロが!」

「でかくなりやがったぞ!」

「チャロすっごーい!」三人がチャロの変身を見る中、シアンと深林の主はチャロから分離した光の方を見て驚いた。

「!あれはまさか!!」

「魔剣ルクシス!まさかあの竜の中に眠っていたというのか⁉」二人の言う通り光はいつしか剣の姿をとり、セレスの手中にやってきた。

「それだ!それこそが真の魔剣ルクシス!魔王を打ち倒す切り札!」セグノが狙い通りといわんばかりに叫ぶ。

「これが、魔剣ルクシス。お父さんとお母さんが私に託してくれたもの、」驚きで少し呆然としているセレスにチャロがいつもの要領でとびかかる、が流石にサイズが違いすぎてよけられてしまった。

「剣は遂に解き放たれた、さぁそれを私との戦いで使いこなして見せろ!」改めて戦闘態勢に入るセグノ、最後の試練が今始まる。

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