第32話 試練開始

 「魔物の大量発生による襲撃は失敗に終わりました。やはり低級の魔物にあれだけの力を与えては本体が持ちません」ラーヴァントの一件を不気味な手に報告する部下。ここまでの街に関しては五分五分の状況であったが今回に関しては街に与えたダメージ、及び守護獣の魔力の奪取双方において成果が出ず完敗となった。

「最終的にはネラーボ達の時と同様魔獣の生成には成功しましたが、やはり生まれたばかりでは戦力不足。ならば隙をついて今からでも守護獣を襲撃すべきかと、」

「焦るな。ここまでは想定済みだ。もとよりあいつは一つの家系に力を与えている。これまでのやつらのように十分な魔力を得ることはもとよりできなかったのだ」

「では、なぜ」

「私の復活への近道を作る。これが目的だ。君に与えた任務もそれが目的だった。どうしてかしくじったようだがね」

「あの時は、力が不十分で、」

「私が力を与えなければ十分に役目を果たせないというのか?」

「いえそのようなことは!」

「お前は私に恩があるはずだそれを忘れるな。もうすぐだ、いよいよお前の番が来た。今度は決してしくじるな」

「ははっ」

 大量発生を退けたセレスたちは神殿へ向かう前にラーヴァントの店で朝食をとっていた。この前はティキだけ一緒にいられなかったため、みんなで食卓を囲もうということになったのである。

「ティキは何を頼む?」

「ティキはジュースでいいよ!」

「こっそりスープを飲ませたらその雪の体溶けたりしないのか?」

「む!そんなひどいこと言わないでよ!」結局ティキはマップルのジュースを頼んだ。飲んだとたんティキの体が内側から少しずつジュースの色に変化した。とはいえ、純白の雪の体が変化したくらいだが、

「そういえば、魔王様たちはこれから何を仕掛けてくるのかね?」

「手詰まりってことはないんじゃないかな、だからこそ早めにとどめを刺さなくちゃ」セレスにとっては両親を殺した相手だ。魔王を倒せるのも自分しかいないなら、自分の手で倒すしかない。それこそ自分がこの時代に送られた理由なのだから。

「今日からのセグノ様との特訓で力をつけなくちゃ、何匹もあんな魔獣を出されたら持ちこたえることもできないし、」

「だな。何をしてきてもいいようにするのが大切ってわけか」セレスたちは食事を済ませ、いよいよセグノの待つ神殿へと向かうことにした。

 神殿に向かう道中、ルリナがふとあることに気づいた。

「あれ、ジークは?」あたりを見ても彼の姿がない。迷ってしまったのだろうか?いやいやこの道は今まで通ってきた道だ。それにみんなで行動していて一人だけいなくなるというのもおかしい。

「一度来た道を戻ってみる?」

「ええ、それがいいわね」セレスたちはジークを探すため、ここまでの道を戻って探すことにした。しかし、

「セレス!ティキとルリナもいない!」今度は二人がいなくなってしまったのだ。

「もしかして魔王の手下が?」

「一度セグノ様のところに行こう!」

「チャロこっち!私から離れないで!」セレスはチャロをぎゅっと抱きしめてそのままひたすらに走るのだった。森を抜けるとそこは街ではなくセグノのいる神殿だった。そして神殿の外で二人を待っていたようにセグノがいる。

「ごめんなさいセグノ様!私とチャロ以外がどこかに消えてしまって」

「心配ない。それは私が指示したことなのだ」

「え?」衝撃の一言に聞き返す2人。セグノは続ける。

「昨日も言った通り魔王に立ち向かうにはまだまだ力が足りない。そこで君たちには私の方から試練を出すといった」

「はい。覚えています」

「君たちは個々の実力のほかに連携によって幅広い戦術ができている。試練の際に周りと連携することだけ狙っていては、効果的な成長は望めない。そこで最低限の人員に君たちを割くことで多様な連携ができない環境を作り出し、より実力を高める試練になるようにしたのだ」

