第26話 月に迫る暗黒の影
月明かりの照らす森の中でセレスたちは、襲い掛かってきた魔物たちと戦闘していた。
「くそっ!ゴブリンにオークまで出てきやがった!」
「さっきから次々と出てきてきりがないわ!」
「セレス!危ない!」セレスが振り向くとゾンビの攻撃が襲い掛かる。
「行け!<バーン>!」光る竜の一撃がゾンビの体を貫く。しかし、代わりはいくらでもいる。一体一体に時間を割くことはできない。月の街、ラーヴァントへと向かう道中に遭遇した魔物の大量発生。もとより魔物の多い地域とは聞いていたが、整備されているはずの道にまで魔物が溢れているところを見るに何か異常なことが起きているのは確かなようだ。
「だめだ!みんな逃げるぞ!」ジークが撤退を指示する。ルリナがプラントで壁を作って大半の魔物を抑え込む。それを回避した魔物たちには
「こっちにくるなー!」ティキが使う氷の初期魔法、<スノウ>によって足を凍らせた。ここまでの道中も楽なものではなかった。メルキスを抜けた辺りから道の雰囲気が悪かった。最初は2,3体だったのが今やここまでの大軍勢。ティキも魔法が使えるようになるほどの戦いだったのだ。
「今だ!行くぞ!」こうしてセレスたちは危機的状況を切り抜け、わき目も振らず、街を目指したのであった。
ようやく街まで辿り着いたセレスたち。門をくぐればそこはもうラーヴァントだ。
しかし、
「うわ!」突然門の上から何者かが降ってきた。いやこの場合は襲ってきたというべきだろうか。セレスたちの前にオオカミ型の獣人が立ちふさがったのだ。
「な!街の前で堂々と待ち伏せかよ!」ジークが剣を構える。ほかの仲間たちも戦闘態勢だ。しかし、その獣人を見たセレスが仲間たちの前に立つ。
「ちょっと!何やってるのよセレス!こいつを庇うっていうの?」
「この人は魔物じゃない!獣人だよ!きっとこの街の人なんだ」セレスはそういうと獣人の方を振り向いた。しかし相手はそう思っていないようだ。獣人は腕を大きく振り上げるとその獰猛な爪でセレスを引き裂こうとする。
「やめろー!」チャロがそれを止めるために飛びつく。すると獣人はチャロを見るなり急に、
「グ、オオ、」とたじろぎ始め、ついには攻撃をやめてしまった。先ほどまで血走っていた眼は理性を取り戻したように輝き始める。そして獣人はセレスたちに、
「すまない。お前たちから守護獣たちの力を感じてな。魔王の手先と警戒してしまったのだ」
「な、なんだよ。急にしおらしくなりやがって!」
「勘違いも大概にしてほしいわ。初対面の人相手に殺意全開なんて、」
「それは、ここ最近の魔物の活発化でこちらも気が立っていたのだ。冷静でなかったのは確かだ。本当に済まない。しかしなぜお前たちから守護獣の力が、」
「その話はあとでいいかな。あなたが誰かは知らないけれど、とりあえず私たち街の中に入りたいんだけど」
「僕は許さないからな!セレスがせっかく話を聞こうと言っていたのにあんなことして!こんな奴と会うなんて最悪だよ!」チャロは先ほどの一件でかなりご立腹のようだ。とりあえずセレスたちは獣人に通してもらって宿を探し、今日泊まる分の宿をとった。メルキスの旅費が浮いたのは心底好都合だったとセレスたちは改めて思った。
宿を出ると先ほどの獣人がセレスたちを待っていた。
「お前たちのことを探しているお方がいる。こい」
「なああんた、さっきから物の言い方が悪くないか?わしも大概だが初対面で攻撃しようとしたのに随分と語気が強いと思うんだがね」
「まだお前たちのことを完全に信頼しているわけではないからだ」
「じゃあなんで急に攻撃をやめたのさ、僕を見るまで全員切り裂きそうな雰囲気だったくせに」チャロが突っ込んだ。
「お前はこいつらとは違う。ただ守護獣の力を持っているだけではないからだ。お前からは聖なる力を感じる。魔王のそれとは違う、な」
