第33話 風の鎖

 それぞれの試練によって森がざわめく。セレスたちのいる神殿からもそのざわめきが分かった。

「もう他は始まったのか」

「あの、私たちにはどんな試練が?」

「君たちの試練の相手は私だ」

「そ、そんな」

「君たちに秘められた力はほかの物とは比べ物にならない。セレスはもちろんのことチャロ、君にもそれは当てはまるのだ」

「僕も⁉」

「あぁ、準備ができたらどこからでもかかってこい」セグノにそう言われた二人は攻撃の構えを見せ、魔法と炎でセグノに攻めかかった。しかし身軽なセグノには攻撃が届かない。そもそも二人の戦闘スタイルとセグノとでは相性が悪すぎる。今まで前衛を張ってくれていたジークはもちろん、プラントなどで足止めしてくれていたルリナもいない。それでも何とかして突破口を見出さなくては。

 試練の突破口についに手が届いたジーク。だがそれはあまりにも狭き門だった。未来を見ることができるというシアンの能力。発動してからしばらくは使えないものの、逆に見えてしまえばこれからやって来る攻撃を完璧に捌くポテンシャルさえあれば自分のペースに持ち込める能力なのだ。勝つためには能力の範囲の時間以外で攻撃をしていかなければならない。ここまでは分かった。シアンの能力が分かったことで相手の方も何か戦略を変えてくるかもしれない。どこで奴が能力を使っているのか分かれば。そんな時、シアンの方が攻めてきた。これまでシアンの方から攻撃を仕掛けてきた際には一撃は軽いものの隙がなく、反撃をされないような動きだったのに対して今回は一撃一撃に重きを置いて食らえば確実にこちらの戦力を削げるような戦い方に変わった。これまでは未来を見る能力で攻撃と防御のペースを自分のものにできた。ダメージは受けないことをいいことに敵がスタミナ切れするのを狙う戦法だったのだろう。隙が生まれるのを待つのではなく、隙を生み出すような動きだ。当然シアンの方にも隙は生まれるのだが現状いなすのが精いっぱいでとても反撃することができない。能力に気づいたときはその能力に気づくこともまた試練の一環だったために攻撃が届いただろうが、これは再び動きに慣れていくところからやらなければならないだろう。

 ルリナ達は現れた深林の主の異様な力に攻めかねていた。というのもセレスたちと同様に彼女も相手との相性が悪い。木属性のプラントは深林の主にはまるで効果がない。そりゃあ森そのものに木の根で対抗なんてできないだろう。ルリナの雷魔法も木属性にはあまり効果がないようにも見える。

「ティキ!あなたの魔法ならどう?」

「やってみるよ!」ティキのスノーが命中したことで動きを一時的に動きを止めることができた。しかし、雪の下から植物たちが力強く芽吹くように凍っていた箇所もすぐさま溶かされ氷を打ち砕かれる。生まれて間もないティキだけでは力が足りないのかもしれない。さすがに試練である以上、今までの能力で戦っていては歯が立たない。何か新しい方法を手に入れなければ。

(木の力を司っているのはリジー様だけではないのね)能力には違いがあれど、属性の力を使いこなせる存在はあらゆる場所にいるようだ。リジーの力であれば、深林の主への有効打にはならなくてもこの状況を打開することにはなるかもしれなかった。

ジークが守護獣の力を使ったのは、ファードゥラと戦った時、みんなを守りたいという強い思いがあったからだ。ルリナもそんな状態になれば力が使えるのだろうか?だがそんな窮地を待っていては戦いがどんどん後手に回ってしまう。力が使えても間に合わなければ意味がないのだ。何かほかに策はないだろうか。と、周りの木々が動き始める。深林の主の角の部分に力が集まっていく。2本の角は一つの巨大な大樹となった。これはよけなければならない。

「ティキ避けて!」

「だいじょうぶだよ。ティキならはじきかえせる!」

「何言ってるの⁉あんなもの食らったらただじゃすまないわよ!」ルリナはいてもたってもいられずプラントでティキを攻撃の場所からそらした。深林の主の方は依然として悠然とした立ち振る舞い。試練を超えるのは一筋縄ではいかなそうだ。

 シアンの攻撃にも徐々に慣れ始め、相手のタイミングからずらした攻めもできるようになってきたジーク。もともとこれまで何度も戦ってきた仲だ。能力が分かれば応戦もできる。だが突然、守りに入っているだろうところでシアンが攻撃を仕掛けてくる。能力がわかり、そこからの戦闘も順調に進んでいたせいで柔軟な対応を完全に忘れていた。能力を知る前、知った後で能力者本人の動きは変わらない。能力に気づいた方が考えるべきことが増えるだけである。この場合使うか使わないかが直接攻撃に結び付くわけではないが、ここから先の未来が見られているのかもしれないという疑惑がジークの攻撃判断を鈍らせる。攻撃をしなければしないでシアンの猛攻から逃れられない。今までの戦いでは多少なりともこちらのプランが戦闘に組み込まれていた。だが今はシアンのペースだけの状態に逆戻り。

(どうにかしてあいつの動きを止めないと!)魔法を打ち込みはするがやすやすと躱されていく。剣による物理攻撃なんてそもそもかすりもしない。とにもかくにも攻撃が命中しないのだ。

「お前にはあるはずだ。守護獣から受け継いだ力が!この試練はいわばそれを手に入れるためのもの。それを完全に体得しなければお前はこの試練を突破できない!」

ケイルス様からもらった力、あの日セレスたちと戦って得た力。限られたときにしか使えなかったが、今はもう使うしかない。ジークは魔力と思いを強く込めてそれを天へと掲げる。そして今度はそれを地面につけた。森の木々が呻き始める。凄まじい風の魔力は気圧にまで影響を与える。そしてそれはシアンの動きをも抑え込んだ。当然ながら本来気圧自体には生物の体を拘束するようなことはできない。というか生物がそんなに軟じゃない。だが魔法を伴えば話は別だ。あたりを自由に吹き抜ける風が

いざとなれば動きを封じる鎖となる。動きを封じた状態でシアンに詰め寄るジーク。そしてその剣がシアンを襲う、その瞬間でジークは剣を止めた。

「これで十分か?」

「...あぁ、あれは紛れもなく守護獣の力だ。あれだけの力を俺ほどの大きさのものに使えるほどなら、きっと問題ないだろう」そう言われてジークも一息つく。

「だが、実戦ではどうなるかわからん、万一に備えて力を鍛えるんだな」

「もちろん!、でこれどうやったら神殿に行けるんだ?」

「この森は今、セグノ様の仲間である深林の主殿の力によって支配されている。彼はルリナとティキの試練を見てくださっている。それが終わらねば、俺も神殿にいけない」

「え?じゃあセレスとチャロは誰が試練を?」

「二人の試練はセグノ様が直々に行っている」それを聞いて驚くジーク

「本気か⁉見た感じだと相性最悪だぞ?試練どころじゃないんじゃ」深林の主の事を知らないジークには心配事はセレスたちだ。

「無理もない。だがセレス達にはこれだけの試練が必要なのだ」

「そりゃまたどうして」シアンは少しの沈黙の後

「セレスたちはこの時代ではない、恐らく魔王が封印された時代の人間だ」

「まさか!500年前だぞ!」

「俺もまだうかつには信じられない。だがセグノ様はこの試練が終わればその説明がつく、と言っていた」

 ジークたちが試練を終えたころセレスたちはセグノとの戦いでかなりの劣勢に立たされていた。

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