「それじゃあ」

「今ごろ彼らも試練の場所へと案内されたころだろう」

 「...というわけだ」シアンがジークに説明していた。

「なるほどね。しかしわしが気づいたら一人でこんなところにいるとは、不思議な力もあったものだ」

「セグノ様に協力してくださる魔物がいてな。その力だという」

「それで、わしの相手はシアンか、」

「不満か?」

「いいや、この前のようにはいかないぜ!」話すよりも戦った方が早いと踏んだようだ。ジークとシアンが己の力をかけて再びぶつかり合う。その一方でルリナとティキの二人は森でセレスたちともはぐれ、どうすべきか悩んでいた。

(一度戻ってみた方が、いえそもそも私たちは街に戻っていたはず。そして私の距離感が狂っていなければこれだけ歩けばもう街につく。なのに以前森の中、この森で何かが起きている?)

「ルリナ!むこうだ!もりのなかに何かいる!」ティキが叫んだ。ルリナもそちらを振り向くが、そこに見えるのは森の木だけ、のはずだ。しかし妙な違和感だ。視線を感じる。まるで木々に目がついているようなもう少しだけ注意深く見ると、視線を向けたものとルリナの目が合う。二人を見ていたのは森の木々ではない。森だ、森そのものが二人を見ているのだ。次の瞬間、目の前の木々が一斉に動き出す。いやもうこの表現は適切ではないだろう。森の一部が四肢を得て動き出した。大樹が2本、角のように生えている。体は毛皮の代わりに背中は樹皮、腹部のあたりには木の根が下がっている。そして森の動物たち特有のこちらを見透かすような神々しく緊張感を放っている目。森そのものというにふさわしいその魔物は身構えるルリナ達に話しかけた。

「お前たちがセグノの言っていた希望と共に来たものか、」

「セグノさまを知ってるの?」

「あぁ、古くからこの地を守ってきた仲間だ」

「本当でしょうね。それならさっさとセグノ様のところへ通してくれる?急いでいるのだけど」

「それはできない。奴にお前たちの試練を任されている」

「試練を?じゃあ私たちはあなたを倒せばいいってこと?」

「簡単にはいかせんがな」そういうと魔物は低く鳴いた。途端に森の木々が動き出し二つの道ができる。片方の道の先にはジークとシアンが、もう片方にはセレスとチャロ、そしてセグノがいた。道を潜り抜けようとするが森は再び閉ざされてしまった。

「あなたが何者かはともかくとして、それがあなたの力ということはわかったわ。ティキ、2人でこの場を切り抜けるわよ!」

「うん!」

「我はこの深林の主。この力をもってお前たちを迎え撃つ!」

 ルリナとティキが深林の主と戦い始めたとき、ジークとシアンはすでに戦闘を始めていた。サイクロンなどを使って攻撃するがシアンはそれを最低限の被害に抑えて来る。かわし、いなし、ある時は周りの状況を生かして攻撃を防御する。接近して剣で攻撃するが、こちらはまるで命中しない。近接することはできても決められているように攻撃が当たらないのだ。このままでは埒が明かないと一度距離をとって考えるジーク。しかし、シアンもそのまま考えさせてくれはしない。魔法と格闘術、距離の弱点を補って戦う。シアンから逃れながら攻撃のヒントを探す。シアンは攻撃と防御のメリハリがはっきりしていてどちらか一つに専念した動きをする。

(前から敵の攻撃を回避する力があったが、まさか)思い立ったジークはシアンにとって防御のタイミングであろう時、剣や魔法で攻め、それが一通り終わってしばらく時間がたったところで一撃だけ攻撃をねじ込んだ。するとシアンは身をひるがえし、先ほどとは違い大きく距離をとった。そしてジークに語り掛ける。

「なにか、つかんだようだな」

「あぁ、お前には見えてるんだな。少し先の“未来”が」

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