「僕はお前が魔王の手下なんじゃないかって疑ってるけどな」今のチャロには何を言っても無駄なようだ。
「私たちを探している人たちって?」
「会えばわかる。ついてこい」
「ちょっと待ちなさいよ。あなた名前は?まず名乗るのが道理でしょ?」獣人はしばらく考えたのち、
「俺の名はシアン。月の街の守護獣、ルナフェンリルに仕えるものだ」
「なっ!」
「ルナフェンリルですって?」
「本当なの?」
「お前たちに噓などついてどうする。さあ、これでいいか?わかったらついてきてくれ」ルナフェンリルに仕えているという獣人シアンに連れられてセレスたちは月の街のさらに奥へと進んで行った。
「なあ、シアンさんよ。どうしてラーヴァントはずっと月が出ているんだ?」目的地に向かう道中、ジークがシアンに話しかけた。チャロは相変わらずだが、もし本当に守護獣の関係者なら少しでも距離を縮めておく必要があったからだ。あとはまあ、この窮屈な空気感が嫌だったというのもあるが、
「ラーヴァントに浮かんでいるあれは、厳密には月ではない。この地を覆う魔力がそうさせているのだ。実際は月の街というよりも闇の街、とでもいうべきだろうな」
「案外冷静なのね。自分の街のことをそんな風に言うなんて」
「事実だからな。魔力がほかの地よりも偏在しているがゆえに魔物も多く生まれる。それに魔力が弱まれば太陽が見えることもある。最近はめっきり起こっていないようだが、見れば冥土どころか来世の土産にできるなどいわれるくらいだ」
「シアンは別に自分の街が嫌いってわけじゃないんだね」
「俺はこの街に好きも嫌いもない。ただ、俺にはこの安らぎ程度の光が心地いいというだけだ」セレスにはこの言葉の意味がよくわからなかったが、発言の節々は、どこかで聞いたことがあるような感じがした。その正体がわかるのはもう少し後の話だが、ともかくセレスたちはラーヴァントから離れた場所にある月と海を眺められる断崖にやってきた。崖の奥に神殿のようなものがある。
「行くぞ。もうすぐだ」
断崖の神殿の奥には月光に照らされて美しく輝く体毛を持つ一頭の狼がいた。狼はセレスたちを見るなり、
「おぉ、待っていたぞ。我らが希望よ」そう語りかけてきた。
「待っていた?私たちが来ることを知っていたんですか?」
「まあな。ほかの者たちも疲れたであろう。見た通り碌にもてなしもできない場所だが、ゆっくりしていくといい」
「オオカミさん名前はー?ティキはティキだよ!」守護獣を前にしても一切スタイルを崩さないティキ。
「ふむ、不思議な子だな。私はセグノ。この街の守護獣だ」
「セグノさん!よろしくね!」
「おいお前!身勝手が過ぎるぞ。大体貴様らはいったい何なのだ!なぜ守護獣の力を持っている、答えろ!」
「落ち着きなさいシアン。魔物との戦いによる疲れが出ていますよ」
「くっ」
「それにこの者たちはほかの守護獣から力を授かったのだ。奪い取った奴らではない」
「まさか!それでは彼らが⁉」
「そうだ、そういうことになるな」
「どういうことなんだ?」
「よくぞ聞いてくれた風の力を授かりしエルフよ。今街の周辺で魔物が急発生しているのは君たちも知っているだろう。君たちには魔物を倒す手伝いをしてほしいのだ」
「...」セグノの言葉を聞いて顔を少しゆがめたシアン。
「私たちに魔物を?」
「そうだ。此度の魔物の大量発生。私は魔王によるものだと考えている。そこで守護獣の力を得た君たちにも力を貸してほしいのだ」
「どうして、魔王が関係していると?」
「ただの魔物ならそこまで考えはしないが、魔物たちの中には魔王の力を色濃く持つものが現れたのだ」
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